彼女の秘密
「……」
「どうかした?」
「……」
TVを見ている恋夜は一瞬映ったノイズに違和感を感じていた。
「TV消すね。」
「待って!」
何だろうこの感覚、今の映像、誰かが闘っていた。誰だ?知っている気がする。
何かが引っ掛かる。だが、そのノイズの映像はその後も何度も映し出される。
それはイロハとから揚げの戦いの様子。
そうして、イロハの顔が映った瞬間、恋夜は全てを思い出した。
「ここはどこですか侑季さん。僕の夢の世界ですか?それとも、これが侑季さんの夢、」
「何言っているの、あなた、変よ。テレビ消すね。」
テレビの電源を消すそうとする、彼女の手を恋夜は力ずくで止める
そうして次の瞬間、二人の最後の衝突の衝撃波がこの空間を襲う。
あまりに強すぎるその衝撃波は、この空間さえも一瞬はぎ取ってしまった。
恋夜の目に映った現実、ここはバベルの塔、そして今いる世界は夢の世界。
「恋夜君、」
「侑季さん。戻りましょう、僕たちの世界へ、」
白髪が混じり、年老いた恋夜は、みるみる若返り、服装もスーツに戻る。
もう、通用しない、恋夜が自分自身のあるべき姿を認識した。
「ここにいればもう気にしなくていい、皆優しい理想の世界。」
「でも、現実じゃない。それに沢山の人の犠牲の上に成り立っている。」
「花の一部になった人の事を言っているの?それなら心配しなくていい、皆自分が見たい夢を見ている、醒める事のない夢、それはもう現実と一緒、みんな幸せでいられる。何が不満なの、いいじゃない。このままで、恋夜君は私だけを見て」
『ねぇ、お父さん。行かないで、』
『そうだよ。私たちを見捨てないで、私たちはここでしか生きていけないの』
「桜、蔵人、ありがとう。僕の夢か、侑季の夢か、夢、幻だったかもしれないけどそれでも大切な思い出をありがとう。それでも、僕は戻るよ。侑季さんを連れて帰る。」
「どうしていいじゃない!何が不満なの!」
「不満なんてないよ。でも、皆が待っている、僕をそして何より侑季さんを、このままじゃ、から揚げさんに殺されてしまう。」
「ここでは時間の概念は関係ない。刹那の時を永遠にだってできる!」
恋夜は静かに首を横に振る。
「侑季さんを守るって言ったよね。君を魔女になんてさせない。」
恋夜は手袋を外し、侑季の頭に触れる。
「止めて恋夜君。こんなの間違えている」
「そうかもしれない、でも、」
「あの女ね。」
「あの女が恋夜君を縛る。契約の烙印で、もう少しで、もう少しで、恋夜君を助けられたのに、この世界でさえ縛り付ける。この夢さえ醒めなければ恋夜君は自由なのに!」
「僕を助ける?」
「魔女の契約は重い。一度契約すればその命は囚われる。どんな絆よりも強い絆。
それがある限り、恋夜君は一生、ううん、永遠にあの女の物。恋夜君の命も魂も、自由はない。でもここなら、この世界なら、その呪縛の影響もないと思ったのに、」
恋夜を助けたい、それが彼女に境界を越えさせた最後の一歩。
自分の中にある彼女の植えた種を通じてそれを感じることが出来る。
ただひたすらに自分の為に、その為に彼女はこの未来を選んだ。
「僕の為にこんな事を」
「それを見るたびに私は恋夜君は誰もの物でもない、私が助ける、今度は私が、」
「ごめんなさい。侑季さんには本当のことを言っておくべきでした。」
恋夜は胸元の契約の印を撫でると契約の印は滲む。
「僕は契約をしていません。最初から僕は自由です。」
「そんな、それじゃ、恋夜君はやっぱり心からあの女の事を、それじゃ私は、」
侑季は突然笑い出し、その眼に涙を浮かべる
「何よそれ、私、馬鹿みたい。最初から私の事は、」
「そんなことはありません!僕は、」
侑季の心が不安定になるのに呼応するように、世界が揺れ出す。
「とにかく戻りましょう、大丈夫。魔女のせいで不安定になっているだけです。
ゆっくり話しましょう。」
そういうと恋夜は精神を集中する。だが、
「……どうしてだ、どうして魔女が感じられない。」
「感じられなくて当たり前だよ。私は最初から魔女だもん、」
次の瞬間、恋夜は現実の世界に戻された。




