順調に進む
「それでは歩きましょうか」
「……はい」
穏やかな湖のほとりの整備された道を歩く男女2人は、はたから見ればデートの様相に間違いない。
ただ、トオリさんは湖側を落ち着いたマイペースで、オレはいつどんな試験が行われるのか、ビクビクと警戒しながら歩く。
歩く、歩く、歩く……どちらか口を開くこともなく、ただ黙って歩く。
時に波のない湖面を見ては歩みを進め、三日月のオブジェで戯れるカップルを見て、羨ましいと思いつつ歩き続ける。
そんな空気を若干気まずいとは思うが、極力『心眼復活』の手助けになるような行動は取りたくない。
ただひたすらに、面白くない人物でいればそれでいい。
……いや、でも待てよ。
今までの人も失敗してきたのだから、凡人のオレが何かできることってあるのか?
衣服破壊という衝撃を与えれば、怒りで覚醒するかもしれないが、まずオレが物理的にも社会的にも殺されそうなので却下。
ならもう、いっそのこと普通にしておけばいいのでは?
トオリさんも感情は恋愛ではないと言っていたし。
言い方は少し悪いが、オレの今後のための経験値として、逆にトオリさんで練習すればいいのではないだろうか?
今まで女性と2人きりになるのって、お嬢様ばかりで毎回ひどい目にあってきた。
しかしトオリさんは『復活』さえしなければ、普通の女性、しかもこちらの世界というより、元の世界の女性と大差ないのだ。
それに今のところ性格も穏やかだし。
「トオリさんって好きな食べ物とかありますか?」
ベタすぎる質問……オレの経験値のなさがよくわかる。
「ブロックタイプの栄養補助食品が好きですね。食べやすいですし、目が見えない時にもよく食べていました」
……やっぱり普通の女性と、ちょっとばかし感覚がズレているのか?
いや、きっと日本にもそういう女性はいるはずだ。
なんなら、高級レストランの、とかいう女性より好感が持てる。
あくまで高校生のオレ基準だけど。
「なるほど。おいしいですよね。
オレも忙しいときはよくそれを食べていたんですが、姉からは『もっとちゃんと食べなさい』と無理やり生野菜を口に突っ込まれたことがありますよ」
詩音は意外と健康にはうるさい。
全部ダメというわけではないが、家でカップラーメンを食べるときは、冷蔵庫から生野菜を取り出して、何もせずそのまま大量に乗せてくる。
なので、健康を心配しているのか、ただのいじめなのかの判断をつけづらい。
しかもその消費した野菜、オレが買ってくることになるんだが?
「へぇ。意外ですね。アイリさんはお肉ばかり食べてそうなイメージでしたが」
「あ……と、実はもう1人姉がいまして……」
ある意味本当の話だから、後でアイリと辻褄を合わせとかないと。
こういう異世界をほのめかす発言したと知ったら、ブチギレそうだし。
「そ、そうだ。好きな食べ物を前にして、目がない、なんて言いますよね。なーんて……」
「なるほど。目がない……」
……しまった……『心眼』に結びつけるワードはご法度だった……
誤魔化すためについつい口から出てしまったが、これぐらいなら他の人も話しているはず。
「確か、理性を失うほど心を奪われている状態、ですね。
これは恋は盲目に似た意味を持つかもしれません」
トオリさんはなにやら、うんうん、と納得しだす。
与えてはならないヒントを与えてしまったか?
いや、対象が人物から食べ物に向かったということは、オレが対象から外れるということだ。
この調子で人物から目をそらす作戦はどうだろうか?
「えと……あーと……」
名案だと思ったが、オレの学のなさでは他の例えが出てこなかった。
目が見えないって比喩、他になにがあるんだろう?
「コウキさん。今考えてくれていますね。
代わりになる言葉を。つまりそれは手探り状態や暗中模索、もしくは五里霧中など見通しが立たない状態。
つまり目が見えない状態。
いい。いいですよ」
「そ、それはどうも……」
もしかして好感度上がってる?
というか、そんな言葉がスラスラと出てくるのも凄いけど、この世界にもそういう言葉があるんだな、ってほうに改めて驚く。
「しかし、惜しいですね。
私も目が見えなくなる関連については、ある程度調べたので、言葉だけは知っているんです。
もうちょっと私を興奮、いえ『心眼』状態へと誘う静かな状態が欲しいですね」
「な、なるほど……」
とりあえずセーフか。
もしかすると一時的に好感度は上がったかもしれないが、これなら誰しもが思いつくベタな意見。
オレが標的にされることはないだろう。
それにしても、トオリさんは落ち着いた女性、ってイメージだったけど『心眼』のこととなると熱くなるな。
しかしこれで方向性は定まった。つまり何かに熱中させればいいんだ。
そうすれば『心眼』の手段となる被害者(?)にならずに済む。
「では、何か趣味はありますか?」
「趣味、ですか……そうですねぇ」
そう考え込むトオリさんは笑顔だ。
これが獲物選定中の目ですか?
困ったなぁ……




