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K-83 kasaderaとは

 アハロ団は、モト子の前に一列に並んで正座していた。


 モト子は腕を組んで仁王立ちのまま、静かに語り始めた。


「で? ダンジョンを発掘したと? そんな馬鹿な話を信じるとでも思ってるの?」


「ダンジョンを発掘したのは申し訳ない。ただ、元々、ダンジョンはここにあった物だ。俺はその入り口を見つけてしまっただけなんだ」


「そんな馬鹿な事があるの!? 元々、ここがダンジョンだなんてどうやって証明するのよ!」


「それが、証明できるんだよ。本当にここは、およそ千年以上も前からダンジョンの門前街と繋がっていたらしい」


「千年前に笠寺に人なんて住んでるわけ無いでしょ!?」


「ところが、千年前からの笠寺の因果を聞くとモト子も納得できると思うぞ。カッパとラーナのモレとモルフェが劣化することなく八十年もここで眠っていた理由も、全て説明できるんだよ!」


 鈴菌が嘘を言っているように見えなかった。

 モト子は深く息を吐いてから、ランチタイムが終わってから事情を聞くことにした。


   *


 厨房では菊が戦利品の松茸を使って炊き込みご飯を作っていた。


 アハロ団は松茸ご飯をワクワクしながら待ちつつ、地下室で岩風呂の石を積み上げていた。


「とうとう店長にバレちゃいましたね……」


「まあ、遅かれ早かれバレてたんだ。気にするな。それに、バレた方が今後は動きやすいだろ?」


「それもそっか!」


 ロードランナー師弟コンビはノーテンキに笑いながら石を積み上げた。


   *


 松茸ご飯が炊けると、一同は一階のカフェへ上がってもりもりと食べた。


 ランチタイムが終わり、アハロ団とモト子・花による事情聴取が始まった。


 アハロ団は再び、モト子の前に一列に並んで正座した。


 鈴菌が代表して語り始めた。


「まず、お前らはここ笠寺の歴史についてどこまで知っている?」


「それは……カッパとラーナが1944年にタイムスリップしたから、ここが空襲で焼け野原になった事は知ってるわよ?」


「まあ、そうだな。そこまでは実際に見てきた二人から詳しく聞いたよな。でも、俺が聞いてるのはそんな最近の歴史じゃない。笠寺の始まりのことを聞いている」


「笠寺の始まり?」


「そう。笠寺の始まりだ!」


   *


 鈴菌は、笠寺の始まりから語り始めた。


 天平八年(七三六年)。


 禅光という僧侶が霊木を用いて十一面観音を掘り、祀った。これが笠寺観音の始まりだ。当時はまだ、笠寺ではなく『天林山 小松寺』と呼ばれていた。


 それから時が経ち——雨ざらしになった観音様を見た鳴海長者の下女が、自分の持っていた笠を観音様に被せた。これがきっかけで、この地を「笠寺」と呼ぶようになった。その下女は後に玉照姫と呼ばれるようになり、藤原兼平の妻となった。笠を被せた縁が観音様の巡り合わせだとして、この出来事が「玉の輿」という言葉を生んだとも言われている。


 延長八年(九三〇年)。夫婦は観音様への感謝を込めて笠覆寺と名付けた。通称が笠寺だ。


 鈴菌はそれをまるで見てきたかのように、具体的に語り続けた。


「鈴菌のくせにやたらと笠寺について詳しいじゃないの。まさか、鈴菌までタイムスリップしたとか言わないでよ?」


「俺はタイムスリップした訳じゃない! 当時のことを知っている奴から直接聞いただけだ。実はこのダンジョンは、最初に話した禅光という僧侶がここにゲートのような鳥居を作ったそうだ。それ以来、数人の日本人がこのダンジョンへ訪れている。お前らでも知ってる人物だと……織田信長と徳川家康だ!」


「「は?」」


 モト子と花の声が、見事に揃った。


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ! どうして信長と家康なのよ! この二人がどうして笠寺と関係があるのよ!」


