ギャラルホルン 王者の覚醒
空を覆う雲は二人の波動の前に吹き飛ばされ、それは満天の星空と煌々と輝く月だけが二人の行くを末を見守っていた。
一撃必殺でありながら、互いの力は拮抗し、一撃さえも与えることができない。
だが、この戦い長くは続かないことは目に見えていた、
疲労困憊の無限ともいうべき魔力の底が迫るアステリアに対し、から揚げは笑いながら戦いに臨む。純粋なる喜び、から揚げはこの戦いの中で過去の全てが停滞であるかのように、恐るべきスピードで成長している。力が拮抗しているのではない。殺さないでいるだけだ。
「はぁはぁはぁ、何故だ、貴様は人間だろう。人の領分、人の力をこうも容易く、」
「人間は守る者があれば強くなれる。家族の為、子供の為、友の為、国の為、
俺は世界のために戦う、俺の敗北は世界の敗北だ!」
心の底からその言葉を口にできる。だからこそ、彼の戦友は彼を信じた。彼に付き従った。
「終わらせるぞ、魔道の王。この後あの除草作業も残っているんでな」
そう言い、から揚げはアステリアの次元断層の力ごと吹き飛ばした。
決して力が完全に戻っていないだけ事が理由じゃない。この男は私よりも強い。
「全身全霊をかけて、乾坤一擲の一撃ぞ。」
から揚げの全身が漆黒に光だし、地から天から、あらゆる場所から彼に魔素が流れ込む、彼を依代とし、力そのものが顕現する。
死、絶対的な存在であるはずのアステリアがそれを感じている。
肉体だけではない、魂、さらにその先にある命を規定する根源さえも消し飛ばされる。
目の前にいるのは自分自身の天敵だ。破壊の神がいるのならきっとこの男だ。
もう、何をしても無駄だ、今の自分ではなす術がない。
「イロハ、悪かったな。死ぬ為だけなら、こんな事に巻き込まなくて良かったな」
『諦めないで、一人じゃダメでも、私がいるから、』
「お前に、何ができる」
『できるよ。一人じゃダメでもアステリアちゃんとなら、それにから揚げさんが世界を守りたいように、私もを守りたい。数や大きさじゃないよ。思いはそんなものじゃ測れない。』
「……お前の好きにしろ。くれてやる私の全てを、後はお前が思うようにやってみろ」
「消えろ魔道の王よ。」
数メートルの幅を持った漆黒の太刀がイロハを切り裂こうとその眼前に迫る。それに対抗する様に、青い光が太刀を受け止める。その二人の最大限の衝突は今まで以上の衝撃波となって、この島をゆっくりと伝わっていく。だが、程なくして、その青い光は黒い光を飲み込み、ゆっくりと青く染まり、そして消し去っていく。二人を包み込み、青い光は淡く光ながら鼓動をするかのように小さくなり、数メートルまで小さくなるとそれ以上は小さくならず、辺りに静寂をもたらしていく。
「理解し、同化すればその力も怖くない。互いを理解し、繋げる事ができれば、世界は世界を飲みこまない。理解と対話、調和による力。憎悪と愛は裏表、破壊も創造も、この世界に相容れないものなんて存在しない、全てが混在し、共存する。」
一歩一歩近づいていく、イロハに再びから揚げは力を使おうとするが、力を使う事が出来ない。不思議な感覚だった、確かに力を使っているはずなのに、
「消したんじゃありません。ここにあるんです。当たり前に、だから特別なことじゃない。」
「……お前、誰だ。」
「アステリアちゃんの知識と、私の理解、新しい魔素も、古い魔素も、全部を一つに、全てが混じり合う。混沌と調和は同じくあるべき様に、その暴力で私を殴りますか」
「…それでどうなる」
「出来ないですよね。敵対心のない、争う機のない女の子をあなたは殴れない。
私はあなたにとって守るべき対象だから。」
イロハが優しく触れるその手を、から揚げは払いのける。
「敵意がなくとも、邪魔をするなら同じだ。俺は止まらない。邪魔をするな。そうすれば、あんたの身の安全は保障してやる。あんたの中に何がいようとな。
青い瞳と黒い瞳、青い髪と黒い髪。まるで阿修羅男爵だな。」
「ここから出せ。どうすれば出られる。」
「何を試されても構いません、ですが力づくでは無理だと思います。」
「このままただ指をくわえてみていろと、」
「信じてください。恋夜さんを、そして皆を、みんな侑季ちゃんを助けたいだけなんです。」
「これだけの事をしておいて友を助けたいなど、自己中心的な。」
「だからと言って友達を見捨てられません。」
「友の為と言えば何でも許されると、同胞の為なら許されると」
「そんな風には思っていません。でも、見捨てられません。只今は助けたいだけ、お願いです。悪いようにはしません。信じてください。」
「感情論を、だが分かった信じてやるよ。ただし、俺の仲間をな。」
「?」
「お前が仲間を信じる様に俺もあいつらを信じている。作戦は遂行中だ。
あいつらはやり遂げる。心に修羅を持ち、個を超えた意志を持っている。」
「?」
「ただの人間だと見下すか、あぁ、そうだ、あいつらはただの人間だ、魔術師ですらない。
だが、あいつらは人間だ。痛みを乗り越え、強くあらんと願った人間だ。
家族を魔術師どもに殺された、不条理に、理不尽に、
それでもなお、あいつらは生きている、生きてなお、自らの使命を全うしようとしている。
同じ悲劇を生み出さないようにと身を焼く復讐心を俺に預け、理想の為にその身を捧げる。だからこそ、俺は彼らに敬意を持つ、彼らを信じることができる。
俺たちはただの剣に過ぎない。替えならいくらでも効く。
ただ、俺という剣がよく切れるそれだけだ。
俺がお前と戦っている最中にすでにタイムアップだ。それは俺が作戦を遂行できない不測の事態。その時点で次の作戦に切り替わっている。あの塔の中には俺の仲間が潜入している。俺の仕事はお前という不確定要素を排除する事。」
その言葉の意味を理解した。彼がはったりを言う人間ではない事も理解している。
彼がやると言った以上、彼の仲間はやり遂げる。どんな犠牲を払ってでも、
「恋夜さん!」
「どこにもいかせはしないさ。お前がそうであるように、俺にだって譲れないものがある。」
から揚げは強くイロハの腕を握る。
「お前の中の魔女は俺を砂上の王と称したな、確かにその通りだ。誰も俺と同じ視点でものは見えない。誰も同じ価値観を持てない。誰も俺と同じ速さで歩いてはいけない。
でも、同じ方向には歩いていける、理想にたどり着くのは俺一人じゃ意味はない。
王とは犠牲だ。ただそれだけ、この命ならいくらでもくれてやる。逃がしはしないさ。」
強すぎる意思、でも、空虚だ。イロハはアステリア同様に彼という人間に恐怖を感じる。
この状況において自分にできる事、……恋夜さん、お願いします。




