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K-82 発掘したらダンジョンだった件

「よし! 皆、降りられたな! それじゃ行くぞ?」


 鈴菌が先頭を歩き、縦穴の底に掘られた横穴へと踏み出した。


 横穴の中はひんやりとした湿り気と土の匂いに包まれていた。スコップで強引に削り進めた生々しい土の壁が両側に迫り、足元は固く踏み固められた地面だった。


 十メートルほど進んだところで、鈴菌の足が止まった。


 目の前に、鳥居があった。


 真っ赤な、巨大な鳥居だった。


 荒削りの土壁を背景に、漆塗りの艶やかな光沢を放ちながら、鳥居はそこに在った。周囲の壁はスコップで削り進めた無骨な土の色のままなのに、その鳥居だけが「そこに在ることを世界が拒絶している」かのような違和感を放っていた。


 そして、真の驚愕は鳥居の向こう側にあった。


 本来そこにあるはずの土壁は消え失せていた。二本の柱に切り取られた空間は、精巧な動く絵画を嵌め込んだ額縁と化していた。


 青い空が広がっていた。

 正午の陽光が降り注いでいた。


 その向こうには、見たこともない建築様式で築かれた街が広がっていた。尖塔の屋根が連なり、大通りを色鮮やかな服を纏った人々が行き交い、遠くからは市場の喧騒が微かに風に乗って聞こえてくる。


 一歩踏み出せば、湿った地下道からそのまま乾いた石畳の街路へと繋がってしまう。


 そんな物理法則を無視した断絶が、鳥居という境界線を境に、完璧な調和を保って存在していた。


「今日こそは岩風呂用にストーンゴーレムを倒すぞ! 皆!」


 鈴菌の背後で、ヨンキュウ部の乙女たちが息を呑む音が響いた。


 地下の暗がりの中で、真っ赤な鳥居は、異世界へと繋がる鮮血のような入り口として、静かに彼女たちを誘っていた。


   *


 一同が鳥居をくぐると、そこはまさに異世界だった。


 ここはダンジョンの門前街ネモ。


 数週間前に鈴菌とカッパが掘り進んだ横穴の先に現れた、異世界への扉だった。


 一同は慣れた足取りで街を闊歩し、冒険者ギルドへ直行した。


 受付には、いつもの美女が立っていた。


「バニーさん! 今日もよろしくね! 私たちのロッカーの鍵を下さいな!」


「あら? また皆さん勢揃いなんですね。今日は気合いが入ってますね!」


 バニーが鍵を渡すと、カッパはそれを鈴菌へと手渡した。鈴菌とヨンキュウ部の乙女たちはロッカールームへと消えていく。


「中々、ストーンゴーレムが倒せなくて困ってるんだよ〜。今日は菊ちゃんがいるから何とかなるかな?」


「そうですね。ゴーレム系は物理攻撃はほぼ無効化されるので、菊さんなら簡単に倒せますよ! 頑張ってください!」


 カッパはバニーに親指を立てて、自分もロッカールームへと入っていった。


   *


 装備を整えて出てきた一同の姿は、こうだった。


 鈴菌——革の胸当て、革の盾、革の膝あて、革のガントレット。武器は特殊警棒。


 カッパ——ジャージと斧。


 ラーナ——カエルの着ぐるみ。


 キーコン——ジャージと棍棒。


 ボーア——ジャージとレーキ。


 そして菊——黒い魔道士のローブと杖。


「行ってらっしゃい! ご安全に!」


 バニーに見送られ、一同はギルドの裏にあるダンジョン入り口へと消えていった。


   *


「鈴菌さん、いきなりストーンゴーレムの階層に行くんですか?」


「そうだ。菊さんのMPを無駄に使いたくない。とりあえずゴーレムまで一気に行って、菊さんの魔法で倒せるなら岩風呂の素材集めをする。もし菊さんでもダメなら即撤退して毛ガニでも集めるか!」


