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K-97 やっぱりチートです

 大陸横断から約二ヶ月。


 チャンプとアプリと菊の王都組は、ついに王都・カイに到着していた。


 道中、チャンプは鳩を使って何度もネモの街と連絡を取り合っていた。ジョブの効果で、鳩は必ず目的地まで届く。伝書鳩通信は予想以上に機能していた。


 三人は王都でアハロ団から持たせてもらった資金を元に中古物件を一件購入し、そこを拠点にした。王都・カイはネモの街とは比較にならないほど栄えていて、生活に必要なものは全て揃っていた。歴代の勇者が治安を守るこの国は、何百年も戦争に巻き込まれたことのない平和な国だった。


 チャンプは日々、情報を集めた。


 アプリは日々、星矢の世話に明け暮れた。


   *


 そんなある日、一羽の鳩がチャンプの元へ飛んできた。


「アプリさん! 鈴菌さんから手紙が届きましたよ! アハロ団が例のアルカンの街の黒幕を逮捕したって!」


「なんだと!? それなら、もう事件は終わったんじゃないのか?」


「いや、その黒幕もまた雇われの身らしいです。本当の黒幕はやはり王城の中にありそうですよ。俺が探った感じだと鈴菌さんの見立て通り、四勇者もキナ臭い! 街の人の評判も悪いですからね」


 厩でブラッシングされていた星矢も口を挟んだ。


「そうでゲス。あの勇者はあっしも苦手でゲスよ。あっしみたいな動物は悪意には敏感でゲス!」


「そうだな……星矢が言うなら間違いなさそうだ……」


 もうすっかり星矢と打ち解けていたアプリが、星矢のバーコードヘアを優しく撫でながら答えた。


 そこへ、買い出しに行っていた菊が買い物袋を抱えて帰ってきた。


「今、槍の勇者にナンパされちゃった。本当にキモい! 私みたいな熟女にも声をかけるなんて本当にキモい!」


 どう見ても十六歳にしか見えないのだが、菊自身は自分のことを「ほんの少しだけ若く見えるだけ」だと信じ込んでいる。アプリもチャンプも何も言えずに、遠くを見つめながら星矢のバーコードヘアを撫でた。


 星矢はとても気持ちよさそうに鳴いた。


   *


 その頃、ネモの街では——。


 スーツ姿の魔族を逮捕したことで、アハロ団は後始末に追われていた。早急に確認しなければならないのは、砂漠墓場にあるアンデッドの王の墓の状況だった。


 アンデッドの王は不死のため、暴風龍に効いた即死の毒リンゴが使えない。その点がギルドでも問題になっていて、アハロ団に毒リンゴを用いない討伐方法を模索してほしいと懇願されていた。


 この日も異世界食堂でアンデッドの王の討伐方法を話し合っていた。


「アンデッドなんだから白魔道士とか雇えばいいんじゃないの?」


「そんな白魔道士がいたら、とっくにやってるだろ? おそらく白魔法でも効かないくらい高レベルなんだと思うぞ? 分かりやすく言うと、オーバーロードのアインズ様はホイミを唱えただけでダメージ入ると思うか?」


