学園生活3
葵主導で行われた二人を歓迎するための散策+ウインドウショッピング。
のはずだったのだが、
「……何ですか?言いたいことがあるならはっきり言ってください。」
「い、いや、別に変じゃないぞ、全然、むしろかっこいいぞ、年相応に、」
「じゃあ、流星さんも同じ格好をしますか?」
「い、いや俺は、いい。せっかくだけど。」
「何なんですかこれ、首から意味のない首輪されて、」
「いやそれ、ネックレスだから。」
「これ3000円ですよ。こんなわけのわからないビーズと人工革の紐で、」
「ま、まあ、そういうもんだし。」
「それに頭にノリもつけられて、それになんですかこのTシャツ。なんでこれが5000円もするんですか!ユニTの半額セールのアメコミ柄が8着買えますよ!」
「まぁ、ブランドものだし、お前の金じゃないし、あと、ワックスな」
「そういう問題じゃありません!」
「ねぇ!ちょっと、恋夜君!いつまで休んでるの!早くこっち来て、ねぇ、これ来てみて!」
流星が同情の目で恋夜を見つめる。
「ちょっと少しは助けてくださいよ。」
スイッチの入ったこの女子の集団と化した葵たちに、流星が何を言った所で聞くわけがない。諦めろという意思表示。これ以上凛清の不興も買いたくない。沈黙は金、雄弁は銀
だが、仕方なしに立ち上がる恋夜の口元を流星は見逃さなかった。
その口元、流星にはある思考が流れ込む。
そういえばこいつ、本当に嫌な時は頑として動かない、それはこの生活の中で理解した。俺の髑髏のTシャツを貸そうとした時も、校則違反の屋上に上がろうとした時も、いや、それどこかこいつは俺と一緒に飯を食いに行こうと誘った時もお金の無駄遣いと断固拒否した、なのに今は、
「なぁ、恋夜、お前がそこまで言うなら、仕方がない。俺がはっきり言って来てやる。」
「は?」
「だからさ、お前の、ために、俺がガツンと言って来てやる。お前が嫌がっているって、
俺たちは俺たちで楽しむからお前らはお前らでウインドウショッピングでもしてろって。」
「い、いや、でもそんな事を、」
「心配するな、俺が悪役になってやるよ。」
「でも、そんなの。」
「それとも何か、いやいや言っていてまさか楽しんでいたとか?」
「い、いえそんなこと決して、で、でも、せっかく皆が楽しんでいるのを、邪魔をするわけには、僕なら我慢できますから、それに、」
「いいから、心配すんな。俺たちだけで行きたいところがあるからとでも言っておけばいいんだよ。何あいつらの事は俺の方がよく知っているなら」
恋夜を残し、流星が彼女たちに近づいていく、
マズイ、何とか、何とかしなければ、だが、どうすればいい。
恋夜は流星の言う通り、この状況を楽しんでいた。
確かにこの高い洋服そのものに、値段相応のその価値を見出すことはできないが、彼女たちが自分のために選んでくれた付加価値はその何倍にもなっている。
今まで女の子と仕事以外で話すことなかった人生、この状況は恋夜にとって経験のないもの、ただ楽しいと心が感じていた。我が世の春が来たとはまさにこの事
流星との共同生活のストレスもあり、恋夜の頭は過去に類似例のない、この身体験の経験を頭では迷惑がりながらも、心では楽しんでいた。
初めてともいえる自分の思考と感情が一致しない上、感情が思考に勝ってしまうという状況に恋夜は恋夜は思考を巡らせていた
自分のプライドか、本能か、いや、結論は決まっていただが、それとは違う自分自身を納得できる言い訳を考えて、思考の螺旋に陥っていた。
「というわけで、恋夜を少し借りますよ。」
「借りるって、私たちも一緒に、」
「それじゃ意味がないんですよ。男同士で行きたい場所も、あるんですよ」
「まさか、流星君、Hな場所にでも、」
イロハの言葉に、凛清が納得するかのように大きくため息をつく。
「……俺は未成年だぞ。それに俺はそういうものには興味ないね。」
「ねぇ、流星君って前から思ってんだけどホモなの?」
「なんでそうなる。」
「だって凛ちゃん手出されたことないって。」
「ちょっと、会長!」
凛清は顔を真っ赤にして葵の口をふさぐ。
「……当たり前だ。凛清は、俺の主ですよ。」
「だから何?関係ないでしょ」
