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K-87 令状なきガサ入れ

 壁の中に吸い込まれたアハロ団が辿り着いたのは、薄暗い隠し部屋だった。


「ここは隠し部屋だな……」


「カッパ! 大丈夫?」


「うん。全然平気! ここって隠し部屋だね! お宝あるかな?」


 カッパは早くも目を輝かせていた。


 一同はランタンを灯して、部屋の中を物色し始めた。かつて誰かが住んでいたような生活感が漂っているが、もう何年もここを使われた形跡はない。埃が積もり、古びた家具が薄闇の中に沈んでいた。


 そんな中、鈴菌が突然声を上げた。


「おぉ! ガサ入れしてたら、俺にも経験値が入ったぞ! 初めてレベルアップしたぜ!」


「鈴菌さん! やったね! でも、どうして敵を倒してないのに経験値が入ったの? ラーナはどう? 私は全く経験値なんて入ってないよ?」


「私もダメみたい。ガサ入れだから、宇宙刑事だと家宅捜査ってことで経験値が入るのかなぁ〜。鈴菌さんだけレベルアップするなんて裏切り者〜! これでレベル1のままなのは私だけになっちゃった!」


「宇宙刑事だから家宅捜査か……まあ、それも満更ありえるな。それなら、もしかして事件解決なんかしたら一気にレベルアップするんだろうか……」


「きっとそうだよ! ギルドに帰ったら犯罪関係のクエストがないかバニーさんに聞いてみよう!」


「そうだな! ようやく俺にもレベルアップの希望が見えてきたぜ!」


   *


 その後、ガサ入れを続けていたアハロ団のゴミの山の中から、大型の桐の箱が出てきた。


 桐の箱を見つけた瞬間、また鈴菌のレベルが上がった。


「うおっ! この棺のような桐箱を見つけただけでもレベルアップしたぜ! この隠し部屋だけでもうレベル3になったぞ、ステータスが爆上がりだぜ!」



鈴菌 (宇宙刑事Lv,3)


HP 300

MP 300

攻撃力 300

防御力 300

素早さ 300

器用さ 3000

運 30


(装備)

布のツナギ、茶色のレザージャケット、革の胸当て、革のガントレット、革の膝あて、特殊警棒、革の盾、魔のサンダル[素早さ+0.5%]



 鈴菌のステータス画面には、全パラメータが大幅に跳ね上がった数値が並んでいた。特に器用さの数値が突出して高い。


「どれ、早速、棺を開けてみるか」


 鈴菌は桐の箱を丁寧に開けた。


 そして、思わぬ物を見つけてしまった。


「こ、これは……十一面観音像か……」


 棺の中に、木彫りの十一面観音像が静かに横たわっていた。


 カッパはその像を見て少し怯えながらも、目を離せずにいた。


「なんか不気味だね。でも、何故か水晶髑髏みたいに引き寄せられるんだよ〜。もしかしたら、私の骨董スキルって古い物に反応するのかなぁ〜」


「そうかもしれないな。水晶髑髏も地球では古代文明の遺産とも言われているくらい古いものだからな。この十一面観音像も相当古い。この作りは七百年前……いや、千年前のものかもしれないぞ?」


 鈴菌が観音像の年代を推理した瞬間——また、レベルが上がった。


「うわっ! びっくりした! また、レベルが上がったぞ! 十一面観音像を推理したからか? もはや捜査に関する動きをするだけでレベルを上げられるのか? だとしたら、俺のジョブも当たりじゃないか!」


