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k-55 また3人で

 アハロの地下空間から最速の戦闘機が消えた翌日。


 モト子が悩んでいた。


「これは鈴菌を呼ぶしかないよね……」


「そうですね……これは鈴菌さん案件ですよ。逆に鈴菌さん以外は解決できません!」


 カッパとラーナが期待の目でモト子を見つめていた。


「もう! わかったわよ! 鈴菌を呼んであげるから、そんな顔しないで! 私だってせっかく戦闘機が無くなったんだし、地下空間を有効利用したいんだから、二人のバイクを見殺しにはしないわよ」


 カッパとラーナが喜んだ。


 問題はシンプルだった。

 アハロの地下二階へ降りるにはハシゴしかない。

 一人がようやく通れる穴があるだけで、モレもモルフェも取り出せない。

 地下一階の六畳間の床をぶち抜くしかない。

 それにはアハロの設計者でもある鈴菌の力が必要だった。


 もしかしたら鈴菌はまた変なものを掘り出すかもしれない。

 モト子はそれが心配だった。


   *


 数日後。日本はお盆休みに突入した。


 鈴菌がやる気満々でアハロへやってきた。


 カッパとラーナと菊から全ての事情を聞いた鈴菌は、カッパの肩をポンと叩いた。


「よくやったな。それは誇っても良いぞ」


 カッパは怒られると思っていた。

 褒められた瞬間に、涙が溢れた。


「鈴菌さん……でも、私が飛ばしたから百式が無くなっちゃった……ごめんなさい……」


「気にするな。百式なら既にCADで図面に描き起こしたからな。作ろうと思えばいつでも作れる。俺が作るとしたら、SUZUKIのエンジンで新たな百式を作ってみせるさ」


 カッパとラーナが笑顔になった瞬間、モト子が鈴菌の頭をポコッと叩いた。


「何言ってのよ! せっかく地下空間を有効利用できるのに、ここに戦闘機なんて作らせないわよ! ここはホームシアターとカラオケボックスを作るんだからね! さあ! さっさと地下一階をぶち抜いて、モレとモルフェと陸王を取り出してちょうだい!」


 鈴菌とカッパとラーナと菊はそそくさと地下一階の床をぶち抜いた。


 その日の夕方には、なんとか三台のバイクを地上に出すことができた。


   *


 ガレージでメンテナンスに取りかかった鈴菌が、首を傾げた。


「なんと! モレもモルフェも八十年経ってるというのに劣化してない! 何故だ? 有り得ない……。それどころかオーバーホールしたかのように全てが新車のようだぞ?」


「たぶん、それはこの二台の手入れを、あの本田宗一郎さんと川上源一さんがしてたはんでだべなぁ。この二人が付きっきりで、全部の部品ばオーバーホールしてらんだもの」


 鈴菌がメガネレンチをポロッと落とした。


「な、なんだって? 本田宗一郎と川上源一だと……嘘だろ……」


「鈴菌さん? 本田さんと川上さんを知ってるの? 二人とも過去で凄くお世話になったんだよ……」


 鈴菌はメガネレンチを拾い上げて、もう一度モレとモルフェを凝視した。


「そうか……これが神が弄った究極の二台ってことか! 凄い! カッパ、ラーナ、お前らのバイクは下手すると億単位の価値があるぜ!」


「モレとモルフェが? どうして?」


「モルフェは七万五千円だよ?」


「そうか……お前らはこの二人を知らないのか。いいか、本田宗一郎って人はHONDAの創立者だ。川上源一はYAMAHAの創立者なんだよ。この二人がモレとモルフェのOHをしたとなると、世界中のマニアがいくらでも金を積む。この俺でさえ欲しくなる」


 菊が笑顔で続けた。


「それだけじゃねぇんだぉ。あの日、東京空襲さえ無がったら、モレどモルフェの研究には久保富夫さんも入るはずだったのよ。だばって、その直前で空襲起ぎて、久保富夫は泣ぐ泣ぐ笠寺さ帰って行ったの……」