 毛ガニという言葉を聞いて、ボーアが目を輝かせた。


 一同は一階層から順番にダンジョンを降りていく。


 ネモのダンジョンは、下に行けば行くほど敵のレベルと難易度が上がる仕組みだ。一階層ならカッパ一人でも余裕で回れる。二階層でもカッパとキーコンとボーアと菊なら問題ない。三階層からはようやく一人では厳しくなり、四階層からはギルドが認定したパーティーでなければ入場を許可されない。


 しかしアハロ団は、ギルドから既に「階層フリー資格」を得ていた。その気になれば最下層まで行って良い。


 ただし——彼らはまだ弱かった。特に、鈴菌とラーナはほとんど戦えなかった。


   *


 二階層まで一気に降りてきたところで、ボーアが手を上げた。


「あの角を曲がるとキノコボーイが三体います!」


「相変わらず、ボーアの索敵は早いな! 助かるぜ! キノコボーイならカッパとキーコンで倒せるな?」


「「りょ!」」


 カッパとキーコンが角まで駆けていき、出会い頭に斧と棍棒でキノコボーイ三体を瞬殺した。


「倒したよ〜!」


 キノコボーイ三体は光の粒子となって消滅した。後にはドロップ品として、松茸が数本積み上げられていた。


 カエルの着ぐるみを着たラーナがニンマリ笑いながら袋へ回収した。


「松茸ゲット! これもアハロで調理してくれるかな?」


「松茸だば、私が炊ぎ込みご飯作ってやるはんでなぁ。月曜日の弁当は松茸ご飯だぞ! 楽しみにして待ってろな!」


 ボーアが松茸ご飯と聞いて、心底喜んだ。


「キノコボーイって弱いくせにドロップ品が松茸だから嬉しいよね」


「こんな二階層で松茸ドロップするだば、もっと低い階層だばもっと凄げぇキノコもドロップするんでねぇの? トリュフだの何だのってよぉ!」


「そうとも言いきれないぜ? 松茸もトリュフも地球では高級品ってだけで、異世界ではエノキ程度の価値しかないかもしれないぞ? それに、食用キノコばかりとは限らないからな。即死効果のある毒キノコなんてのが出るとチートだぜ?」


「そうだね! そんな即死キノコが出てくれたら、鈴菌さんもラーナも戦えるのにね!」


 鈴菌が申し訳なさそうに頭を下げた。


「すまんな……俺が全く戦えないのは本当に申し訳ないと思ってる。早く敵にダメージを与えて経験値ってのを体感してみたいぜ!」


「私も! 私も! 早く経験値が欲しいよ〜! 鈴菌さんと私だけがまだレベル1のままだよ〜。どうして攻撃できないんだろ?」


「仕方ないよ。きっと遊び人ポジションなんだよ。いつか賢者にジョブチェンジするかもしれないよ?」


   *


 この異世界では、パーティーを組んでいても経験値のシェアはない。トドメを刺した者のみが経験値を獲得できる仕組みだ。


 なので、鈴菌とラーナにもトドメを刺してもらおうとあらゆる手を尽くしたのだが——二人はいくら刺しても叩いても潰しても、敵にダメージを与えることができなかった。


 ギルドでその理由を尋ねると、ジョブが関係しているとのことだった。


 鈴菌のジョブは『宇宙刑事 Lv.1』。ギルドの職員でも初めて見るジョブで、魔物へのダメージが無効化される理由は謎のままだという。


 ラーナのジョブは『ど根性』。これもまたギルドが見たことのない謎のジョブで、ダメージ無効化の理由は不明だった。しかもラーナのステータスはほぼスライムと同程度という惨状で、軽く平手で叩かれただけで瀕死になる。一同はせっせとダンジョンで稼いだ金を使い、物理攻撃軽減と水系魔法無効が付与された「カエルスーツ」を購入してラーナに着せた。現状のアハロ団の財力で買える中では最高の防御力だった。