「アインズ様クラスなのかな? だとしたらラーナの平面でも勝てないね。アインズ様って物理攻撃も効かないもんね」


「だろ? 今回のアンデッドの王もアインズ様だと思って作戦を立てた方が良い」


「それなら、このすばのアクアみたいな女神に頼むとか? ターンアンデット!って言って倒してくれないかな?」


「そのアクアに会うためには一度、この中から誰か死ななきゃならないぞ? 俺は家庭があるから無理だぞ?」


「私も嫌だよ」


「私も嫌だよ」


「私も嫌だよ」


「でも、死んだら本当に女神様に出逢えるの? せっかく死んだのに、アクアがいなくてエリスだったらどうするの?」


 一同がシーンとした。


「とにかく、一度、現場を見に行ってみるか! あの砂漠にはゾンビなんかも出るそうだから、アンデッド系の魔物との戦闘も経験しておきたいだろ?」


   *


 アハロ団は砂漠墓場まで来ていた。


 ただし、来るまでの道中でアンデッド系の魔物は一体も出なかった。


 そして、アンデッドの王の墓の前に辿り着いた。


 鈴菌が封印の綻びを調査し始めた。封印自体は完全だった。しかし——


 地の底から、アンデッドの王が強引に封印を破ろうとして、不気味な唸り声を上げた。


「オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」


 鈴菌が咄嗟に墓から離れた。ラーナがカッパのTシャツに平面で張り付いた。妖怪トリオが身構えた。


 封印が破られた。


 地底から骨の手がニュッと伸び、上半身が這い上がってきた。やがてその全身が地上に現れ、アンデッドの王が天を仰いで立ち上がった。


 その視線が、十一面観音像へと向いた。


 おどろおどろしい口が、開いた。


「我も……成仏できますか? 菩薩様」


 アハロ団が固まった。


 ラブの十一面の瞳が静かに開いた。菩薩の笑みで、ゆっくりと語り始めた。


「あらあら……地底で何百年も何を考えていたのかと思えば、最初の一言がそれですの? 可愛らしい王様ですわ。


いいですか? 『成仏』というのは、単にこの世から消えてなくなることでも、天国という名のテーマパークへ行くことでもありませんわ。仏教における成仏とは、迷いの雲が晴れ、ありのままの真実を悟って、仏——目覚めた者に成ること。つまり、あなたが抱えている王としての執着や、生への未練、そして自分を縛る呪いという名の重荷を、全捨てすることなんですのよ。


あなたは今、自分の骨の体を『自分だ』と思い込んで苦しんでいますわね? でも、その骨も元は土、土は元は星の屑。宇宙のサイクルから見れば、あなたという形は一時的なバグに過ぎませんわ。


『私』というこだわりを捨て、ただ大きな宇宙の理に身を任せなさい。過去に何人を呪ったか、何人の村を滅ぼしたかなんて、今の私にはどうでもいいことですの。大事なのは——『今、この瞬間に、自分はもう苦しまなくていいんだ』と自分自身を許してあげること。


さあ、私の十一の顔をしっかり見なさい。どの顔も、あなたの救済を拒んでなどいませんわ。あなたの内側にある仏性——光り輝くピュアな心に点火しなさい。そうすれば、地獄の業火もただの温かいお風呂に変わりますわよ?」


 アンデッドの王の顔が、穏やかになった。


 おどろおどろしかった骨の身体が、さらさらと塵になり、土へと還った。


 砂漠の風が、その塵を静かに運んでいった。


   *


「成仏したのか……? いや、浄化したのか?」


 ラブの十一面の瞳が静かに閉じた。


「あらあら、お線香でも持ってくれば良かったですわ。まあ、四十九日もとっくに終わってますし、いりませんわね」


 アハロ団が唖然とした。


「凄いよ! ラブ! ラブって本当に神様だったんだね! このすばのアクアより凄い!」


「あらあら、私は神ではなく仏ですのよ? 千年経ってもやっぱり日本人の皆さんは神と仏の区別がないんですのね……全くいつになったら神社とお寺の区別がつくのかしらですわ……」