「そういう感情は仕事の邪魔になる。これでもプロですから、プロとしての誇りがあります。それに俺はこういう性格。別に凛清がどうこうじゃなくて、俺は誰かを好きになっても、自分の激情一つで、言葉一つで、その人を傷つけるだけだ。」
傷つける対象、その言葉が稟請に重く突き刺さる。
「何それ、ばっかじゃないの」
凛清は小さく呟く。空気が悪くなるのを感じるが、流星は自分を抑制できない。
そもそもこの数日凛清は機嫌が悪い。そして流星はその原因が凛清にあると思っていた。
「なんだ凛清、言いたいことがあるならちゃんと目を見てはっきりと言え」
「別に何でもない、」
「何でもないなら、そんな顔をするな。そんなことより、今は恋夜の話だ。
恋夜は俺が借りるぞ。」
あぁ、なんでこんな事になっている。恋夜に少し嫌がらせをするつもりが、どうして俺が稟請を怒らせなくちゃいけないんだ。でも、俺は悪くない。悪いのは凛清だ。
「そんなことよりって、何よ、好きにすれば」
凛清は、よほど頭に来たのか、イロハの制止も聞かずに、早歩きでどこかに行こうとする。
「ったくしょうがないな、」
「まて、凛清!俺もついていく。」
「ついてくんな!ついてきたら怒るから」
「もう怒ってるだろ、これは何度も言っているだろ、なんで今更怒る。感情的になるな」
私が怒っている理由も全部分かっていてこの物言い。上から目線ほんと腹立つ
凛清はハンドバックを流星に投げつけ、走り去っていく。
バックを受け止めた流星は溜息をつき、目線でどうしていいか戸惑うイロハに凛清を追いかける様にお願いすると、バッグから落ちた携帯と化粧ポーチを拾い上げる。
その様子を見てどうしようと思考を巡らせていた恋夜は流星たちに近寄っていく。
「あの、どうかしたんですか」
「何でもないよ。気にするな。」
「気にすんなって、なんか怒ってなかったですか凛清さん。」
流星が、最後に落ちていたマスカラを拾おうとすると葵が拾い上げて流星に差し出す。
「いつもあなたは余裕ね、そうやって冷静を装って。」
「何がですか、先輩。」
「分かってるくせに、本当にむかつくわね。凛清の化粧、気づいてたでしょ」
「それを先輩のせいだってことも、ですか」
「ほんと、すかしてるわね。」
「余計なお世話です。俺と凛清には先輩方には理解しがたいものがあるんです。」
「過去に何かあったって話?過去より今でしょ。」
「それに何より先輩の思い通りになるのも気に入りません。イライラしている凛清の気分転換でもって思ったんですか、馬鹿らしい。もう一度言います余計なお世話です。」
流星は天邪鬼だ、誰かの思い通りになるのが死ぬほど嫌いだ。それが正しいとしても、
「あなたは今のままでいいかもしれないけど凛清はそうじゃないでしょ。いくら凛清の中の子が理解があるって言っても、今の凛清のままでいつまでもいれるわけじゃない。」
「そうですね。理解しています。そう長くはないでしょう。だから何です。」
「このチキン野郎が、」
「……挑発だって分かっていても、頭に来ますね。その言い方。」
流星はわざと乱暴に葵からマスカラを受け取る。
「あ、あのお二人とも少し落ち着いて。」
「落ち着いてるわよ。十分、ごめんなさい。恋夜君。今日は君たちの歓迎会のつもりだったんだけど、この馬鹿のせいでこんなに空気が悪くなって」
「誰が馬鹿ですか、どうしたんですか苛立ちすぎでしょ。」
「そうね、少し頭を冷やす必要があるわね。お互いに、話し合いましょう、お互いに大人なんだし、恋夜君。悪いけどしばらく侑季の事お願い。」
「え、でも、」
「恋夜君だからお願いしてるの。侑季も、いいわね」
「うん、大丈夫。」
侑季は二人を追いかけようとする恋夜の手を持てる力で必死に掴み、引き止める。
怖がっているのか、仕方がないと、とりあえず侑季に何がしたいのか尋ねる。
「あの、侑季さん。これからどうしましょうか、えっと、そうだな、」
「あっちに綺麗な公園があるの、そこに行こう!そこでね。すごくおいしいソフトクリーム売っているの!それから、水族館。最近ね、ペンギンさんの赤ちゃんが生まれたって、」
急に勢いよくしゃべりだした侑季に一瞬戸惑うが、自分でも喜んでくれている彼女の気持ちにもこたえようと、恋夜は笑顔で答える。
「それは楽しみですね。」
自分の提案に快く答えてくれた。侑季は一気にテンションが上がり、恋夜を連れまわすようにぐいぐいと恋夜の手を引っ張っていく。




