それから 私たちの生きる街
そして3か月後
あの事件から3か月が経ちました。
侑季ちゃんの起こした事件はから揚げさんたちの情報操作により、首謀者不在のまま処理されました。
首謀者不明。本来それで許されるはずはないことでしたが、魔法協会にとってはそんな事よりも、から揚げさんたち『咎人の桂冠」の出現がより大きな事件でした。
世界を管理しているはずの古代の人達を本当に滅ぼすかもしれない相手が明確に現れ、
それが大見得を切って宣戦布告をしてきた。
魔法世界には激震が走り、続けざまのから揚げさんの古代の人たちへの強襲は魔法協会の中核たる神託委員会に、命の危険性を感じさせる事態となりました。
その結果、この事件は事の発端に過ぎず、現在も続くから揚げさんたちをどうするか、
という事にのみ重点が置かれて今に至ります。
とは言え、それですべてが丸く収まったわけではありません。
多くのけが人、家を失った人、多くの傷を残すことになりました。
中でも恋夜さんの心の傷は大きく、後悔と自責の念で周りの物を傷つけ、自分自身を傷つける行為が止まりませんでした。
から揚げさんはここで終わるならその程度だ、俺の軍にはいらんと吐き捨て去っていき、
黒薔薇姫さんとえび天さんはガキの甘えだと馬鹿にしました。全く以てひどい人たちです。
でも、だからと言って、私たちに何かできるわけでもなく、私やヒナギクさんの言葉も届かず、今までの恋夜さんは、見る影もなく変わってしまいました。
でも、夢の中に出てくる侑季ちゃんの声、幻覚であるその声を自分の都合のよい妄想ではなく、本当に自分の中にいる侑季ちゃんの言葉としてとらえる事で、少しずつですが恋夜さんは今までの恋夜さんに戻ってきています。
最近では学校にも出てきて、何とかやっていけています。
ただ、暇さえあれば夢を見ようと眠りにつくことが多く、元同室の流星さんからすれば心が壊れて、何とか、妄想で現実を繋ぎとめているだけだ、と。
恋夜さんにとって、侑季ちゃんを過去の事として受け入れることは未だにできていません。
今日はそんな恋夜さんから話がしたいとここに呼び出されました。
立ち入り禁止区域。バベルの屋上
「正直に言います。俺、侑季さんの事好きでした。」
「うん、知っている。今でも好き?」
「はい、この世界中の誰よりも、でも、このままじゃいけないっていう事分かっているんです。」
「つらいなら忘れたいって思ったことはない?自分自身の力で、」
「思う事はあります。僕は会長のように強くはありません。」
あの事件の後葵会長は、今までの記憶を消すことを拒絶した、この憎悪も、この悔しさも全部自分のものだと、誰にも渡さないと。その全てをもって、子供の頃の記憶しかない侑季を支えていくと、その最悪の記憶がなければ侑季ちゃんを支えていけないと、
会長は、恋夜君にありがとう。そう伝えたそうです。
「でも、もう駄目だよって言われました、いつまでも私に頼るのは、恋夜君は生きているから、前を向いて生きていかないとって、それからです。夢でも侑季に会えなくなったのは、それが2週間前。
何とか会えないかなって、今まで努力してみましたが、やっぱり、だめでした。
それに、あの日から僕の記憶の喪失はどんどん早くなっていっています。
このままじっとしているといつかは、そう遠くない未来。僕は侑季さんの事さえ忘れてしまう。彼女の夢が見れないのはその予兆だと思います
僕は侑季さんの事を忘れたくない。それに彼女が望んだように、僕は生きていきたい。
当たり前の幸せを当たり前として享受できるように、あの日彼女は、僕に見せてくれました、夢見た理想の先の人生を、僕はそれを現実のものにしたい。
だからイロハさん、それに、そのアステリアさんには力を貸してほしい。
僕のこの力が何なのか、思い出を失わないために何か方法はないのか」
「アステリア様だ。このガキが、なんだ、今までメソメソしてこの根性なしが」
「!」
「って、アステリアちゃんなら、言うでしょうね。」
「あのアステリア、様は今。」
