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L:ある令嬢の企みがあっけなく失敗に終わった話。

 

 貴族にとっての夜会は、最も重要な婚約者探しの場。

 いつからそんな風になったのかしら。


 今日はアイリシア帝国の建国記念日だ。国中の高位貴族たちを招いて、盛大な夜会を開いている。色めき立つ年頃の令嬢たちも、思惑を抱えた老貴族たちも、皆が一同に会した。



「──音楽を」


 母様の一声で、フロアに旋律が流れ始める。

 ファーストダンスはまず、皇帝とその配偶者から。母様と父様が前に出て、互いに向き合い美しく礼をした。

 身内贔屓かもしれないけれど、何度見ても飽きない。二人は皇族にとって珍しい恋愛結婚だったから、ただ並んでいる姿そのものが弛まぬ努力の結晶に感じられた。こうして国を代表して踊っているところを目の当たりにすると、母様と父様の子であることが誇らしくなる。


「姉さん」


 隣の椅子から声をかけられ、私はそちらへ少しも目線をやらないまま身体だけ寄せた。


「何、レイ」


 私を呼んだ双子の弟が、耳元でひそひそと話す。


「今日見ておくのって、あそこに立ってる侯爵だよね?」

「そうよ。最近怪しい動きをしてるって、父様が」

「問題起こしてますって顔してるな」

「ふふっ、そういう話を聞いたからそう感じるだけじゃない」

「リリー、うるさいぞ」


 窘めるように、兄さんが睨んでくる。レイの発言に思わず笑ったせいだ。


「ええ、私?」

「そうだ」

「そうだよ。笑ったのは姉さん」


 抗議しようとすれば、レイの隣から可愛らしく尖った妹の声が聞こえてくる。


「笑わせたのはあんたでしょ。あたし見てたからね」

「あー、姉さんよりお前が一番うるさいな」

「なんですって?」


 いつも私の味方をしてくれる妹とレイが喧嘩を始めたところで、兄さんが大きく咳払いをした。どうやらもう少しで私たちの番らしい。


「皇家の威厳を欠くような真似はするなよ」

「うん、兄さん」

「分かってるって」

「はーい」


 私たちはいつものように返事をして立ち上がり、母様に呼ばれるのを待った。大勢の前で肩書きを呼ばれるこの時、私はいつも少しだけ手が冷えてしまう。レイはきっとそれを分かっていて、私の手を包むように握ってくれた。


「帝国の未来を導く光。ラヴァンディ」


 母様に呼ばれて、兄さんが中央に出ていく。


「星の運命を司る輝き。リリエン」


 惜しむように離れるレイの手。私はそのまま一人で歩き出す。

 未来がそう決まっているから。


「星の運命を守護する煌き。レイオン」


 何ともない顔をしたレイが少し離れたところへ立つ。でも、抱えているものは心拍から伝わっていた。


「帝国の未来を支える花。ローザリア」


 レイの隣へ、妹も進む。あの子の纏うオーラはいつも華やかだ。そこに居るだけで、私たちの抱えているものが和らぐかのよう。父様に似たらしい。


「パートナーの手を」


 少し離れていたレイが近づいてきて、私に跪いた。そして他の人に聞こえないよう、小声でこっそり囁く。


「お手をどうぞ。気高くて笑い声の響く皇女様」

「……まあ、光栄だわ。悪戯好きの皇子様」


 ふざけた調子のレイをあしらいながら、差し出された右手へ軽く自身の手を添えた。ここで私が笑ったら、また兄さんに怒られてしまうじゃない。あとで言ってやらないと。


 私たちの空気に似合わない厳かな音楽が始まる。

 貴族たちの羨望の眼差しをこの身に受けながら、いつも通りステップを踏んだ。数え切れないくらいレイと踊っているけれど、皆見ていて飽きないのかしら。


「……この後、どう動く?」

「様子を見るわ。侯爵より、そのご令嬢の方が気になるの」

「令嬢? もうおかしな動きがあった?」

「ううん。でも表情が……何か思い詰めてる感じがする」


 身体を寄せ合い、周りに聞こえないような大きさの声で話す私とレイ。婚約者を探す令嬢たちは男性と甘い会話をしながら踊るらしいけれど、こんなことでそんな雰囲気になるものなのか甚だ疑問だ。


「長らく帝国に貢献してきた名家だから、勘違いだと良いんだけど……」

「父様が目をつけてるってことは、勘違いじゃないだろうね」

「うん……でもご令嬢の方は……従わされてるだけかもしれないわ」


 レイの眉が僅かに顰められ、腰に回された手に力が入るのを感じる。


「何するか分かってるのに、助けたいって言ってるように聞こえるよ」

「そうね。ああいう顔でレイを見つめる子はたくさん見てきたから」

「なんで俺ばっかり……」


 分かりやすく不機嫌をぶつけてくる弟の姿に、私はまた笑いそうになってしまった。


「大丈夫、何かあったらすぐに助けるから」

「……姉さんがいつも俺を犠牲にして他の人間の潔白を証明しようとする」

「ごめんね。でも狙われてるのはレイだもの」


 くるっとターンした私をその胸で受け止め、レイがちょっと意地悪に笑う。何か嫌なことを企んでいそうな顔だ。


「……良いよ」


 耳元で少し掠れた低音が響く。ああ、今日はいつもより不機嫌らしい。このまま問題が起こらず、ご令嬢に罪がないことがハッキリすれば良いんだけどなあ。


「いつも通りやろう、姉さん」


続きます。

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― 新着の感想 ―
弟君だけでなく令嬢まで救おうとするリリエン殿下…その優しさに胸が熱くなりますな…!(一般通過地獄耳壁の花)
LとЯで視点が違うのが、また、、ギミックのある... いやあ、、、楽しい..........
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