k-64 既定路線でシャウトしよう
アプリ音頭を知らない方は『原付転生reverse』の【reverse 82 恩送りのお引越し】をご覧下さい。菊には作詞作曲のスキルがあります。ちなみに二代目高橋竹山という三味線演奏者は菊のスタンドのようなものだと思って下さい。
サーキットデビューを果たしてから数日。
ヨンキュウ部の部室では乙女たちが悩んでいた。
「私、モンキーの力を引き出せませんでした……ボーアはあんなに紫21号を上手に扱えたのに……」
「私だってモルフェを全然扱えなかったよ。参加者30人中、29位だもん……」
「私はRの名を与えられた特別なモンキーなのに最下位でした……。これはモンキーが遅いんじゃない!私が乗り切れてなかっただけ……。私が乗り切れないのに良いメンテナンスなんて出来ないと思うんです!だから、このモンキーRはこのまま私がちゃんと乗りこなせるようになるまで売らないで欲しい!お願いします!私、もっとモンキーRを上手くなりたいです!」
学校祭に試乗会&販売会を予定していたヨンキュウ部だったので、部長のラーナは少しだけ悩んだが、キーコンのために即決で答えた。
「それがいいよ! キーコン。モンキーRはこのままキーコンが乗りなよ。私もキーコンがモンキーRを乗りこなせるようになるところを見てみたい! きっとモンキーRは本来の力を発揮できたら誰よりも速く走れるんだと思うよ!」
キーコンの顔が明るくなった。
*
それから二日後。
一年A組の教室でホームルームが始まった。
京子先生がニヤニヤしながら告げた。
「本日は普通科から編入生がいま〜す! どうぞ入ってきて〜!」
ガラガラ……
扉が開いた。
編入生を見たカッパとラーナとキーコンと菊が驚きすぎて固まった。
「全日制から編入してきましたボーアです。よろしく……」
「菊ちゃん! 大変! 菊ちゃんがビックリしすぎて心臓が止まってる! 菊ちゃん! 救心飲んで! 救心!」
ヨンキュウ部の乙女たちが大慌てで菊に救心を飲ませていた。
*
昼休み。
「菊さん、驚かせてごめんなさい。びっくりさせようと思って、編入が認められてから報告しようと思っちゃった!」
「ほんとに、びっくりしたんだぉ! 全日制から夜間さ編入なんてできるんだな〜。だばって……なんで全日制から夜間に来たんだぁ?」
「そんなの決まってるじゃないですか! 免許です! 私も原付の免許を取ります! それを言ったら両親も編入の事、即OKしてくれました!」
「ボーア! 私も取りたい! 一緒に免許を取りに行こうよ! でも、私でも取れるのかな?」
「キーコンの親だば『特定技能二号』だべ? だば、キーコンだば免許取れるはんで、大丈夫だぉ。特定技能二号って言えばだぉ、もう、ほとんど永住権みてぇなもんだぉ。キーコンだば日本語もペラペラだはんで、何も心配いらねぇ。自信持って行ってこいぉ!」
こうして、数日後にはヨンキュウ部全員が免許所持者となった。
*
本日はボーアが愛機を手に入れたことで、お披露目会が開かれていた。
「ボーアちゃんのバイクって大きいんだね〜。これはなんてバイクなの?」
「YAMAHAのVOXだよ。おじいちゃんがYAMAHAのコネで買ってくれたんだ。紫21号のお礼だって」
「変わったメットインだね? メットインなのにヘルメットは入らないんだね? でも、広くて使いやすそうなメットインだね。実際、メットインにヘルメットってしまうことないもんね。私もいつもメットインにヘルメットを入れないもん」
「どうしてメットインにヘルメットをしまわないの?」
「メットインの中にヘルメットを入れちゃうと、ヘルメットを被り忘れて走り出すことが多くてさ〜。よく走り出して次の信号で止まった時にハッと気づくんだよねぇ〜。だから、私はヘルメットは目に見えるカゴの中に置いておくの」
「そもそも原付だば、昔はヘルメットなんて被らねぇでも良かったんだぉ。三十キロ制限だっても無かったしな。みんな、風ば切って、手ぬぐい一本頭さ巻いで、スイスイ走ってたもんだぉ〜」
「それはそれで怖いね。30キロ制限もないのにノーヘルなんて。でも、これで皆でツーリングに行けるよね! ラーナ部長! 早くツーリング企画を考えてください! なるべく初心者のキーコンとボーアでも簡単に行けるとこで!」