「私がアステリアで、私がイロハ。もうその境界線はないです。ただ、今はアステリアちゃんの要素が大人しくしているの、疲れたって、」
「だいぶん、イロハさんそのもののままに見えますが、」
「そう、これでもだいぶん影響受けてますよ。自信過剰で、後意外と言葉遣いも荒くなったし、怒りっぽくもなりましたよ。」
「それはあまりいいことでは、」
「それに、昔ほど恋夜さんの事好きじゃありません。」
「!!」
「侑季ちゃんの次にすぐに私に乗り換えられると思いました?甘いですよ。
恋夜さんの事は心配ですし、男の人の中ではマシな方です。でもそれだけです。
あの時より私の世界は広いですし、実はこの3か月の間に友達たくさんできたんですよ。
色恋沙汰が全てなんて見識の狭いことは今は思っていません。私は自立した女ですから、
そうですね。私の事を好きになりたいのなら、まずは自分の足で前に進める様になってください。それが条件です。」
「別に自分はそんなつもりじゃ。」
「嘘つき、心を読まなくても顔を見ればわかります。甘えたかったんでしょ、それが甘いんです。さ、立ってください。侑季ちゃんの為にも前に進みましょう。
恋夜さんのその力が何なのか探っていきましょう。」
「ぼ、ぼくは初めから、そのつもりです。本当にそれだけですから!」
「はいはい、分かっていますよ。」
私は立ち上がり、恋夜さんを連れて歩き出しました。
やっと前に進んでくれる気になった素直にその事は嬉しいことだと思いました。
「あの、恋夜さん、最後に一つ、聞いていいですか?」
「何でしょうか?」
「もし、恋夜さんの力が何なのか分かって、その奪った記憶がどこに行くのか解明できたとして、その記憶の中から侑季ちゃんをもう一度この世界に呼びだせるとしたら、どうしますか?」
「答えは決まっています。例え、この世界を滅ぼすような対価を支払っても僕は侑季さんにもう一度会いたい、どんな罪を背負ってでも、イロハさんやから揚げさんを敵に回してでも俺はやり遂げます。それが人間、日内恋夜の欲望です。」
「そっか、それでもいいかな、生きる目標ができてくれて、でももし、本当にそうするつもりなら、私恋夜さんの事止めますから」
その瞳は本気だという事をすぐに理解できた。
「その時はよろしくお願いします。でも、ま、とりあえずはしばらくはこの町で葬儀屋業の再開ですね。」
「魔女を襲うんですか?」
「場合によってはでも、それ以外にもこの町には魔法を悪事に使う人がたくさんいます。
まずはそこから始めます。僕のやりたいことは誰かの役に立つことだから」
作り笑いで恋夜は笑う、作り笑いでもできるようになったのなら、本当に少しは良くなってきているのだろう。
屋上を降り、私の部屋まで送ってくれる恋夜さんは、女子寮階に向かう螺旋廊下で突然、目を丸くし、足を止めた。その目線の先にある物を追いかけるように私も視線を移します。
そこにいたのは我が子を守るために敵意を向けるかのような葵会長のキツイ目線と身長は変わらないのに、おびえる様に会長の影に隠れる本当の侑季ちゃん。
会長の敵意は侑季への悪影響を心配しての敵意
「もう、良くなったの。」
「……はい、おかげさまで、」
一瞬動揺するが、理屈で感情を押し殺し、冷静に返答をする
「そう、それはよかったわね。」
会長は、ただそう冷たく言い放つと侑季ちゃんを連れていなくなりました。
侑季ちゃんは知らない人を見る眼で恋夜さんを見ていましたが、恋夜さんは決して目を合わせようとはしませんでした。
分かっていても同じ姿、似た雰囲気を持つ彼女は今の恋夜さんにとっては、理屈では完全に処理できないものがあるのでしょう。
でも、なれていくしかありません。ここでこれからも暮らしていくと決めたのだから
「あの人葵ちゃんの知り合いの人?」
「そうね、一応は、」
「……」
「どうかしたの?」
「ううん、でも私、あの人とどこかであったような気がする。」
「気のせいよ。知らない人」
「ウサギさん」
「!」
「ううん、何でもない。急ごう、葵ちゃん、TV始まっちゃう」




