Я
俺たちは双子の姉弟だ。
同じ日に生まれて、同じ顔、同じ瞳、同じ匂いを持っている。
心拍すらも共有しているというのに、運命だけが違った。
女神に選ばれた“星渡り”
他の惑星へ渡って、その星を豊かにする役目を背負った魔法使いのことだ。
姉さんは、生まれた時からそれに選ばれていた。
星渡りは様々な惑星でその発展に寄与して来たけれど、唯一成功していない星がある。
地球。
魔力のない、遅れた星──“後進星”と呼ばれる惑星。
これまで七人が、地球へ渡ってすぐに死んだ。
俺は姉さんを死なせないために、何故彼らが死んだのか、どうすれば生きられるのかをずっと研究していた。
それが今、少しずつ見えて来ている。
「⋯⋯そろそろ休んだら?」
俺を心配した姉さんに、背後から声をかけられる。
「これが終わったらね」
この分析が正しいなら、地球での死を防ぐ糸口となるだろう。
でももし間違っていたら?
「良い発見でもあったの?」
姉さんはおかしな様子の俺に気づいたようだ。
こういう時、俺たち双子の在り方は不便だと思う。
「変に期待させたくないから、言わない」
「言わなくたって伝わってるのに?」
俺の鼓動が高鳴る時、姉さんの心臓も同じように脈打つ。
逆もまた然り。俺たちは互いの心拍を共有し、そこから感情を悟っていた。
「⋯⋯」
“共銘”と呼ばれる力。
姉さんが女神に選ばれた特別な魔法使いであり、俺がその特別な魔法使いと細胞を分けた存在である証拠だった。
「まだ確定したわけじゃないよ」
俺は出来るだけ、余計な希望を抱かせないように言う。
「うん、それでも良い」
姉さんはハッキリと応えた。俺と違って、この人はずっと覚悟が決まっている。自分が一人で犠牲になる覚悟が。
「⋯⋯適応した身体なら、生きられるかもしれない」
本当は言いたくなかった。
緊張で喉がカラカラに乾いて、声が掠れる。
「地球には、魔力がないだろ。それが、俺たち魔法使いの身体には耐えられないんだ」
「⋯⋯そうね、話には聞いているけれど」
姉さんは星渡りに関する話題になった時、いつも平然としていた。
「強い魔力が、地球では“障害”となる」
その身に宿る強大な力が、そして運命が、自分の命を蝕むと分かっていながら。
「持っている魔力が強ければ強いほど、その障害は重くなって⋯⋯死んでしまうんだよ」
「⋯⋯それで、歴代の星渡りたちは生きられなかったのね」
「うん。でも、魔力がない星で生きるための身体だったら⋯⋯」
言いかけて、止まる。ここから先は俺の願いであり、俺の絶望だった。
これまでの星渡りがしてきたことは、要するに“異星間転移”だ。
その人が生まれ持った身体のまま、星の移動のみを行うこと。
これは、魔力のない星に適応することが難しかった。あまりに大きな環境の変化に、価値観の変化に身も心も耐えられない。
だが、“転生”という形を取れば話は変わってくる。
その星に最初から適応している身体に、これまでの価値観を全て消した魂を入れるなら、これまでの星渡りよりもかなり負担が減るはずだった。
でも、それは姉さんが姉さんのままで居られないことを意味する。
「⋯⋯全部、忘れるってことね」
姉さんがぽつりと呟いた。
こういう時、察しが良くて困る。
「魂も適応させるには、それが一番だよ」
「あなたのことすら忘れてしまうの?」
「うん」
出来るだけ何ともないことのように返したけれど、姉さんが胸をぎゅっと抑えた。俺の鼓動が伝わったせいだ。
「ごめん、痛いよね」
咄嗟に謝る俺に、微笑みかける姉さん。
やめてくれ。そんな笑顔は見たくない。姉さんに哀しんでほしくないんだ。
そういうエゴを隠すように、俺も笑顔を貼り付けた。
「私、地球で生きられるのかな」
行かないで。
俺の居ない場所で、辛い思いをしないで。
ずっと俺のそばに居てよ。
本音の一つも伝えられない俺を励ますように、姉さんが言う。
自分が居なくなった後のことを。
「いつも私にくれるデザート、これからは自分で食べて良いからね」
「⋯⋯要らないよ」
そんなの要らない。俺が欲しいのはそんなんじゃない。
姉さんが居なくなった世界に光なんてない。真っ暗な闇の底で生きていけって言うのか。
俺をひとりにしないで。俺を、俺だけを救ってよ。
ずっとそばに居たのに、一度もそう言えないまま。
好き勝手に騒ぎ続ける鼓動だけが真実を伝えて、それ以上を話すことを許さなかった。
もしこの時、素直に言えていたら、未来は変わったのだろうか。
姉さんが、俺を置いて遠い星で生きませんように。
俺は祈りの代わりに一粒の雫を女神へ捧げた。
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