「ねぇねぇ、神と仏って何が違うの? ラブはアクアと仲が悪いの?」


「あらあら、私は仏ですのよ? 争いは好みませんわよ? ただ、神の中には争いの神も多いんですわよ?」


「争いの神?」


「あらあら、聖闘士星矢を知らない世代というのも困ったものですわ……。神話に憧れる厨二病というのは、もう絶滅しましたのですわ。アレスさんとかご存知ないのですわね」


「ひょっとして日本人ってのは千年前から神と仏の区別がついてなかったのか? まあ、俺も違いはよくわからんが」


「あらあら、そうですわよ? もう最初からですわ」


 話が難しくなってきて、アハロ団の乙女たちが泣きそうになり始めた。そんな乙女たちにラブが優しく語りかけた。


「神も仏も見分けがつかないのが日本人の良いところですわ。こんなに平和な国は人類の歴史の中でもありませんのよ?」


 それを聞いて、アハロ団の乙女たちがほっとした顔をした。


 こうして特に戦闘にもならず、アハロ団はアンデッドの王を浄化してしまった。


 ネモの街でその噂が広まると——王都でも話が届き、四勇者が動き出した。


   *


 数日後。王都でパレードが行われていた。


「アプリさん! 四勇者のパレードが始まりましたよ!」


 アプリとチャンプと菊は行列に並んで見物した。


 先頭の剣の勇者が声を上げた。


「我ら四勇者がついにリヴァイアサンを討伐したぞーーー!!!」


 民衆が沸いた。


 しかしパレードの最後尾には——暴風龍エルドラのツノと爪が輸送されていた。


 まるで四勇者が討伐したかのように見せるために。


 菊がアプリとチャンプに耳打ちした。


「あれは間違いなく私が倒した暴風龍エルドラのツノだよ。リヴァイアサンはまだ討伐されてない……」


「それじゃ漁師と海運輸送がヤバいじゃないですか! リヴァイアサンが討伐されたと思って警戒を緩めますよ?」


「婆さん、お前ならリヴァイアサンを倒せるのか?」


「毒リンゴさえ口に入れられたら倒せるよ? 仙人様」


「よし! それなら数打ちゃ当たるで毒リンゴを大量に作ってくれ。リヴァイアサンの口には俺がリンゴを入れてみる」


 仙人と美魔女が、密かに動き出した。


   *


 数日後、夜明け前の王都の港。


 アプリが毒リンゴをたっぷり詰め込んだリュックを背負い、告げた。


「それじゃ、行ってくる。上手く餌に食いついてくれると良いんだが……」


「二人とも気をつけてくださいよ! と言っても、お二人なら死ぬこともなさそうですけどね……」


「仙人様さえいてくれれば問題ないよ! チャンプ! 仙人様は無敵だもん! リヴァイアサンなんてバゴーーンだよ! バゴーン!」


 アプリは仙術を発動させた。足の下から海面が鏡のように固まる感覚。そっと体重をかけると——立てた。


「よし、ちゃんと立てたな。この仙術は中々使えるスキルだな」


 アプリは確かめるように海の上を歩いてみた。地面を歩くように、軽やかに。


 菊も浮揚のスキルで豚肉の塊を浮かせ、自らもふよふよと上昇した。


「私の浮揚もやっとコントロール出来るようになりました! これなら仙人様についていけます! 行きましょう! 仙人様」


 仙人と美魔女は海上を進んでいった。チャンプは港から心配そうに見送った。


   *


 沖まで進むと、日が昇る頃には霧が立ち込めて視界が遮られた。


「仙人様、霧が酷くて辺りが見えないよ? どうしよう」


 アプリは霧を食べ始めた。


「仙人様は霧を食べられるの?」


「あぁ、何故か食える……仙人は霞を食うって言われてるからなのか? ただ、霧を食ったら何故か経験値が入ってるな……」


 アプリは辺りの霧を食べ尽くした。ステータス画面が光った。


「レベルアップだ……。まだレベルは2だがな……」


「さすが仙人様! 霧も無くなったよ! これならリヴァイアサンが見える!」


 菊が豚肉の塊を海面に撒いた。


 まんまと——巨大な影が二人の足元に近づいてきた。


「来たぞ! 婆さんは高度を上げろ。ここからは俺に任せろ」


 アプリが仙術を発動させると——その姿が消えた。完全な透明化だった。


 リヴァイアサンが浮いている豚肉に向かって大口を開けた。丸呑みしようとした、その瞬間——完全に透明化したアプリが毒リンゴを口の中へと放り投げた。


 豚肉と一緒に毒リンゴを飲み込んだリヴァイアサンが、即死した。


 そのまま海中へと沈んでいった。


 上空の菊が両手を上げて叫んだ。


「さすが! 仙人様!」


 アプリは透明化を解いて、上空の菊に向かって親指を立てた。


 毒リンゴのトドメ判定で、菊のレベルがまた上がっていた。


 二人は朝日に照らされながら港へと戻った。アプリはテクテクと海の上を歩き、菊はふよふよと浮かびながら進んだ。


 チャンプが岸から手を振った。


「二人ともお疲れ様です! どうでしたか?」


「婆さんが弱いと言ってたが、案外あっさりだったな」


「仙人様がいれば無敵だもん! バゴーン!」


 菊は鼻高々だった。


 四勇者がリヴァイアサン討伐の手柄を誇示するパレードを行ったその数日後、王都の沖でリヴァイアサンが本当に死んでいることが、漁師たちによって静かに確認された。


 誰も、それが仙人と美魔女の仕業だとは知らなかった。





アンデッドの王について:

ラブが「悩みを聞いてあげただけ」で自然に成仏しました。戦闘はありませんでした。ラブは「お線香でも持ってくれば良かった」とのことです。


アプリ(仙人 Lv.2)について:

霧を食べると経験値が入ることが判明しました。「仙人は霞を食う」という言葉は事実でした。アクティブスキル「仙術」により、海上歩行と完全透明化が可能なことも確認されました。リヴァイアサン討伐の所要時間は、霧を食べる時間を除けば約三分です。


四勇者について:

暴風龍エルドラのツノと爪を使ってリヴァイアサン討伐を偽装していたことが、菊の現地確認により判明しました。民衆はまだ知りません。鈴菌への報告はチャンプの伝書鳩が担当します。


星矢ケンタウロスについて:

悪意には敏感だそうです。バーコードヘアのブラッシングは毎日続いています。

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