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第46話

 王都中心にある王城の医務室。その最奥にある重傷者のみを専門に治療する特別区域は、重苦しい雰囲気であった。もっとも、その原因はその部屋の患者が今にも死にそうだからとかそんなではなく、ほとんど表情の変わらない二人の大男が謎のプレッシャーを放ち、ベッドの近くにいる少女たちがそんな大男に牽制するような視線を送っているからであった。そして、少女たちと大男たちの間に挟まれているかのような位置にいる、ベッドの上の青年は部屋に満ちる剣呑とした空気でグサグサと身を刺されているような錯覚を覚えていた。


「え、えっと、その、お見苦しいところをお見せして申し訳ありません・・・・ぼ、いや、私はシークラント領を治めるシークラント伯爵家の長男、デュアルディオ・フォン・シークラントと申します・・・」


 僕は目の前にいる銀髪の大男、この国の国王であるオズワルド陛下に謝罪した。もちろん、ベッドに座ったままではなく土下座だ。あまりの混乱で気絶し、意識が戻ったら部屋の中の空気が鉛のように重かった。何を言っているかわからないかもしれないが、どうしてこうなったのか僕にもわからない。だが、とにかく謝らなければならないと僕の本能が告げていた。


「ふむ、名乗りを上げて気絶されたのは生まれてこの方初めてだな。私は君から見たらそんなに恐ろしく見えたのか? ええ?」

「目上の者に会って早々白目をむいて気絶するとはな、確かに見苦しかったぞ。国王に声を掛けられて気絶するなど、シークラントの先祖が聞いたらなんということか」

「はい・・・申し訳ありません」


 そして眼前の二枚の巨壁から返ってきたセリフは氷のように冷たかった。そりゃあ、挨拶して気絶されたらいやな気分にもなるだろう。ましてや国王陛下が相手なのだ。自分の息子がそんな大物に粗相をしでかしたらその父親からすれば勘当ものだろう。けど僕はやっぱり謝ることしかできず・・・


「・・・・そんな言い方しなくてもいいんじゃないですか? デュオさんでなくとも、この国の人間ならお父様を怖がらない人なんて少ないと思いますけど」

「デュオ様は病み上がりです。貴族だとか言う前に人として病人には気遣いを見せたらどうです?」

「「・・・・・・・」」


 縮こまる僕の横から放たれた二発の言葉の矢には、じっとりとした冷たい怒りという毒がたっぷりと塗られているようだった。その毒矢を受けて鉄面皮二人は押し黙ったが、僕に向ける視線がますますきつくなったような気がする。正直僕を庇ってくれるような言葉は嬉しいけど、援護射撃になったかは微妙なところだ。

と、そんな風に内心考えていると、ゴホンという咳払いが王冠の下から聞こえてきた。


「・・まあ、確かに君の体調のことは考慮すべきだな。 無駄話はやめて、本題に入ろう」

「あ、はい・・恩情に心より感謝申し上げます」


まだ僕の両隣から刺々しい雰囲気がするが、努めて考えないようにする。真面目な話をしていれば気にならなくなるだろう。きっと、恐らく、多分。


「それでは、まず君が気になっているであろうことから話そうか。 あの屍竜だが、あの場にいたレオルに討伐された。そしてここは王城医務室の重病人区。レオルが君たちを運んできたのだが、闇属性の跡が残っていたため、大事をとってここに移させてもらった。ああ、周辺への被害は軽微だ。 付近の坑道がかなり崩れたが、未発見領域の上に人も寄り付かん辺りだった故、人的被害は君たちを除けばほとんど出ていない。 坑道にせよ、イレギュラーへの正当なための対応であったことはリーゼロッテ殿から聞いているし、所詮は廃坑だからな。君が気にすることはない」

「ほ、本当ですか!? よかった・・」


 いろいろと情報量が多かったが、それでも大事なことを聞けて安心した。

あのときは逃げるつもりだったが、それでも自分のせいであの屍竜が目覚めて大きな被害が出たら、凄まじい罪悪感を覚えたことだろう。


「こちらとしては、あの屍竜をあそこに引き付けてくれたことに礼を言いたいくらいだ。 疑う訳ではないが、君の口からも聞いておきたい。君とリーゼロッテ殿は如何様にして屍竜を相手に生き残れたのだ?・・ああ、アインシュからリーゼロッテ殿が魔竜であることは聞いている。 君の体質のこともな」

「え!?」


陛下の口から飛び出した爆弾発言を聞いて、思わず僕の視線が陛下から父上に移った。

 父上が、リーゼが魔竜であると知っているというのはリーゼ本人から聞いていたが、僕の体質のことも知っていたとは・・・いや、僕が生まれてからすぐではなくリーゼから聞いたのか?