 一方、カッパとキーコンとボーアのジョブは三人とも『妖怪』。ステータスが化け物で、朝は寝床でグーグーグーで弱いのだが、夜は墓場で運動会なので、夜ステージでは墓場で運動会ができるほどパワフルになる。ギルドからも「当たりのジョブですよ! お化けは死なないですからね!」とお墨付きをもらっていた。


 そして最大の当たりを引いたのが菊だった。菊のジョブは『魔女』。黒魔法を扱える希少なジョブで、今はまだ初級魔法しか使えないが、レベルアップすれば大火力が期待できるという。弱点は物理攻撃が一切できないことと、MPが尽きると強制的に睡眠状態に陥ること。


 これがネモの街でのアハロ団だった。


   *


 やがて、一同はストーンゴーレムが出現する六階層へと辿り着いた。


「ストーンゴーレムです! 来ます!」


「よし! 菊さん! まずはファイアだ!」


「……深淵より這いずる不浄の熱、我が指先を焦土の門と成せ——焦熱の弾丸クリムゾン・バレット!」


 ストーンゴーレムは動きが鈍重だった。菊の放った火の玉は吸い込まれるようにど真ん中を直撃し、バゴーン、と乾いた炸裂音を立てた。


 ゴーレムは粉々に砕け散り、光の粒子となって消滅した。


 後にはドロップ品として、岩風呂にちょうどいい大きさの石がいくつも積み上げられた。


「やったー! 菊ちゃん! 石がいっぱい出たよ!」


 ラーナが重そうに石を袋へ詰め込んだ。ラーナのステータスではその袋を担ぐことができないので、鈴菌がひょいと肩に担ぎ上げた。鈴菌は敵へのダメージこそ通らないが、肉体のステータスは普通の男の遥か上をいく。軽自動車くらいなら転がせる程度の怪力だった。敵に触れても傷一つつけられないのに、荷物だけは馬並みに運べる——なんとも不思議な男だった。


 その後も菊のMPが尽きかける寸前まで、一同はストーンゴーレムを倒し続けた。岩風呂用の石が袋いっぱいに集まったところで、撤退を決めた。


   *


 ギルドに寄って地球での衣装へ着替え、縦穴のハシゴを登り始めた。


 鈴菌が先頭だった。


 重い石を背負いながら梯子を登りきり、地下空間へ顔を出した。


 そこに、モト子が立っていた。


 腕を組んで。


 般若のような顔で。


 縦穴と、そこから顔を出した鈴菌を、真正面から睨んでいた。


 鈴菌は固まった。


 完全に固まって、動けなくなった。


 下から声が上がってきた。


「鈴菌さん! 石が重いんだよ! 早く上がってよ!」


 カッパの声だった。


「鈴菌さん! 石が重いってば!」


「鈴菌さん! 早く上がってよ!」


「鈴菌さん!」「鈴菌さん!」


 ラーナ、キーコン、ボーアの声が重なって、縦穴の底から響いてくる。


 全部、モト子の耳に届いていた。


 モト子はじっと、縦穴を見下ろした。


 それから、鈴菌の顔を見た。


 それから、また縦穴を見た。


 一言も、発しなかった。


「……鈴菌……さん……?」


 地の底からのカッパの声だけが、静かな地下空間に響いていた。



ネモの街とダンジョンについては、次回以降に詳しく語ります。今回明かされたことだけをまとめると——


・アハロの地下二十メートルの縦穴と横穴の先に、異世界への鳥居が存在する

・門前街の名はネモ。冒険者ギルドが存在する

・アハロ団のジョブは以下の通り:鈴菌=宇宙刑事、ラーナ=ど根性、カッパ・キーコン・ボーア=妖怪、菊=魔女

・謎の豚肉と毛ガニとゼラチンの出処は、このダンジョンのドロップ品でした


モト子が何を見たのかは、次回お楽しみに。



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