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K-96 平面無双

 深夜のネモの街。


 宿屋のベッドからカッパがムクっと起き上がり、鈴菌の部屋のドアをノックした。


「鈴菌さん! 今、南側の城壁を超えた人がいるよ! 魔族だってさ!」


 鈴菌はすぐにキーコンとボーアに指示を飛ばした。雲に乗った二人が南側へと飛んでいく。


 城壁の各所に設置した猫よけの二リットルペットボトルが、城壁を越えようとした魔族の動きをカッパの水属性・ルックルックスキルへと伝えてくれたのだ。


「猫よけ用のペットボトルってこんな使い方もあるんだね!」


「実はあの猫よけペットボトルは猫には効果が無いんだよ。でも、魔族には効果あったな。本当にカッパのルックルックは使えるスキルだぜ! あとはキーコンとボーアがその魔族をしっかりと尾行してくれたら事件解決だな!」


   *


 キーコンとボーアは、ボーアの索敵能力で飛んでいる魔族に素早く追いついていた。二人は魔族よりもかなり高い高度で、見つからないように尾行を続けた。


「ボーア、あのスーツ姿の魔族が犯人なのかな?」


「まだ、なんとも言えないけど、こんな深夜に街から出ていくくらいだから、何らかの犯罪者なんじゃないかな?」


 スーツ姿の魔族は、その衣装に似つかわしくない山奥の真っ暗な洞窟へと入っていった。


 キーコンが神通力でネズミサイズまで縮み、ネズミサイズの雲に乗って洞窟内へと静かに潜入した。


「キーコン、中に誰かいるよ。魔族の他にも人間がいる。二人いるから気をつけてね」


   *


 洞窟の奥の会話を、ネズミサイズのキーコンが聞いた。


「まさか、暴風龍を討伐されるとは思ってませんでしたよ。これは私も想定外でした」


「馬鹿野郎! 想定外で済む話じゃないぞ? 封印を解除できるお前を雇った意味が無くなるだろ! 封印解除をミスったわけじゃないだろうな! お前が暴風龍を弱体化させたんじゃないのか!?」


「まさか! 私の解除は完璧ですよ。暴風龍も討伐されるまでは順調に色んな冒険者たちを葬っていましたからね」


「とにかく、今後はどうするんだ? 他にも災害クラスの魔物はいないのか? 暴風龍よりももっとヤバいものでも良いんだぞ?」


「暴風龍よりも危ない魔物ですと、例の砂漠墓場のアンデッドの王がいますが、あれを復活させると、我々でも手に負えませんよ?」


「うむ……。それはそうだが、下手に暴風龍クラスを復活させても、また討伐されたら意味がなくなるんだぞ? すでに暴風龍の討伐は王都でも広まってしまったからな……その討伐した奴らのことを真の勇者だと言ってる連中も多くなってきてるんだよ! とにかく、アンデッドの王でも何でもいいから今度こそ討伐されない強力な魔物にネモの街を襲わせろ! 今は四勇者の手柄が必要なんだよ!」


「わかりました。それではアンデッドの王を復活させます。その為には魂も必要になりますが、その辺もこちらに任せてもらえますか?」


「あぁ、そのためなら小さな村のひとつやふたつを滅ぼしても良いぞ。好きにやれ」


   *


 スーツ姿の魔族がネモの街へ飛び立ったのでボーアが追い、謎の人物をキーコンが追跡した。


 ボーアだけが先に宿屋へ戻り、鈴菌に報告した。


「ここから五十キロくらいの山の中の洞窟で変なオジサンと会ってたよ。中の会話はキーコンが知ってる。キーコンは今、その変なオジサンの後を追ってるよ」


「そうか。他にも黒幕がいそうだな……キーコンが帰るのを待つしかないな」


 数時間後、キーコンが戻ってきた。


「やっぱり、あのスーツ姿の魔族が封印を解いたって言ってました! それと、暴風龍よりも強い魔物にネモの街を襲わせろって変なオジサンに命令されてました! その変なオジサンはアルカンの街の屋敷に帰りました。立派な貴族用の馬車だったから、割と偉い人かもしれません!」