「父上は、その、僕の体質のことを!?」

「ああ、リーゼロッテ殿から伺っていた」

「あの、申し訳ありません、デュオ様・・・・・」

「あ、いや別に怒ってないけど・・・・」


 僕の体質を知っていながらよくモンスター退治を許可してくれたものだ。そこは意外に思う。だが、それよりも驚いたのは・・・・


(リーゼ、魔竜のことや、僕の体質のことを、なぜ陛下に伝えたんだ? というか、陛下はそれを信じているのか?)


 魔竜のことはまだ分かるが、僕の体質のことは広まって都合のいいことはない。そして、荒唐無稽な話でもある。だというのに、陛下はあまり疑っているように見えない。それに、さっきからの父上と陛下の様子を見るに、ずいぶんと親しそうだ。貴族としての位など関係なく、普通の友人のようである。

 ・・・・もしや、家を飛び出す前に父上が言っていた伝手というのは・・・・


「デュアルディオ、陛下を待たせる気か?」

「え!? あ、も、申し訳ございません!!」

「よい。というか、なるべく早く話してくれると助かるのだが」

「あ、はい!!」


 そして、僕はあの屍竜との闘いについて話した。一応リーゼも話していたようなのだが、リーゼが恐怖フィアーになっていたときは記憶になかったとのことなので、主にリーゼが目覚めるまでのことを詳しく話すことになったが。


「なるほどな。君の体質で屍竜をあの場に止め、リーゼロッテ殿と協力しつつ持っていた道具を上手く使って時間を稼いだというわけか」

「ええ、おっしゃる通りです」

「ふむ・・・・」


 僕の話を聞いた陛下は、何かを考えるように顎に手を当てた。リーゼとシルフィさんはよくわからない空気を醸し出していた。なんだかお互いがもう片方に自慢気なような羨ましそうな視線をチラチラと向けている。


「・・・・・あの、屍竜は恐らく僕の体質のせいで目覚めてしまったと思うのですが、それについては・・・」

「その件については先ほども言ったが、君が気にすることではない。大した被害ではないし、元はと言えば王都の目と鼻の先にありながら竜の死骸に気づかなかったこちら側の不手際だ。 よくレオルがいたタイミングで復活させてくれたとさえ思っている」

「そ、それは・・・恐悦至極にございます」


 よかった。僕の体質が起こしたとは受け取っているようだが、何か罰則を与えるつもりはないらしい。

これでシークラント家に何か塁が及ぶことも・・・・・そういえば、父上は僕の話を聞いても何の反応も見せていな・・・


「デュアルディオ」

「は、はい!?」


 唐突に、父上が僕に向かって口を開いた。


「一つや二つならまだわかるが、お前は一体どうやってそんな数の宝珠を手に入れた?」

「・・・そ、それは・・・・」


 痛いところを突かれた。

 陛下に話しているときも、宝珠について聞かれたらどうしようと思っていたのだが、あまりいい言い訳が思い浮かばなかった。中級モンスターの素材を売ったと言っても限度というものがあるだろう。盗みを働いたというわけではないが、夢でシルフィさんにもらったと言って信じてくれるだろうか? 一応本人はそこにいるけど・・・・

 僕がどう言ったらいいだろうかと頭を悩ませていると、意外なところから援護射撃が飛んできた。


「お父様、シークラント伯に伝えていなかったのですか? デュオさんの体質のことまで聞いているのに教えないのは怠慢ではないですか?」


 本日何度目かの毒矢の主は、シルフィさんである。なんだ? シルフィさんは上手い言い訳をすでに陛下と父上に伝えていたのだろうか?


「む・・・・・・」

「・・・・・・・」


 苛立っているような声音が効いたのか、二人とも押し黙ってしまった。シルフィさんの視線は陛下にだけでなく、父上にも向かっていた。今日のシルフィさんはずいぶんと毒気がある。っていうか、さっきからシルフィさん、陛下のことお父様って言ってるけど・・・・これはもう・・・


「アッシュ、あまり息子をなじるな。 シルヴィアも、喧嘩腰になるでない」

「・・・・怪我人相手に詰問するようなことをしていなければ、私もこんな口の利き方はしません」

「・・・・・・・」


 重い空気をかき回すように陛下が取りなせば、シルフィさん、いや、シルヴィアさんが不機嫌そうに口を開く。

 シルヴィア。シルフィさんの本名か。だが、シルヴィア、否、シルヴィア様なんて王族がいただろうか? 