「え〜! それじゃ私もど根性を見せるとレベルアップするかな〜? ウサギ跳びでもしてみようか?」


 ラーナはそのまま隠し部屋の床でウサギ跳びを始めた。


 レベルは上がらなかった。


「やっぱりダメでした〜! うふふ」


 ラーナが思わず笑うと、アハロ団全員がつられて笑った。


 薄暗い隠し部屋の空気が、ほんの少しだけ和んだ——その瞬間。


 棺の中の十一面観音像の目が、開いた。


   *


 ゆっくりと、四つん這いで棺の中から這い出してきた。


 身の丈はおよそ百八十センチ。霊木で刻まれた像が、それ自体で動いていた。


 妖怪トリオのカッパ・キーコン・ボーアが素早く身構えた。


 すると、その三人の動きに反応するかのように、十一面観音像の十一の瞳が一斉に見開き、アハロ団全員を異様な気配で睨みつけた。


 まだレベルの低い鈴菌とラーナには、その威圧だけで腰が抜けた。二人は床に座り込んで立ち上がれなくなっている。


 菊が二人の前に立ち塞がった。それを見たボーアが、菊の防御力の低さを知っているがゆえに、菊の前にさらに立って盾役になった。


 菊は四点杖を構えて、いつでも魔法を放てる体勢で待ち構えた。


 カッパとキーコンが挟み撃ちにできるよう、十一面観音像の左右へと回り込んだ。


「キーコン! 同時に仕掛けるよ!」


「りょ!」


「「せーの!」」


 二人が突貫した瞬間——十一面観音像は、カッパの斧とキーコンの棍棒を、両手でソフトタッチに受け止めた。


 そして、十一面観音像の両目が眩く煌めき、床に座り込んでいるラーナへとその視線が向いた。


 ラーナは煌めきの中でも、それが自分を見つめていることをはっきりと感じた。


「キャアァァァァァァァァァァアア!」


 ボーアがラーナの前に立って壁になった。


 その瞬間——十一面観音像が、口を開いた。


「ウサギ跳びは、膝や足首に極めて強い負担がかかるため、疲労骨折や半月板損傷、膝の靭帯損傷などの重篤な怪我を引き起こすリスクが非常に高いトレーニングですわ。特に成長期の子供においては、成長軟骨を損傷し、膝の下が突出する『オスグッド・シュラッター病』を誘発する危険性があり、現代のスポーツ科学では有害なトレーニングとして禁止・否定されていますのよ。お嬢さんもお年頃ですもの。お気をつけ下さいね」


「「「「は?」」」」


 十一面観音像は、菩薩の笑顔でラーナを見つめた。


「ですから、ウサギ跳びは膝や足首に極めて強い負担がかかりますの。お嬢さんの膝のためにも、ウサギ跳びはあまりオススメできませんわ」


「……うん。ありがとう……」


 ラーナは怯えながらも、こくりと頷いた。


 十一面観音像はにっこりと微笑んで、腰を抜かしているラーナへ手を差し伸べた。ラーナが恐る恐るその手を取ると、像はゆっくりとラーナを立ち上がらせてくれた。


「あらあら、お洋服が汚れましたわ、小汚い部屋でごめんなさいね。最近、ここのご主人様がお帰りにならないものですから、部屋の掃除も疎かになってしまったの。本当になんのお構いもできませんでごめんなさいね〜」


「「「なんだコイツ!?」」」


「あらあら、ごめんなさいね。まだ自己紹介がまだでしたわね〜。私は十一面観音。顔が沢山あるから十一面観音なの」


「「「それは誰でも知ってるわ!」」」


「あらあら、そうでしたの。私以外にも十一面観音像がもう世の中にはあるのですねぇ〜。さすが我が主様」


 鈴菌が腰を抜かしたまま、静かに口を開いた。


「まさか……アンタのご主人様というのは……禅光なのか?」


 その瞬間——またレベルが上がった。


「あらあら、貴方様は我が主のお知り合いの方々でしたか〜。それでは皆様にお尋ねしますが、我が主は今何処へ?」


「たぶん死んでるぞ? 禅光が生きていた頃から既に千年以上も経っているからな」


「これはこれは不可思議なことを仰いますね。ここネモの街では人は歳をとりませんのよ?」


「それはそうなんだろうが、禅光は史実として、七三六年に笠寺に十一面観音像を作ったと記録されている。当時は天林山小松寺という名前で、今とは全く違う寺だったそうだがな。おそらく、禅光はアンタを作ったあとで日本に戻り、笠寺で新たな十一面観音像を作り生涯を終えたはずだ。ちなみに今の日本は二千二十七年だ。普通の人間ならとっくに死んでる」


 鈴菌が千年前の人物の推理をした瞬間、再びレベルが上がった。


 十一面観音像は、菩薩のような微笑みで静かに語り出した。


「あらあら……。左様でございましたか。我が主、禅光様は、あの小さき島国へと戻り、新たな慈悲の形を遺して、安らかに天へ召されたのですね。……ふふっ、あの方らしいですわ。修行の末に得たネモの叡智を独り占めにせず、病に苦しむ人々を救うために捧げきったのでしょう。仏の道において、肉体はただの器。千年という月日も、瞬きのようなものに過ぎません。主が迷うことなく、あるべき場所でその命を燃やし尽くし、清らかな浄土へと至られたこと……これこそが、私にとって最大の功徳でございます。寂しゅうございますが、悲しくはございませんのよ。主の心は、今もあちらの十一面観音様と、そしてこの私の中に、静かに息づいておりますから」


