K-89 調子に乗ってごめんなさい
ある週末の朝。アハロ団はギルドでバニーと相談をしていた。
「そうなんですよ。このネモの街は大陸の極東にあるので、ダンジョンもここしか無いんです。王都ならもっと色んなダンジョンがありますよ!」
「でもさ、王都って真逆の西側にあるよ? どうやってここまで行くの?」
「普通は馬車で何ヶ月もかけて行くんですが、アハロ団には原付があるのでそんなに時間はかからないのでは?」
「ところが原付ってそこまでたくさん走れないんだよ〜。この世界にはガソリンスタンドが無いからね〜。こんな西の果てまでは走れないんだよ〜」
「そうなんですか。それなら、普通に馬車をオススメします。行商人の護衛をしながら旅をすると報酬も貰えて、ついでに王都まで行けるので一石二鳥ですよ?」
そこへ鈴菌が口を挟んだ。
「とりあえず、王都の件はまた今度検討しようぜ。俺は例のひったくり犯の捜索クエストに出かけるよ。あとはお前らだけでダンジョンでレベル上げをしてこいよ」
そう言って鈴菌は一人でギルドを出ていった。最近は鈴菌だけ別行動が増えていた。宇宙刑事というジョブはダンジョンでは全く役に立たないが、捜索するだけで簡単にレベルが上がる。鈴菌なりの最速最短を追求した結果だった。
*
「今日は何階層でレベル上げをする?」
「カニが良い! カニ!」
「じゃ、毛ガニにしようか!」
アハロ団の乙女たちは、毛ガニをドロップする怪奇毛むくじゃら男が出没する階層へと進んだ。
「この匂い! 間違いない! 怪奇毛むくじゃら男の匂い! 三人も来てるから気をつけて!」
全身が毛むくじゃらのオッサン三体が現れた。カッパとキーコンとボーアがVO5スーパーキープヘアスプレー(エクストラハード)を構えた。
プシューッ、プシューッ、プシューッ!
三体の全身の毛が、瞬く間にカチカチに固まって身動きが取れなくなった。カチカチになった怪奇毛むくじゃら男たちは、菊の炎系魔法でアッサリと倒されて光の粒子となって消滅した。ドロップ品の毛ガニが積み上げられた。
「怪奇毛むくじゃら男って本当に面白いよね。こんなハードなヘアスプレーでカチカチに固まるんだもんね! 鈴菌さんはダイエースプレーが最強だと言ってたけど、VO5でも固まるから楽ちんだね!」
「まさか怪奇毛むくじゃら男にヘアスプレーが効くだなんて、普通は思いつかないよ。鈴菌さんって本当にRPGを最速最短でクリアしたい人なんだね!」
鈴菌が教えた攻略法を忠実に守りながら、アハロ団は安全にレベルを積み上げていた。
*
やがて、ボーアのレベルが二十に到達した。
ステータス画面に選択肢が現れた。
『暴食』 or 『傲慢』
食べることが何より好きなボーアは、迷わず『暴食』を選択した。
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ボーア(妖怪 Lv.20)
HP 18000
MP 1500
攻撃力 150
防御力 3000
素早さ 60
器用さ 15
運 15
【装備】
ジャージ上下、レーキ
【パッシブスキル】
強欲、暴食
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「ボーア、大丈夫? お腹空かない?」
「それが、全く空かないんだよ。暴食は不発スキルかな?」
その後、キーコンもレベル二十に到達した。
『金剛(小)』 or 『不壊(小)』
キーコンは『金剛(小)』を選んだ。
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キーコン(妖怪 Lv.20)
HP 6000
MP 6000
攻撃力 300
防御力 550
素早さ 500
器用さ 900
運 60
【装備】
ジャージ上下、木の棍棒
【パッシブスキル】
石耐性、金剛(小)
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続いて菊もレベル二十に到達した。
『カボチャ』 or 『リンゴ』
青森県出身という理由から、迷わず『リンゴ』を選んだ。
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菊(魔女 Lv.20)
HP 200
MP 26000
攻撃力 7
防御力 7
素早さ 6
器用さ 6
運 70
【装備】
魔女のローブ〔魔法ダメージ5%軽減〕、4点杖
【アクティブスキル】
毒、リンゴ
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新しいスキルを獲得した菊が早速試してみた。
