選択
「ようやくお目覚めか、遅いぞ馬鹿が!」
バベルの塔の最上階、茨で覆われ、頭上の大きな花が今にも咲こうとしているこの場所で、
侑季に操られている魔法使いに拘束された流星が恋夜に嫌味を言う。
「すみません、意識を失っていました。それより侑季さんは、」
「恋夜君に出会った時から私はユウキ、ユウキ=エルシュベル=アンデ=アリス。
彼女も私も臆病な、怖がりの人間。だから誰も入れ替わっていることに気づかなかった。」
恋夜の前に現れたのは茨と同化した侑季、体の一部が茨そのものとなっている。
「侑季さん、お前、その姿」
その侑季の姿に流星は言葉を失う。
「いつからだ、俺や凛清に初めて会った時もか」
「最初からよ。葵ちゃんが侑季ちゃんに謝っていたあの時からずっと、
私も生きたかった、悪気があったわけじゃない。でも、結果的に私は、体を奪った。」
「それじゃ本当の侑季さんは?」
「長い時間の中で、私は彼女の事を認識できなくなった。今はどうしているか、」
「でも、お前の中にいるかもしれないんだろ、だったら返してもらう。私の侑季を!」
「葵会長!」
どこから聞いていたのか葵は問答無用で、侑季を茨ごと引っ張り、地面にたたきつける。
侑季の悲鳴を物ともせず、その表情は正しく鬼、絶望的な憎悪をもって馬乗りになる。
「葵ちゃん、」
「気安く私の名前を呼ぶな!よくも、よくも今までだましてくれたな!!」
「葵会長!待ってください!」
「動くな!少しでも動いてみろ、君たちも無事では済まないぞ。」
葵に呼応するように、茨の間から無数のレーザーポインターがこの場を支配し、警告のつもりか恋夜の足元に銃弾を撃ち込む。その容姿から見てから揚げの仲間だ。
道中、葵との利害が一致し、この場所までともに昇って来た。
言葉の通じない、侑季の力に操られている魔法使いたちは問答無用で打ち抜かれている。打ち込まれているはレジストマジック弾、最新鋭の退魔の技術だ。
明らかに手馴れて無駄がない。
茨の隙間からレーザーポインターは見えるが、彼らのいる場所が把握できない。
「っく、会長、それは侑季さんの体なんですよ!」
「そうだ!侑季の体をこんなめちゃくちゃにして!返せ、今すぐに、侑季を返せ!!!」
「葵ちゃ」
侑季が葵の名を呼ぼうとすると、葵はその甲冑の鋼鉄の拳で侑季の言葉を遮った。
「もう一度私の名前を呼んでみろ!殺すぞ!!」
「葵会長!やめてください!侑季さんが!死んでしまいます。」
「黙れ!これは私とこの化け物の問題だ!」
葵はさらに容赦なく鋼鉄の拳を叩き込む
「よくもやってくれたわね。私がどんな思いで今まで生きてきたか、私がどんな思いでこんな姿に、それを見てあなたは馬鹿にして笑っていたんだな!」
「違う、私はそんな、」
「何が違う!あんたは私を利用した!わたしの罪の意識を利用した!侑季から体を奪っておきながら侑季であるかのように私をだまし続けた!あんたのせいで私がどれだけ苦しんだか分かる!あんたのせいで私がどれだけ傷ついたか、」
「ごめん、でも私そんなつもりは。」
「だったらどういうつもり!言ってみなさい!」
「私はただ葵ちゃんとは友達で、」
「ふざけるな!!!」
「あぁ!!!」
葵の拳は侑季の華奢な腕の骨を砕いた。その瞬間同じ痛みが葵を襲う。
魔女の契約、だが、葵はその全てを意志の力でねじ伏せる。
「侑季さん!葵会長!やめてください。それ以上やると、流石に俺もキレますよ。」
「勝手にキレろ!それがなんだっていうの!聞いたわよ。あんた葬儀屋って呼ばれる魔女狩りなんでしょ。だったら早く殺しなさいよ、ここにいる魔女を」
甲冑の仮面が悪とそこには血塗れの葵の顔が、侑季を傷つける事で彼女も傷つく、だが、それでも葵の怒りはわずかにも鈍らない。
「それは」
「出来ないわよね。」
「そうよね、あんたはこの魔女の味方だもんね。何?体でも使われて、惚れたの?汚らわしい、侑季の体を使って!」
葵は憎悪をぶつける様に、その鋼鉄の手で侑季の頬を打つ。