   *


 カッパとラーナと菊が、十一面観音像に向かって語り始めた。


「あのね、笠寺観音は私とラーナと菊ちゃんを救ってくれたお寺でもあるんだよ! だから、十一面観音像ちゃんの主さんは私たちの恩人でもあるんだよ! 空襲で焼け野原にはなったけど、今も笠寺観音はちゃんとあの場所に残ってるよ!」


「そうそう! 昔のお坊さんにも今のお坊さんにも歩兵の本領を歌って怒られたけど、凄く素敵なお寺! 私たちを救ってくれたお寺!」


「んだねぇ。笠寺観音様が居ねがったら、もしかしたば私とカッパとラーナだば、爆弾で木っ端微塵になってだかも知れねぇんだぉ。笠寺観音様は、それほど徳の高い、ありがてぇお寺だべ。生かしてもらったご恩、忘れねようにしねばまいねぇ」


 十一面観音像は、とても良い顔をしていた。


 十一の瞳が、静かに細まった。


   *


 アハロ団は十一面観音像が敵でないことを悟り、静かに隠し部屋を出た。吸い込まれた壁に触れると、ちゃんとエレベーター前の廊下へ戻ることができた。


 それぞれの原付に跨り、エレベーターへ乗り込もうとしたところで——鈴菌が振り返った。


「おい。十一面観音像。何故、貴様もエレベーターに乗っている?」


 アハロ団が隠し部屋を出る際、十一面観音像も無許可でついてきていた。そして、エレベーターにまで無許可で乗り込んでいた。


「え? 行けませんか? 私もこのエレベーターが好きなんですもの。たまたま同時に乗るだけですわ」


「「「絶対、嘘だ!」」」


「まさか、アンタも着いてくる気じゃないだろうな?」


 鈴菌がその心を読んだ瞬間、また静かにレベルが上がった。


「嫌ですわね! むしろ私に着いてきているのは皆様の方でございますですわよわよわよよよ!」


 明らかに動揺していた。


「俺たちはこのエレベーターで上に上がるつもりだぞ? アンタも上で良いのか?」


「はい。私も上に用事がございます!」


「そうか。それなら、十一面観音像は上に行け。俺たちは次のエレベーターで下に行く。今言った俺たちが上に行くというのは嘘だからな」


 アハロ団がエレベーターから降りようとした瞬間——十一面観音像が、泣きながら鈴菌に縋りついてきた。


「嗚呼……。なんて卑怯なことをする刑事さんなんでしょう……。こんな隠し部屋に千年以上も待っていたんですよ? 私一人くらい増えても問題ないはずです!」


 アハロ団の乙女たちが笑い出した。鈴菌も、必死に縋りついてくる十一面観音像を見て、笑ってしまった。


「……しょうがないな」


 こうして、千年以上の永き眠りから覚めた十一面観音像が、アハロ団の一員となった。


 十一面観音像はこの時、一番の微笑みをしていた。


   *


「もう一台、原付が必要だな」


「そうですね! やっぱりSUZUKI車ですよね!」


「当たり前だ!」


 二人のスズ菌感染者が十一面観音像用の原付をあれこれ悩みながら、エレベーターを起動させた。


 アハロ団は、二十階層へと向かって降りていった。





禅光ぜんこうについて:

天平八年(七三六年)、禅光上人が笠寺に十一面観音を刻んだ記録があります。禅光はダンジョン攻略のためではなく「修行」のためにネモのダンジョンへ籠もり、悟りを開いた後に日本へ帰還しました。セーフゾーンは禅光が修行のために作った聖域であり、魔物は入れない場所です。悟りを開いた者が出ていくのは、仏道として当然のこと——千年以上ひとりで待ち続けた十一面観音像にとっても、主が安らかに逝ったことは「悲しみ」ではなく「功徳」だったのです。


ウサギ跳びについて:

十一面観音像の言う通りです。現代のスポーツ科学ではウサギ跳びは膝・足首への過剰な負荷から選手生命を縮めるとして否定されています。ラーナも今後はウサギ跳びをしないようにと伝えておきます。


なお、アハロ団の原付は現在七台になる予定です(SUZUKI車)。

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