「実は史実として、家康はこの笠寺観音で今川と人質交換をされている。当時は信長が十五歳で家康が六歳だったらしい。天文十八年(一五四九年)の事だ。こんな場所で人質交換をしていたなんて知らなかっただろ? 俺も知らなかったぜ? でも、ちゃんと裏取りは取った。間違いなく史実として残ってる」


 モト子と花はすぐにスマホで検索を始めた。


「……あった! 本当だ! 家康が笠寺観音で人質交換してる……」


「な? 俺もネモの街でそれを初めて聞いて驚いたぜ! それで、この時に信長がまだ幼い家康を今川に渡したくなくて、このダンジョンに偶然逃げ込んだらしい。その後、信長はダンジョン攻略を失敗して魔王化したそうだ。ここからの歴史は知ってるよな? 信長は第六天魔王って呼ばれてたろ? あれは本当に魔王化したそうだ。だから、身内に討伐された。信長がダンジョン攻略をミスったから、その後、家康が信長の代わりにダンジョンを攻略して封印したそうだ」


「それって……本当なの……?」


 モト子が菊の顔を見た。

 菊は真剣な顔で、静かに頷いた。


「な? 俺が発掘したからというよりも、元々、ここにダンジョンはあったんだよ! 全ては最初にここに異世界への入り口を作った禅光が悪い! 禅光の作った霊木の鳥居は朽ちることがないそうだ。だから、再び誰かが家康のようにダンジョンを攻略して封印しなくてはならない。最初は俺とカッパの二人で封印しようと頑張ってはみたが、ダメだったのでヨンキュウ部の奴らも呼んだ。……まあ、ザックリ話すとこんな感じだ。そのうちちゃんと封印するから気長に待て」


 モト子は唖然としながらも、文句だけはきっちり言った。


「気長になんて待てないわよ! 今はまだシーズンオフだから大目に見るけど、今年のゴールデンウィークまでには蹴りをつけてよ! ところで家康は何年かかって封印できたの?」


「家康が初めてダンジョンに入ったのは信長と共に入ったから六歳だな? 家康がダンジョンの封印に成功したのは大阪冬の陣の頃らしいから、その頃の家康は七十三歳だな。つまり初めて入ってから、六十七年後にようやく封印に成功してるな!」


「気長に待つにも程があるわ!! どんだけ待たせんのよ! とにかくゴールデンウィークまでには封印しなさいよ! これは命令よ!」


 顔を真っ赤にして怒っているモト子に、カッパが余計なことを告げた。


「店長、鈴菌さんは戦えないよ?」


「「は?」」


「そ、それはどういう事? それじゃ誰が戦ってるの?」


「私とキーコンとボーアと菊ちゃん! 特に菊ちゃんは強いんだよ!」


 モト子は目を白黒させ、そのまま気を失った。


「店長ーーー! 大変! 店長が倒れたーーー! 菊ちゃん! 救心! 救心を飲ませてーーー!」


   *


 救心を飲んだモト子が意識を取り戻すと、鈴菌へ静かに尋ねた。


「それじゃ鈴菌はダンジョンで何をしてるのよ?」


「俺は荷物持ちだ!」


 鈴菌はニカッと笑って答えた。


 モト子はダンジョンの封印を諦めた。


 そんなモト子に、花がそっと呟いた。


「モト子さん。私、薙刀なら得意ですから、私が戦いましょうか? 鈴菌さんよりは強い自信がありますよ? 幕末でも鈴菌さんは全く戦えてなかったですし」


「さすが花ちん! そうだよ! 花ちんは幕末でも無双してたんだよね! 花ちんならダンジョンを封印できるよね?」


「任せてください! 青森明の星高校 薙刀部先鋒 花。参ります!」


 花がドヤ顔で構えを作った瞬間、鈴菌が水を差した。


「残念ながら、ダンジョンでは適性がないと薙刀も使えないぜ?」


「「は?」」


「ダンジョンではジョブが全てだ。ジョブというのは、鑑定水晶で占う事で分かる。自分で選べるもんじゃない。一度、ジョブが決まればジョブチェンジは基本的にできない。例えば、信長のジョブは『ガンナー』だったらしい。つまりガンナーだと銃全般は使えるが、剣や刀は装備できない。花ちゃんが薙刀を使いたいと思っても、薙刀を扱えるジョブが当たらないと使えないんだよ。そう考えると薙刀を扱えるジョブって何だと思う? 俺にはさっぱり分からないぞ?」