 鈴菌がメガネレンチを落としそうになった。


「おいおいおい! そんな馬鹿な! 久保富夫までこの二台に絡んでんのかよ!」


「久保さんも有名な人?」


「有名どころか……百式を作った人だ! しかも、戦後は三菱自動車の社長になった!」


「「え?」」


「そういえば、久保さんは竹ひごと紙だけで簡単にポルコの模型飛行機を作ってくれてたよ?」


「うん! あのポルコの飛行機は工場の壁まで飛んでたよ!」


「久保富夫がポルコ・ロッソの飛行機を作ったのか? しかもそれがちゃんと飛んだだと? それでその模型飛行機はどうした?」


「ラーナが遊びすぎで壊しちゃった」


 鈴菌が天を仰いだ。


   *


 鈴菌が気を取り直して、今度はあの日から閉じ込められていた陸王を見た。


「それで、この陸王はどうする? まだこれも生きてるぞ?」


 カッパとラーナが代わる代わる側車に座っていた。


 カッパが側車の足元をまさぐった。


 小さな包みを手に取ると、笑顔で菊に叫んだ。


「菊ちゃん! あったよ! 石鹸二個!」


 あの日の闇市で買った石鹸が、八十年ぶりに菊の手に渡った。


「ハハハ! 今さら、これ貰ってもなぁ……。今の時代だば、石鹸よりも『ビオレU』あるはんでなぁ〜。それに、この石鹸だばアヤメおばあちゃんに買ってあげだお土産だもの。今度の墓参りにでも、持っていごうかなぁ」


「そうだね! 私も行きたい! アヤメさんのお墓参り」


「菊、私も行きたい! それに本田さんと川上さんのお墓参りも行こうよ!」


「ラーナ! 陸雄の墓参りを忘れてる!」


 三人の乙女が昔と変わらず、明るく笑っていた。


 鈴菌は静かに陸王のハンドルを撫でた。


 陸王も三人の笑い声を喜んでいるようだと、鈴菌は感じていた。


   *


 数日後。


 アハロの前に、陸王の側車の重低音が鳴り響いた。


 ドッドッドッドッドッドッ……


 そこへカッパのモレとラーナのモルフェも集まってきた。


「菊ちゃん! もう準備は良い?」


「当たり前だぉ! おらも陸王も、待ぢくたびれでだんだぉ! 早ぐ行ぐべさ!」


 三人の乙女は東海道を走り出した。


 モレとモルフェの後を、陸王の側車がゆっくりとついていった。


 三台は笠寺観音へとやってきた。


「また三人で来れたね!」


「んだ。また三人で来られだな! ここだば昔のまんまで、なんだが変な気持ぢだぉ」


「笠寺観音って今でも泊まれるかな?」


「いや、今はアハロがあるじゃない! 笠寺観音がまだ宿泊できるのなら、アハロの商売敵になっちゃうよ」


「んだ、んだ! 笠寺観音だば宿坊始めだら、せっかくの『アハロ』が台無しだぉ! おらの孫が失業してまってまるべさ!」


「そうだね! アハロが無くなったら私が一番困るよ! さあ、参拝しよう! レッツゴー! ♪携帯スマホあるならば〜♪」


 ラーナが歩兵の本領を歌い出すと、カッパも菊もすぐに後に続いた。


「「「♪遠く離れて三日四日〜♪ 曠野千里に亙るとも〜♪ 散兵戦に秩序在り〜♪」」」


 三人の背後から、お坊さんが怒鳴った。


「こら! 寺で軍歌を歌うんじゃない!」


 三人の乙女が振り返って笑い出した。


「これも昔のままだね!」


「八十年前も怒られたよね!」


「寺で軍歌だば、普通はダメだぉ。だばって、陸雄だばあの歌ばっかり歌ってだはんでなぁ……。仏様も、あん時の一生懸命な若者の歌だば、大目に見てくれるべさ」


 怒られても笑い転げている三人を、お坊さんが不思議そうに見つめていた。


 笠寺観音は八十年前と全く同じ景色を残して、三人の乙女の笑い声を静かに聞いていた。


 一度は焼け野原になった街でも、変わらないものがあった。


 この山門も、このお坊さんの怒鳴り声も、三人が笑い転げる理由も、何一つ変わっていなかった。


 それがたまらなく、嬉しかった。


 陸王の側車が日差しの中で静かに停まっていた。


 三台が並んで、笠寺観音の参道に光を受けていた。


 



これにて、


百式乙女 皇紀2604年編。了。



日常を描いているkasadera転生でしたが、

突然、1944年の笠寺を描いてしまった事で戸惑っている読者様も多いと思います。

今回で1944年の物語は終わります。

日常回がお好きな方は次回からまた日常回へ

戻りますのでご安心くださいませ。


いつもなら原付転生とのリンクもここで貼るのですが、原付転生とのリンクも莫大な量になっていて、手っ取り早い原付転生とのフラグ回収は結局のところ原付転生を最初から読んで頂くと、それが一番早いフラグ回収方法になります。

陸雄のその後の事や菊の老後のことなどは全て原付転生の中で描かれてます。

kasadera転生から読んでしまった方も原付転生を読むことで、全て収束するようにできています。kasadera転生の季節はお盆を過ぎて夏も終わりに近づいてます。


つまり、何が言いたいかと言うと……


冬休みまで、もうすぐじゃん!


はぁ〜。冬休みか〜。


ぼちぼち冬の笠寺でも描き始めようかな……

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