君の為にできる事
「いやだ、そんなの、俺は君を助けるって約束した。約束したんだ。」
「私は恋夜君の中に取り込まれる、大丈夫恋夜君の心の中で、思い出の中で生きていける。」
「いやだいやだいやだ!」
逃げ出しそうになる恋夜を前に、侑季の悲鳴が響く、葵が侑季の首を絞めて殺そうとしている。
「葵さん!!」
「選択の余地はないわ!恋夜君!今すぐ侑季を助けなさい。私はその為なら鬼にだってなれる。そうならないのなら、私の手でこの魔女を殺す。」
「そんなこと馬鹿げています!流星からも言ってあげてくれ。」
「……俺もお前に賭けたでも、悪いが、ここまでだ。負けたんだ。俺たちは、
彼女の命は救えない。受け入れろよ、俺らはガキじゃない、感情に流されるな。
でも最後の願いをお前なら聞き届けてやれるはずだ。
時間がない。俺も凛清が巻き込まれるくらいなら、会長に同意する。」
「そんな私利私欲で、最低な!そんなに簡単に友達を見捨てるのか!」
「最低なのはどっちよ。今までも平気な顔をして、魔女を消してきた癖に、今度は何、取りつかれた侑季よりも、魔女の方に感情が偏れば出来ないっていうのふざけないでよ。」
「それは、」
「あなたの手はとっくに汚れているでしょ。誰かを救うためにあなたはその手で誰かを殺したそうし続けてきた。葬儀屋と恐れられる程度には、」
「汚れてなんかない、恋夜君の手は!暖かくて優しい手、いつだって後悔とごめんって思ってくれてる。だから私は怖くない。お願い、恋夜君。私を恋夜君の中に、最後のお願い。」
恋夜の助けを求める声に応えるものなど誰もなく、時が迫りゆく、
恋夜は彼女の手を引きこの場から逃げ出したいでも、彼女の体は薔薇と一体化している既に境目はない。だからと言ってこの場で彼女を守り続けられるか、
それも無理、いや出来たところで、何になる、彼女の願いをかなえることは多くの命を奪う事になる。
「こんなの間違えている。」
「だったら、正しい道を示しないさい。あなたの傲慢な選択を、私はその理の全てを否定してあげる。」
「恋夜君、お葵ちゃんを、本当の侑季ちゃんを救ってあげて、一生に一度の私のお願い、聞いて、大丈夫、私はどこにもいかない、ずっと恋夜君の中にいる、お願い、恋夜君と一つになりたい。」
「少年。時間がない、これが最後のチャンスだ。」
迷いのない無数の瞳、既に恋夜自身に選択肢などなかった、あるのは彼らのせいにすることと、彼女が心から望んだこと、自分の行動の理由を他者に押し付ける事だけだ。
恋夜は侑季の前に座りその手を額に当てる。
「君の全てを奪うことになってごめん。」
「いいわよ、それで、私はね、昔からいい事なんてなかった。
でも、私、後悔なんてないよ。ただ心配なのは恋夜君。
今回の事で誰も恨まないで、葵ちゃんも、皆も悪くないから、それと、イロハちゃんにごめんなさいって言ってもらっていいかな。」
「最後に一つだけ教えてください。どうして僕なん、僕を好きになってくれたんですか?」
「……私の記憶を奪えば分かることでしょ?」
「侑季さんの言葉で聞かせてください。」
「昔ね、私は今でいう奴隷だった。私の生きた時代は今よりずっと文明の進歩した世界。私はその世界の奴隷だった。でも、ある日一人が家畜同然だった私を買ってくれた。その人は王族の人で、私に色々教えてくれた。本当の家族みたいに、
文字を教えてもらった、勉強も、音楽も、愛情も、この魔法だってその人からもらったもの、そして最後には滅びゆく世界で自分の代わりに私を賢者の石に、
次の世界では幸せになれる様にって、
似てたの恋夜君その人に、卑怯かな、誰かの代わりって」
「分かりません。でも、それでも僕は嬉しかったです。」
「そう、ありがとう、でも私もね、変わりじゃなくて恋夜君の事ちゃんと好きになれたよ。」
「侑季さん、俺も侑季さんの事が、」
「それ以上言わないで、きっと後悔になる。それに分かってるから、恋夜君の気持ち。
ありがとう、イロハちゃんの事泣かせちゃだめだよ。それじゃ、おやすみなさい。」
何度もごめんと繰り返しながら、恋夜はその力を使う。
心にあるのは絶望と後悔、そして何より自分の無力さ、
もっと自分に力があれば、もっと自分が世界を犠牲にしても彼女を守る覚悟があれば、
選択肢はいくつもあった、彼女を救う機会だっていくつもあった。
契約が嘘だと言っておけば、もっと彼女の気持ちに素直に答えられていれば、
彼女の中にいる本当の侑季さんの事にも気づかずにその犠牲のもとに幸せになれた。
彼女に触れ力を使うほどに、彼女のやさしさと思いに触れるほどに恋夜の心が壊れていく。
「ユウキ=エルシュベル=アンデ=アリス!最後に応えなさい!なんで契約の力で私を従わせなかった!どうして私を殺さなかった。」
「だって、葵ちゃんは私の一番の友達だもん。そんなことできるわけないでしょ。
……本当の侑季のことよろしくね。葵ちゃんにしか頼めないから」
その言葉に葵は何も答えず、ただ、ユウキが消えるのを見守っていた。
言われるまでもない、葵は自分自身を戒めるかのように、最後まで表情を変えなかった。
そうして月夜に開こうとする花は散り、ただただボロボロになった町と人、そして天に向かって叫び続ける壊れた葬儀屋の慟哭だけが明け方まで続いた。