「私も薙刀のジョブはわからないや!」


 モト子は焦ってカッパを見た。


「カッパ! カッパのジョブはなんなのよ! ちゃんとまともに戦えるんでしょうね!」


「妖怪!」


「私も妖怪!」


「同じく妖怪です!」


 カッパ、キーコン、ボーアが、三人揃って笑顔で答えた。


「「こりゃダメだ……」」


 モト子と花の肩が、同時にガクッと落ちた。


 まだジョブを聞いていないラーナの方を見ると、ラーナが先手を打った。


「私も戦えないけど、ジョブは気に入ってるよ? 私のジョブはど根性! なんかかっこいいでしょ? でも、私のステータスはスライムよりも弱いんだよ」


鈴菌もドヤ顔で胸を張ってモト子へ死の宣告を放つ。

「ちなみに俺のジョブは宇宙刑事だ!戦えないがめちゃくちゃ気に入ってる!」


 モト子は泣きそうな顔で菊を見た。


「店長さん! 心配するなぉ! 私のジョブだば魔女だはんでなぁ。誰よりも戦えるんだぉ。だはんで、この私がこのダンジョンの封印、必ずしてやるはんでなぁ!」


 菊の言葉を聞いて、モト子にほんの少しだけ希望が見えてきた。


 ほんの少しだけ。


   *


 アハロ団はずっと正座をさせられていたので、全員の足がしびれ切っていた。


 菊の号令で、一同は一列に並んだ。


「♪ヨーでる ヨーでる ヨーでる ヨーでる 妖怪出るけん出られんけん♪」


 アハロ団は懸命に、元気よくようかい体操第一を歌いながら身体を解していた。


 モト子と花はそれを眺めながら、不安でいっぱいになっていった。


 千年前の禅光という僧侶が作った霊木の鳥居は、今も地下で朽ちることなく輝いている。


 織田信長が魔王化して。

 徳川家康が六十七年かけて封印して。

 それでも今また、ダンジョンは開いていた。


 今度の封印を任されたのは——荷物持ちと、妖怪三人と、ど根性と、魔女と、そして笠寺のライダーズカフェの店員たちだった。


 アハロ団のようかい体操第一は、まだ終わらなかった。




笠寺観音(笠覆寺)について:

正式名称は天林山 笠覆寺りゅうふくじ。天平八年(七三六年)、禅光上人が霊木で十一面観音を刻んだことに始まります。雨ざらしの観音様に笠を被せた下女が玉照姫として玉の輿に乗った伝説は、「玉の輿」という言葉の語源のひとつとされています。また、天文十八年(一五四九年)に徳川家康(幼名・竹千代)が織田信長の父・信秀によって今川氏と人質交換された場所として、史実に記録が残っています。名古屋市南区笠寺町。今も観音様は、西之門の路地のすぐそこに鎮座しています。


ネモの街のダンジョンルールまとめ:

・ジョブは鑑定水晶で占い、自分では選べない。一度決まるとジョブチェンジは基本不可

・ジョブに合わない装備は使用不可(ガンナーは銃のみ、剣士は剣のみ等)

・経験値はトドメを刺した者のみが獲得(パーティー間のシェアなし)

・一階層:スライム等、対人ダメージ不可の魔物のみ。ギルド許可なしで入場可能

・四階層以降:ギルド認定パーティーのみ入場可能

・アハロ団は現在「階層フリー資格」保持。ただし本人たちはまだ弱い


家康が封印に成功するまで六十七年かかりました。モト子のゴールデンウィークという期限については、現在ギルドへの問い合わせ中です。


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