「そうか。やはり闇が深そうだな……」


   *


 翌朝。アハロ団がギルドへ全て報告すると、バニーの顔が青ざめた。


「鈴菌さん! それはマズイです! 暴風龍よりも危険な魔物というのは、実質、討伐が不可能なとても危険な魔物です! しかも、それを復活させるために近隣の村を滅ぼすとか、正気の沙汰とは思えません! アンデッドの王の復活を阻止しないと!」


「そうか……。それなら、法的な証拠は無いが、そのスーツ姿の魔族を捉えたらどうだ? ギルドならそれも可能だろ?」


「はい! もちろんすぐに動くつもりです! アハロ団の皆さんのお力もお借りできませんか?」


 アハロ団の乙女たちは全員、笑顔で頷いた。


 バニーが主体となり、ベテランの冒険者たちにも声をかけてスーツ姿の魔族の自宅を完全に包囲した。キーコンとボーアが雲の上から監視して、空からの逃走路を塞いだ。


 バニーが自宅のドアをノックした。


 魔族がすんなりと扉を開けて、笑顔で出てきた。


「道を開けろ!」


 その一言で、自宅前を包囲していた冒険者たちが吸い込まれるように道を開けた。魔族の不思議な言霊には冒険者たちは逆らえないようだ。


 しかし——カッパとラーナとラブと鈴菌、そして空のキーコンとボーアだけは自由に動けた。


「妖怪トリオは魔族を取り押さえろ!」


「「「りょ!」」」


 妖怪トリオが一斉に魔族へ向かった。魔族が空に飛び上がる。キーコンとボーアが雲から仕掛けるが、翼を持つ魔族に対して雲の上の二人ではどうにも敵わない。攻撃はことごとく交わされた。


「こんな弱いパーティーが本当に暴風龍を討伐したのですか? 今日は皆さん調子が悪いので?」


 魔族が高笑いした——その瞬間。


 カッパのTシャツに、ぺたりと何かが張り付いた。


 ラーナだった。


 カエルスーツのまま、平面となってカッパのTシャツにプリント柄のように張り付いた。


 その瞬間、カッパのステータスが跳ね上がった。


────────────────────────

カッパ+平面ラーナ(巻簾大将 Lv.9)


HP   79,000 ×2

MP   16,000 ×2

攻撃力  5,000 ×2

防御力  5,500 ×2

素早さ  2,500 ×2

器用さ   530 ×2

運     50 ×2


【装備】

ジャージ上下、斧、カエルスーツ〔物理ダメージ軽減10%、水耐性、ジャンプ力10倍〕


【パッシブスキル】

水属性、骨董、浪費、不屈、底力、威勢


【アクティブスキル】

タンバリン、ルックルック

────────────────────────


 カッパの全ステータスが二倍になり——カエルスーツのジャンプ力十倍の効果まで加わった。


 カッパが地面を蹴った。


 バゴーン!


 次の瞬間、カッパは地上十五メートルを超えていた。


 魔族が目を見開く間もなく——カッパの両拳が魔族の土手っ腹に突き刺さった。


「ッ!?」


 魔族が体勢を崩した。そこへキーコンとボーアが上から一撃を叩き込み、魔族を地面へと打ちつけた。


 魔族はカッパがなぜ突然十五メートルも飛び上がってきたのかが理解できず、地面で混乱した。


 その混乱に、カッパは容赦しなかった。


 横っ飛び——バゴーン!


 左から突進——ズンッ!


 右から回り込んで——ドガッ!


 カッパは縦横無尽に跳んだ。壁を蹴り、地面を蹴り、空を駆けた。どこから来るかわからない突進が、魔族の防御を完全に崩した。魔族の目がカッパを追い切れない。翼で逃げようとするが、次の瞬間にはもうカッパが正面にいる。


「なんだ? なんなんだ? この力はなんなんだーーー!!!」


 激昂した魔族にカッパはさらに横っ飛びで両拳を突き立てた。


ズンッ!