「・・・・・どうやら君はシルヴィアのことはよく知らなかったようだな。ふむ、リーゼロッテ殿のこともある。屍竜についての話は聞けたことだし、ここで人間関係の整理といこう」

「・・・・・!!」


 陛下がそう言うと、シルヴィア様は弾かれたようにこちらを見た後、気まずそうに眼をそらした。一方のリーゼはあの穴の中で一番大事なことを話したからか、涼しい顔をしている。


「どうする、シルヴィア。 お前が自分の口で言うか?」

「・・・・・・・はい」


 シルヴィア様は一瞬恨みがましい目を陛下に向けたが、改めて僕の方に向き直った。そして、僕に向かって頭を下げた。


「ちょ!? 何をなさって・・・!?」

「ごめんなさい、デュオさん!! 私、嘘をついていました!! 私の本名はシルヴィア・アシュト・オーシュといいます。 一応、この国の第四王女です・・・・本当に申し訳ありません。でも、城で傷ついたデュオさんを見て・・・・しばらく経っても目を覚まさないし、じっとしてられなくて・・・・・」


 シルヴィア様の今にも泣きそうな声の自己紹介は、最後の方はわかりにくかったけど、大方僕の予想通りの内容だった。幻霧の中でもいいところのお嬢様だとは思っていたが、王族だったとは・・・・・だが、やはりシルヴィアという名前には聞き覚えはない。


「頭を上げてください、シルヴィア様!! 確かにシルフィっていうのは偽名だったのでしょうけど、正直初めて会ったときにそんな風に名乗られても信じなかったでしょうし、本名を名乗った私がバカだっただけで全然気にしていませんから!! ほら、前みたいに心を読んでくれても大丈夫ですから」

「・・・・・いいんですか? 私、嘘をついてたのに?」

「はい!! 大丈夫です!!」


 なんか、前にもこんな感じの問答があったような気がするが、僕としては本当に気にしていない。むしろ早く心を読んで、僕が怒ってないと知ってほしい。シルヴィア様に泣いて欲しいと思わないというのもあるが、陛下の視線が滅茶苦茶怖いのだ。


「・・・・・・」


 なぜか、リーゼの方から妙なプレッシャーを感じるが、こちらは努めて気にしないようにした。


「えっと、じゃあ、失礼して・・・・・・・・本当に、現実でもデュオさんは優しいんですね・・でも、シルヴィア様って・・・・・様なんていらないのに・・・・・・・・あ、お父様、デュオさんを睨むの止めてくれます?」


 シルヴィア様の声が柔らかくなった。どうやらわかってもらえたようである。頭を下げるのを止めたシルヴィア様は、少し陰があるが、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。そして、対照的についでのようにシルヴィア様に小言をもらった陛下はさっきから一転してどこか哀愁が漂っていた。


「えっと、優しいなんて、そんなことは・・・・・シルヴィア様の立場だったら、僕だって偽名を名乗っていましから、本当に気にすることなんてないですよ」

「・・・・デュオさんが本当に気にしていないというのがわかったから、私ももう掘り返すようなことはしません。でも、これだけは言わせてください。デュオさんは、とても、と~っても優しい人です!!」

「いや、そんなこと・・・・それを言ったらさっきまでみたいに気にしすぎくらいだったシルフィさ・・いえ、シルヴィア様の方が・・・」

「え!? いえいえ、それこそ・・・・・・・」


 いかんいかん、なんだかこんな風に話していると幻霧の中にいるように錯覚してしまう。シルヴィア様は王族なのに、つい、シルフィさんに話すような口調になってしまいそうだった。僕はどうにか王族とお話しているという緊張感で自分を律しようと・・・・


「・・・・・横からですいませんけど、シルヴィアなんて人王族にいました? 第四王女なんて聞いたことないんですが。 ひょっとして隠し子かなんかですか?」

「ちょ、リーゼ!!?」


 そこで、リーゼが僕らの会話に加わって来た。表情は何の感情も浮かんでいない仮面のようで、少し怖い。そして、確かにリーゼの質問は僕も気になっていたところだけど、王族相手にそんな口の利き方は・・・・いや、さっきから陛下も父上もリーゼロッテ殿って言ってるし、僕が気にすることじゃないのか? いやいや、魔竜といえどシークラントの領民なのだろうからやっぱり注意は必要か? というか、そもそも僕も敬称を付けるべきだろうか。


「えっと、リーゼ、いや、リーゼロッテ様? 王族を相手にそういう言葉遣いは・・・」

「デュオ様、いますぐ元の喋り方に戻るか、今この場であたしに泣かれるか、好きな方を選んでください」

「・・・・・・・リーゼ、あんまり王族の方々に乱暴な話し方をするのはよくないと思うよ」


 このただでさえ混沌とした面子の中で、さらなるカオスを招くつもりはない。というか、そうなったらまた処理能力オーバーでお寝んねしてしまう自信がある。僕は今までのような口調でもう一回注意した。


