↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/9

Я

 

 俺たちは双子の姉弟だ。

 同じ日に生まれて、同じ顔、同じ瞳、同じ匂いを持っている。

 心拍すらも共有しているというのに、運命だけが違った。


 女神に選ばれた“星渡り”

 他の惑星へ渡って、その星を豊かにする役目を背負った魔法使いのことだ。

 姉さんは、生まれた時からそれに選ばれていた。


 星渡りは様々な惑星でその発展に寄与して来たけれど、唯一成功していない星がある。

 地球。

 魔力のない、遅れた星──“後進星”と呼ばれる惑星。

 これまで七人が、地球へ渡ってすぐに死んだ。


 俺は姉さんを死なせないために、何故彼らが死んだのか、どうすれば生きられるのかをずっと研究していた。

 それが今、少しずつ見えて来ている。


「⋯⋯そろそろ休んだら?」


 俺を心配した姉さんに、背後から声をかけられる。


「これが終わったらね」


 この分析が正しいなら、地球での死を防ぐ糸口となるだろう。

 でももし間違っていたら?


「良い発見でもあったの?」


 姉さんはおかしな様子の俺に気づいたようだ。

 こういう時、俺たち双子の在り方は不便だと思う。


「変に期待させたくないから、言わない」

「言わなくたって伝わってるのに?」


 俺の鼓動が高鳴る時、姉さんの心臓も同じように脈打つ。

 逆もまた然り。俺たちは互いの心拍を共有し、そこから感情を悟っていた。


「⋯⋯」


 “共銘”と呼ばれる力。

 姉さんが女神に選ばれた特別な魔法使いであり、俺がその特別な魔法使いと細胞を分けた存在である証拠だった。


「まだ確定したわけじゃないよ」


 俺は出来るだけ、余計な希望を抱かせないように言う。


「うん、それでも良い」


 姉さんはハッキリと応えた。俺と違って、この人はずっと覚悟が決まっている。自分が一人で犠牲になる覚悟が。


「⋯⋯適応した身体なら、生きられるかもしれない」


 本当は言いたくなかった。

 緊張で喉がカラカラに乾いて、声が掠れる。


「地球には、魔力がないだろ。それが、俺たち魔法使いの身体には耐えられないんだ」

「⋯⋯そうね、話には聞いているけれど」


 姉さんは星渡りに関する話題になった時、いつも平然としていた。


「強い魔力が、地球では“障害”となる」


 その身に宿る強大な力が、そして運命が、自分の命を蝕むと分かっていながら。


「持っている魔力が強ければ強いほど、その障害は重くなって⋯⋯死んでしまうんだよ」

「⋯⋯それで、歴代の星渡りたちは生きられなかったのね」

「うん。でも、魔力がない星で生きるための身体だったら⋯⋯」


 言いかけて、止まる。ここから先は俺の願いであり、俺の絶望だった。


 これまでの星渡りがしてきたことは、要するに“異星間転移”だ。

 その人が生まれ持った身体のまま、星の移動のみを行うこと。

 これは、魔力のない星に適応することが難しかった。あまりに大きな環境の変化に、価値観の変化に身も心も耐えられない。


 だが、“転生”という形を取れば話は変わってくる。

 その星に最初から適応している身体に、これまでの価値観を全て消した魂を入れるなら、これまでの星渡りよりもかなり負担が減るはずだった。


 でも、それは姉さんが姉さんのままで居られないことを意味する。


「⋯⋯全部、忘れるってことね」


 姉さんがぽつりと呟いた。

 こういう時、察しが良くて困る。


「魂も適応させるには、それが一番だよ」

「あなたのことすら忘れてしまうの?」

「うん」


 出来るだけ何ともないことのように返したけれど、姉さんが胸をぎゅっと抑えた。俺の鼓動が伝わったせいだ。


「ごめん、痛いよね」


 咄嗟に謝る俺に、微笑みかける姉さん。

 やめてくれ。そんな笑顔は見たくない。姉さんに哀しんでほしくないんだ。

 そういうエゴを隠すように、俺も笑顔を貼り付けた。


「私、地球で生きられるのかな」


 行かないで。

 俺の居ない場所で、辛い思いをしないで。

 ずっと俺のそばに居てよ。


 本音の一つも伝えられない俺を励ますように、姉さんが言う。

 自分が居なくなった後のことを。


「いつも私にくれるデザート、これからは自分で食べて良いからね」

「⋯⋯要らないよ」


 そんなの要らない。俺が欲しいのはそんなんじゃない。

 姉さんが居なくなった世界に光なんてない。真っ暗な闇の底で生きていけって言うのか。


 俺をひとりにしないで。俺を、俺だけを救ってよ。


 ずっとそばに居たのに、一度もそう言えないまま。

 好き勝手に騒ぎ続ける鼓動だけが真実を伝えて、それ以上を話すことを許さなかった。


 もしこの時、素直に言えていたら、未来は変わったのだろうか。


 姉さんが、俺を置いて遠い星で生きませんように。

 俺は祈りの代わりに一粒の雫を女神へ捧げた。


関連楽曲

https://youtu.be/v2m5k4Z0HX8?si=62DU35UFbaj4I1IN

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
せめて、何かが欠けていると感じる事が2人の救いになると良いなと思います。
二人が笑いあって過ごせる日々が、この先の未来で訪れますように…! 必要であればなんでも捧げますので女神様なにとぞなにとぞ…!(*>人<)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。