成長
一方残された流星は、初老のメガネのおおよそ軍人とは思えない男から飛行ルートの伝達を行なわれていた。
恋夜は気持ちを落ち着ける様に、雲に隠れたバベルの塔の上層階を見つめていた。
「女の子を口説き落とすのにその恰好はないね。ほら、」
一緒に行ったと思われたヒナギクと小太郎がそんな恋夜を気遣うように声をかけ、紙袋を手渡す。紙袋の中身は、よくなじんだ黒色の服。
「それは俺の仕事着、縁起悪いですよ。」
「でも恋夜が持っている正装はこれだけ、ネクタイだけ俺チョイス。」
新品の綿手袋で真っ赤なネクタイを締めるそして感じるいつもと違う感覚。
「ヒナギク、これ、」
「施術を施してある、体の内側の呪いにどこまで対抗できるかは分からないけど、多少なり外からの影響は抑えられるはず、」
「ありがとうございます。」
「何だ。馬鹿丁寧に、ちゃんと無事に侑季ちゃん連れ帰ってくるんだよ。
親としてまだ正式に紹介されていないだ。あんたの彼女に」
「……彼女じゃないですよ。」
「なんだい、この期に及んで、」
「まだ告白もしていません。」
「イロハ姉ちゃんの事もあるしな、」
小太郎の言葉が胸にぐさりと突き刺さる。
「イロハさんがどう考えているか分からないけど、結論出さないといけないんだよな。」
「人間社会の道徳に従うのなら、それとも二人に不満なく愛せる自信でも?」
「モテるような男にはなりたいかな、でも、それはキャラじゃないし、でもまずは、侑季に会って話さないと魔女を切り離す。すべてはそれからだ。」
「おい、恋夜、行くぞ、状況が変わる前に超速で送り届けてやる。振り落とされんなよ」
流星がたたきつけるように箒を投げ、あたりに風が巻き起こる。
「分かりました、すぐに」
恋夜が走っていくのを見送るとヒナギクは勝手に彼らのテントから誰の物とも知れないウイスキーを拝借し、自前の盃に注ぎながら、登っていく二人を見送る。
「恋夜は困っている人がいたら助けずにはいられない。
ただ当たり前の幸せを誰もが手に入れられるように、恋夜の怒りの根幹だよ。」
「どうしたの突然、感傷的に」
「恋夜はね、自分の事を不幸だなんて思ったことがないんだよ。
どんなにつらいことがあってもそれあ当たり前の事なんだ。
幸せの方が異常だから幸せを怖がり、いつも心の中で線を引く。」
「失うのが怖いんだよ。恋夜は、どんなものも永遠だとは思っていないから。」
「無為に生まれて無為に死ぬ。悲しいね。嫌われて当然、自分が犠牲になって当然。
許可をください。僕が役に立てる許可を。誰かのために、恋夜の欲は祈りだ、許可だ。
自分の居場所をこんな自分でも役に立てる場所を、」
「そうして選んだのが葬儀屋さんだった。死んだ人の記憶を少しでも知れれば残された家族の救いになるかもしれないって、でも死に寄り添うには、恋夜は若すぎる。」
「そうさね、でも、彼女らにあって、あの子も変わった。嬉しい限りだよ。
どんな結果になろうと、あの子が自分の意志で、自分の為に、誰かを救いたいって、
見返りを求めて、あんなに必死に」
「それはいいことなの?」
「親にとっては嬉しいものさね。自分の幸せを考えてくれるのは、確かに誰かの為にってのは立派なことさ、そしてそれを行動できるのは凄いことだよ。尊敬されることだよ。
でも、だからって、自分が犠牲になるのは望んじゃいないよ。あの子の本当の母親も、」
「会ったことないのにわかるの?」
「会ったことなくても分かるさ、自分の命を投げ出してでもあの子を守ろうとしたのさ、
あの子に幸せになってほしい、親の願いはいつだってそれだけだよ。」
「ふーん。ま、こんなところで死ぬタマじゃないよ。俺の弟だし。」




