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『デート』の方向性

 今まで感じてきた緊張感とはまた違ったものを感じつつ、バスは目的地である『オークツ湖』前のバス停に止まった。

 バス停は少し高台にあり、ここからは湖の全体が見え、かすかな風が湖面を揺らす。

 そして湖の周囲は遊歩道が設けられており、休憩所と思われるベンチでは、ところどころでカップルと思われる男女が仲睦まじそうに過ごしていた。

 そう、あれが普通のカップルだよな。

 オレのこれまでの人生で1度も味わうことのなかった、羨ましい光景。

 ……いや、正確に言えば周囲の男から見れば羨ましいと思われる経験はあった。

 ただその相手がお嬢様たちだったので、オレの心はズタボロで、ハーレム漫画展開になんてならない。

 そしてオレがこれから行うのは『心眼のトオリ、覚醒試験』という……

 オレの青春時代っていつくるんだ?

 それにしても、これからどんなことをするんだろう?

 要は、トオリさんの心を掴む、ってことだよな?

 嫌われる行為をするなら、歩いている途中で湖に向かって突き飛ばせば、そこで1発アウト。試験は終了だ。

 しかし目の前にいるのは曲者トオリさん。

 逆効果になりかねない。

 同じように、さりげなく見せる気遣いとか、優しさなんてものが正解なのか不正解なのかもわからない。

 ……とりあえず普通に歩くか。もう何を考えても答えなんて出ない。

 ただ1つだけ確実なことがある。

 『心眼』を復活させる、あるいは復活させるヒントになるような行動はダメだ。

 これは期待値を爆上げすること間違いなし。

 普通に考えて、人からの好意をぞんざいに扱うべきじゃない。

 けどトオリさんの話を聞く限り、相手は『心眼』のための『手段』でしかないんだよな。

 でもこれが妹系だったらどうだろう? それでも愛せるか?

 ……いや、そんな漫画みたいに都合よくはいかないか。

 あとはもう、選ばれないように祈るしかない。

「とりあえず目的通り歩きますか?」

「そうですね」

 バスから降り、オレは頭の中をフル回転させて作戦を決め、本来の目的に移る。

 バス停から湖の遊歩道までは少し長めの階段を降りることになる。

「以前だったら、この程度の段差は3歩で降りられたのですが、やはり不便になっていますね。

 今は踏み外さないよう、慎重に歩いています」

 トオリさんが自身で言うように、手すりをしっかり握るも、その足取りは若干おぼつかない。

「へぇ。オレがそんなことしたら、下についた時点で足の骨がバキバキになってそうですけど。

 その『心眼』って正直よくわからないんですが、身体強化魔法みたいな感じなんですか?」

「厳密に言うと違いますが、魔力を使って身体能力の強化を行うという意味では同じかもしれませんね。

 私の場合は魔力を纏って空気の流れを読むことで、周囲の情報を把握できていました。

 今ではそれもできなくなっているので、この段差も若干不安なんです」

「それって普通の人でも身につけられるんですか?」

 トオリさんの『心眼復活』の手段にはなりたくないが、その手の話には興味がある。

 身につければ仕事を簡単にこなせて、いっぱい稼げそうだし。

「どうでしょうね? コウキさんの目を潰して試してみますか?」

「……遠慮しておきます」

 ……こわ……やっぱり感覚がズレてんのかな?

「ふふ。冗談ですよ。

 さすがの私も普通の人の目は潰せません」

 つまり、普通じゃない人や敵対してた人の……あまり考えないでおこう。

「確かなことは言えませんが、普通の人なら『心眼』状態を習得するよりも、身体強化に力を入れた方が手っ取り早いと思います。

 私の場合は、魔力の行使そのものが現在不安定なので、日常生活では困りませんが、いざ戦闘になると全く動けないでしょうね」

「なるほど……」

 オレがイメージしていた異世界とは違い、この穏やかな世界で戦闘系の依頼なんて受けたくないなぁ……

 でもアイリやナカザワさんみたいな人に絡まれることを考えると、身体能力強化は魅力的なんだよな。

 でも教えてくれる人をしっかり選ばないと、地獄の猛特訓とか始まりそうだから、そこは慎重にならないと。

「さて、私のおすすめコースはこちらです」

 階段を降り、トオリさんが指差したのは、湖を正面に見て左側。森が見える方向だ。

 遊歩道は続いているが、その先が見えない。

 つまり危険な可能性がある。

「ダメです。絶対ダメです。こっちを歩きます」

 オレがトオリさんの意見を強く拒否して指差したのは反対側。

 ひらけた場所が広がり、先ほどバス停から見えたカップルポイントが多い。

 これはもちろんトオリさんといちゃつくためではなく、単純な危機回避。

 どうせ答えがわからない『デート』だ。

 たとえトオリさんに嫌悪感を抱かせたとしても、オレが無事帰る方向を選ぶ。

 それだけだ。

「ふむ……あちらの方がハナに頼まれた水棲植物を採取できそうですし、危険にも遭いそうなのですが……

 まぁいいでしょう」

 トオリさんは、全力拒否するオレの態度にも嫌な顔せず、むしろ納得した様子を見せる。

「相手に合わせることも重要かもしれませんし」

 ……あれ? 思ったほどセーフじゃなかった?

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