ラーナが少しだけ考え込んだ。
「う〜ん……なんか大切な事を忘れてるような……」
「忘れてること?」
「………あ、忘れてた!」
「「「「あ!」」」」
元々予定していた試乗会&販売会は売るバイクが無くなって出来なくなり、ヨンキュウ部の演し物はまだ決まっていなかった。
学校祭まで、あと一ヶ月を切っていた。
「ど、ど、ど、どうしましょう! ラーナ部長! 皆で竹ひごで模型飛行機でも作りましょうか?」
「原付の部活でなんで飛行機?ってなるから却下!」
「それなら、鈴菌さんのツテでSUZUKIのバイク展示会とか!」
「それをやって誰が喜ぶのよ!」
「それなら、私のおじいちゃんのコネでYAMAHAのバイク展示会とか?」
「それをやって誰が喜ぶのよ!」
「またスクラップを買ってきて日本製の色んなエンジンの展示会とか?」
「それをやって誰が喜ぶのよ!」
四人が出尽くしたところで、菊が立ち上がった。
「何、ウジウジ悩んでらんだ。学校祭だば、バンド演るっきゃねぇべ? バンド演らねぇ学校祭なんて、サイドスタンドのねぇバイクと一緒だぉ。立ってられねぇべ! 倒れちまうべや!」
「「「「バンド!?」」」」
「さあ、今夜からアハロの地下さ泊まり込んで猛特訓だぉ! 曲だば私すが作れるし、私す、ドラムだば叩けるはんでな。おめだぢだば、何の楽器ばできんだぁ?」
ボーアが恐る恐る手を挙げた。
「初歩的なギターなら……」
「まさかのバンドなの? 本気でやるの? ドラムとギターがいれば何とかなるの? 私もカッパも楽器なんて出来ないよ? フェリーのジャズライブにもジャージで行くような野暮な女の子二人なんだよ?」
「そんな野暮な、おめだぢば鍛えるために、アハロさ泊まり込むんだべ? つべこべ言ってる暇だば、練習! 練習! また練習だぉ! キーコンも、それで良いな! 異議は認めねぇぉ!」
*
こうして、この日からアハロの地下空間で五人の乙女たちが学校祭のライブを目指して泊まり込みで頑張ることになった。
役割はすぐに決まった。
ドラム=菊。
ギター=ボーア。
キーボード=キーコン。
ボーカル兼ベース=ラーナ。
パーカッション兼コーラス=カッパ。
三味線=二代目高橋竹山。
地下空間には何故か三味線を背負った謎の女性が鎮座していたが、乙女たちの合宿は粛々と続いていた。
花が地下へ降りてきて、五人の乙女にシュークリームとエクレアを大量に差し入れした。
「おばあちゃん。あんまりこの子たちに変なことを教えちゃダメだよ? アプリさんの時みたいな変な宗教みたいな事をしないでよ?」
「変な宗教だなんて、失敬だぉ! 仙人様だば、ちゃんと『アプリ音頭』ば喜んで聴いてくれてらんだぉ! この子だぢさもな、『アプリ音頭』ば超える『ソウル』ば叩き込むのが、私すの使命だはんでなぁ!」
アプリ音頭。
カッパとラーナとキーコンとボーアには、その実態を知るよしもなかった。
でも菊の目に宿っているものが、ただの余興ではないことだけはわかった。
地下空間の完全防音という特性を最大限に活かした猛特訓が始まった。
花は毎晩、乙女たちを甘やかすような甘い差し入れを地下空間へと届けた。
モト子と鈴菌は地下空間の改装が出来ずに困っていた。
菊は今、学校祭のステージよりも遥かに先を見据えていた。
笠寺にあるガイシホール。
その名前が、菊の頭の中にあった。
九十六歳の青春は、まだ始まったばかりだった。
【キーコン愛機】
正式名称: モンキーR (Monkey R)
型式: AB22
最高出力(馬力): 4.5PS / 8,500rpm
※通常のモンキー(当時3.1PS)よりも高回転型にチューニングされた専用エンジンを搭載しており、クロスミッションやディスクブレーキなど、装備も豪華でした。
【ボーア愛機】
正式名称: VOX Deluxe LIMITED (ボックス デラックス リミテッド)
型式: JBH-SA31J
最高出力(馬力): 4.2PS / 8,500rpm
※2011年に発売。ブラックの車体にクロームメッキのライトリム、さらに専用のレッドシートやサイドグラフィックが施された、非常に質感の高い一台です。