すると——何もない空間から、ころん、と毒リンゴが一個落ちてきた。
「できたどぉ! 新スキルの毒リンゴだ。スキルだはんでMPもたいした減ってねぇよ。一個こさえるのにMPは5しか減らねぇはんで、めったらだにお得だべさ。あとは、この毒リンゴがどれだけ強い毒だのか、試してみねばねぇなぁ〜」
「凄いよ! 菊ちゃん! 次の怪奇毛むくじゃら男が出たら食べさせようよ! 怪奇毛むくじゃら男ってリンゴ食べるかな〜?」
すぐに怪奇毛むくじゃら男が出現した。
菊が毒リンゴを怪奇毛むくじゃら男の足元へ放り投げた。怪奇毛むくじゃら男はその毒リンゴを拾い上げ、美味そうにかじりついた。
その瞬間——怪奇毛むくじゃら男が、即死した。
「「「「え〜〜〜!?」」」」
アハロ団全員が固まった。
「こんなに簡単に倒せるなら、もうVO5のヘアスプレーは買わなくても良いよね! 菊ちゃんしかレベルは上がらないけど……まずは菊ちゃんのレベル上げをしようか? 毒リンゴを使えば寝ながらでもレベル上げができるよね?」
「それもいいばって、そろそろお昼だはんで、弁当食うべ。今日もセーフゾーンさ行って、みんなでべんとう食わねが?」
*
アハロ団は十九階層の元禅光の隠し部屋——セーフゾーンで弁当を広げた。
食後のインスタントコーヒーを飲みながらのんびりしていると、セーフゾーンの外をエレベーターへ向かう冒険者パーティーが通り過ぎた。
明らかにアハロ団よりも格上の装備をした四人パーティーだった。アハロ団がいることに気づいていない様子で、そのまま二十階層へ降りていくエレベーターに乗り込んだ。
「今の冒険者パーティーが二十階層の魔物をやっつけるとこ見ておこうか? 私たちはまだ二十階層の魔物を見てないしさ」
「うん! そうだね! あの人たちの戦い方を見せてもらおう!」
アハロ団はすぐに格上の冒険者の後を追って、二十階層へ足を踏み込んだ。
*
二十階層に降り立ったが、先程の冒険者パーティーの姿はすでに見えなかった。
「あっちの方向だよ」
ボーアの鼻が匂いを捉えた。指さした方向へ進む。草原の向こう、遠くへ向かって足跡が続いていた。
しばらく原付を走らせると、ボーアが表情を変えた。
「あれ? おかしいよ? 誰か怪我した! 血の匂いがする。でも、魔物の匂いはしないから事故かな?」
「魔物の匂いがしないなら、ただの事故じゃない? 転んだのかな?」
悲鳴が聞こえた。
怒号が聞こえた。
アハロ団は原付のアクセルを開けて声のする方へ駆けた。
やがて——見えてきた。
原付を急停止させた。
「あれって……ドラゴン!?」
草原の先に、大型のドラゴンがいた。
鱗が陽光を反射して、不吉に光っていた。その前で、格上の冒険者パーティーが必死に応戦していたが——すでにほぼ壊滅状態だった。
菊が叫んだ。
「エレベーターさ、戻れーーーー!!」
一同はフルスロットルで来た道を引き返した。
六台の排気音がひとつになって、草原を逃げ惑った。
ポポポポポ——トトトトト——ラララララ——ロロロロロ——ブブブブブ!
カッパのバックミラーに映っていた。格上の冒険者パーティーが、全滅するのが。
そして、冒険者パーティーを倒したドラゴンの眼光が、逃げ去る原付の群れを、確実に捉えているのが。
バックミラー越しに——カッパは、ドラゴンと目が合った。
(目が合った。確実に、目が合った)
「調子に乗ってごめんなさい……調子に乗ってごめんなさい……調子に乗ってごめんなさい……」
カッパの懺悔は、ドラゴンには届いていなかった。
ドラゴンはゆっくりと翼を広げ、優雅に飛び立った。
その巨大な影が、逃げるアハロ団の頭上に差し掛かってきた。
エレベーターまで、まだ距離がある。
アハロ団は絶体絶命を迎えていた。
毒リンゴについて:
菊のアクティブスキル「毒」と「リンゴ」が組み合わさって生まれた「毒リンゴ」。MP消費はたったの5。白雪姫の継母が使った手法と全く同じですが、菊は継母でも魔女でもなく……いや、魔女でした。青森産リンゴの威力は異世界でも健在です。
スキル選択メモ(Lv.20到達組):
・ボーア:「暴食」→現状、お腹は全く空かない模様。不発スキルの可能性あり。
・キーコン:「金剛(小)」→石耐性と組み合わせで、物理への防御がさらに強固に。
・菊:「リンゴ」→毒リンゴが完成。怪奇毛むくじゃら男には即死効果を確認。
VO5スーパーキープヘアスプレー(エクストラハード):
怪奇毛むくじゃら男への有効性は実証済み。ダイエースプレーとの比較検証は今後の課題です。
ドラゴンについて:
格上の冒険者パーティーを全滅させた上で、逃げる原付の群れを空から追いかけてきています。鈴菌はこの日、ひったくり犯の捜索中です。