その手に容赦はなく、侑季の頬は内出血を起こし、鼻血が。そしてそれは葵も同じ
「へぇ、魔女の血も赤いんだ。そうよね。それは侑季の血だもん。あんたのもんじゃない」
「葵会長!!!」
恋夜は感情に任せ、葵に飛びかかろうとするが、警告通り無数の銃弾が恋夜の四肢を貫き、恋夜の自由を奪う。それでも恋夜は侑季に這いながら近づき、止まることのない、葵の憎悪の暴力から侑季をかばう。
「恋夜君!」
「大丈夫ですか?侑季さん」
「退きなさい!」
「退きません!会長、冷静になってください。」
「うるさい!どけ!!」
「止めて葵ちゃん!恋夜君に暴力をふるうなら私も許さない。」
「あんたなんかに許してもらう事なんて何もないわ。あぁ、そうか、こういう感情か、あの人の感情。大切なものを奪うって」
葵の心に黒薔薇姫の姿が思い浮かぶ。
「今の侑季さんは、会長が守ろうとした侑季さんじゃないかもしれません。
それでも今まで積み重ねてきた時間に嘘はなかったはずです。
写真見せてもらいました、楽しそうにしていたじゃないですか、大切に思っていたんでしょう。だったら」
「その全てが腹立たしいの!私は侑季の為に生きてきた侑季が望むなら何でもするつもりだった、それは私の贖罪。だからこうしてこんな姿になっても私は侑季の願いをかなえようとした、魔女になって変わっていっても侑季がそれを望むのならそれを受け入れるつもりでいた。でも違ってたのよ!最初から全部!!あなたに分かるこの気持ちが!!返して、侑季を返してよ。」
葵の涙が恋夜と侑季の顔に落ちる。
「ブラックナイト、悪いが急いでくれ、あなたとの約束はこの事態の収束。ボスとの連絡が取れない以上、作戦は俺たちで完遂する必要がある。あなたはそれができるといった。だから私たちは力を貸した。ここでこれ以上感傷的になるのなら、私たちのやり方を貫かさせてもらう。」
「分かっているわよ。殺せばいいんでしょ。」
「殺すって、会長!」
「止めるんでしょ、世界の為に、今のこいつの姿を見ても分からないの?
この魔法自体が、こいつそのもの、最初からそういう魔法なんだって。
だからさ、止めるにはこいつを殺すしかないの。」
「侑季さん!」
「ごめん、本当の事。私もこの魔法を止められない。これはそういう魔法。私には才能がなかった。だから私はこうするしかなかった。体がなくなっても魂さえ、恋夜君さえ、」
「そんな、なんで、」
「ごめんなさい。でも私どうしても、救いたかった。私の我儘、」
そう言って侑季は笑い、恋夜をどけて、葵に向き合う。
「殺されても仕方ないと思ってる。今までだましててごめんなさい。でも、葵ちゃん最後に一つだけお願いを聞いて、」
「聞くと思う?あんたなんかのお願い。」
手が震えながらも、葵はゆっくりと侑季の首に手をかける。
「もしかしたら、侑季ちゃんに体を返せるかもしれない、それに魔法も止められるかも。」
「あるわけないでしょ、そんな事」
「私にはできない。でも、」
侑季は視線を恋夜に移す。その瞬間侑季が何を考えているのか侑季には理解できた。
「い、いやだ。そんなの僕には、」
「この体から私を引き離す事ができないのは私の事を私として認識していなかったから、今私が魔女だと知った恋夜君ならできるはず、魔女狩りの力で私を、」
葵の目が希望をもって恋夜に向けられる。
「嫌だ、そんなの、俺は、」
「私がいなくなれば、この魔法も止まる。そうすればきっとこの体を返せる。私と侑季ちゃんは別の存在として存在している。最初から一緒になんかなっていない。
だから、恋夜君にはできるよ。」
「嫌だ、絶対にそんなことは、他に方法がある、絶対にあるはずだ。」
「ううん、それしかない。恋夜君。これは罰。私のしてきたことの報い。でもこれは私の願いでもある。ここで葵ちゃんに殺されるのでも、あの人たちに殺されるのでもない。
私の愛した、恋夜君に終わらせてほしい。お願い。」
「恋夜君、やりなさい。侑季の為に」