 重い一撃が腹に食い込み、魔族が膝をついた。


「畜生ーーー!! 畜生ーーー!!」


 魔族はカッパの動きに追いつけず、殴られるままになった。やがて大の字でぶっ倒れた。カッパも動きを止め、着地した。


 包囲していた冒険者たちが、息を飲んで見守っていた。誰も一言も発しなかった。


「鈴菌さん! 逮捕をお願いします!」


 鈴菌がツカツカと歩み寄り、大の字でぶっ倒れた魔族の手首を掴んだ。腕時計を確認した。


「十二時三十四分。国家転覆罪の容疑にて確保する。君には黙秘権がある。この世界には残念ながら弁護士がいないので、自分自身で弁護しな」


 カチン、と手錠がかかった。


   *


 ラーナが平面を解除して、カッパのTシャツからひょこりと飛び出た。ステータス画面が光った。


「やった! トドメを刺してないのに経験値が入った! やっぱり、私がバフをかけると経験値が入るんだ! わーい!」


────────────────────────

ラーナ(ど根性 Lv.51)


HP     51

MP     51

攻撃力   1

防御力   1

素早さ   51

器用さ  510

運   5,100


【装備】

カエルスーツ〔物理ダメージ軽減10%、水耐性、ジャンプ力10倍〕


【パッシブスキル】

不屈、底力、威勢


【アクティブスキル】

平面

────────────────────────


 ラーナは密かに、バフ要員としての役割に目覚めていた。


 カッパがドヤ顔で言った。


「一件落着だね! ラーナ!」


 自分のTシャツのプリント柄から飛び出してきた金髪の美少女と会話しているカッパを、周囲の冒険者たちが困惑した顔で眺めていた。


   *


 鈴菌に強引に立たされたスーツ姿の魔族が、手錠をされたまま捨て台詞を吐いた。


「私が捕まっても、他の魔族が代わりをするだけですよ。どうせネモの街は終わるのですよ! フフフフフ……」


「宇宙刑事を舐めるなよ」


 鈴菌が静かに言った。


「地道な捜査こそ、この世界には必要なのだとわかる日が必ず来る。そんな貴様も今日、地道な捜査の前に敗北したのだからな」


 魔族が冒険者たちに連行されていった。


   *


 その背中を眺めながら、今日の戦闘で何もしなかったラブが、ぽつりと呟いた。


「あらあら、今日は日曜日ですわ。早く帰らないとサザエさんが始まりますわ……。今夜のサザエさんは——」


 十二歳の小さな体を一生懸命伸ばして、ラブが指を折り始めた。


「今夜のサザエさんは、

『みんなと選挙活動』と、

『カツオのカツオ節』と、

『波平はウキウキウォッチング』の三本ですのに……。早くアハロへ帰って、Calbee様のじゃがりこを

食べながらテレビを見たいですわ……。アハロ団の皆さんは仕事熱心で本当に困りますわ……」


 乙女たちが笑い出した。


「ラブは本当にサザエさんが好きなんだね!」


「当たり前ですわ! だってお魚をくわえたどら猫を裸足でかけてくんですのよ?」


 ラブは十一の瞳を細めて、くすくすと笑い始めた。


「ウプププ……そんな愉快なサザエさんですのよ? ウプププ……アハハハハ!!」


 腹を抱えて大爆笑するラブを見て、アハロ団の乙女たちも全員つられて笑った。冒険者たちも釣られて笑い出した。


 小さくなったラブが、腹を抱えながらその場でくるくると回っていた。


 ネモの街の朝日が、石畳をオレンジ色に染めていた。


 鈴菌だけは、笑いながらも内心で考えを続けていた。


(事件は解決していない。スーツ姿の魔族を捕まえたに過ぎない。黒幕はアルカンの街にいる。そして、アンデッドの王の復活を阻止しなければならない……)


 だが、今はとりあえず、何も言わなかった。


 乙女たちが笑っている。ラブが腹を抱えている。


 それで、ちょうど良かった。





平面ラーナについて:

アクティブスキル「平面」の効果が今回明らかになりました。仲間のTシャツにプリント柄のように張り付き、その仲間の全ステータスを二倍にするバフスキルです。装備効果も付与されます。ラーナ自身は戦えませんが、バフをかけた際にも経験値が入ることが今回確認されました。ど根性というジョブの経験値の入り方は、戦わなくても「ど根性を発揮する行動」全般が対象になっているようです。


カッパのジャンプ力について:

カエルスーツのジャンプ力十倍+平面ラーナによるステータス二倍が重なった結果、地上十五メートル超のジャンプが可能になりました。翼を持つ魔族でも対応できない機動力でした。なお、カッパ本人は「なんか飛べた!」という認識です。


ラブのサザエさん愛について:

サザエさんへの情熱は、千年の眠りを経ても全く衰えていません。じゃがりこの購入ルートについては現在調査中ですが、アハロのカフェで常備されているようです。

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