「わかりました。 コホン、え~、無知を晒すようでお恥ずかしいのですが、第四王女がおられるなど初めて耳にしたのですけれど、特別な事情でもおありなのでしょうか?」

「・・・・・・」


 今度は流暢に、爽やかな笑顔すら浮かべつつ敬語を使うリーゼに、僕は思わず半眼になってしまった。診れば、父上も陛下も似たような顔をしている・・・・そして、シルフィさんはいつの間にか仮面をかぶっていた、否、さきほどのリーゼのようにピクリとも顔の筋肉が動いていないだけのようだ。


「あ~、それについては私が説明しよう。 シルヴィアはデュアルディオ君のように少々厄介な能力を持っている。そのため、あまり表舞台に顔を出せなかったのだ。 恐らく、世間では第四王女の存在を知る者は少なかろう」

「なるほど、得心いきました。 お答えいただき、感謝いたします」


 リーゼは陛下に対してわざとらしいくらい優雅にスカート端をつまんで膝を曲げた。確か、カーテシーという挨拶だったか。

 リーゼについては何かひっかかるが、シルヴィア様については僕も納得した。確かに、初めて幻霧出会ったようなシルヴィア様なら、人前に出るのも難しいだろう。それにしても、本人から聞いたのか、陛下はシルヴィア様の能力をしっているようだ。僕とシルヴィア様の会話についても不思議には思ってなさそうだし、さっきシルヴィア様が言っていた宝珠のこともあるけど、もしかしたら幻霧のことも知っているのかもしれない。あと、父上から僕の体質のことも聞いていたのなら、父上にも僕とシルヴィア様の関わりが伝わっている、というのも充分ありえるだろう。リーゼも、竜の姿のときに幻霧のことについて話していたから、この場にいる全員が知っていることになるのか。


「・・・・・シルヴィアについては、こんなところでいいだろう。 次はリーゼロッテ殿について・・・・シルヴィアも、デュアルディオ君も、彼女の事情については知らんだろう?」


 なんだか、時間が経つにつれてこの部屋の空気が重くなっていくような気がする。さっきの件について話すのが地雷だというのに気づいたのか、陛下は話題を変えることにしたようだ。まあ、なんでリーゼがここで人間の姿でいるのかとかは僕も気になっていたけど。


「じゃあ、あたしの番ですね。 まずは改めての自己紹介をば・・・・・あたしはリーゼロッテ・バーク。 今は人の姿ですけど、これでも魔竜です・・・・・・以後、お見知りおきを、シルヴィア殿下」

「・・・・・はい、こちらこそ、改めてどうぞよろしく、リーゼロッテ殿」


 リーゼがにこやかに挨拶をすると、シルヴィア様はどこか怯えたように、それでいて強敵に挑むかのように勇まし気に会釈を返した。中々容姿の整った女の子二人が挨拶を交わしているのは絵になる光景だろうが、貼りついたような笑顔と戦に臨むような覚悟を決めた顔なのはどうなのだろうか。あと、改めてってなんだ? もしかして僕が目覚める前に一回会っていたのだろうか? 

 

「それで、あたしがこの姿になってる理由ですが・・・」


 と、そこでリーゼが父上の方を見た。僕も考えごとを止めて父上の方を向く。


「・・・・・そこから先は私が話そう。そもそも、私がここにいるのは、オズ・・・陛下からお前が厄介ごとに巻き込まれたという報せを受け取ったからなのだが・・・・」


 僕らの視線を受けて、先ほどの陛下のように、今度は父上が話し始めた。




 


 時は少し巻き戻る。

 王城の敷地内にある竜舎には真夜中の涼やかな空気が流れ込んでいた。もうほとんどの竜たちは眠っており、音魔法が刻まれた厩舎は至って静かであった・・・・ある一区画を除いて。


「グルルルルァァァアアアアアアアアア!!!!」


 怪我をした竜を安静にしておくための隔離部屋では、鮮やかな赤い鱗を持つ竜が先ほどまで横になっていた。竜は一目見ればわかるくらい傷だらけで、治療の跡こそ見えるが、まだまだ安静が必要な段階である。しかし、少し前に目を覚ましてからは、早くそこから出ようとするかのように、狂ったように暴れまわっていた。王城内にて竜を収容する厩舎であるため頑丈さは折り紙付きだが、竜が全力で暴れたらどうなるかはわからない。竜はプライドの高い生き物であるが、それ故にかんしゃくを起こした子供のように暴れるということは非常にまれなのだ。もしかしたら、このまま体当たりを続けたら厩舎の壁に大穴が空くような事態になるかもしれず、あるいは、暴れて傷が開き始めた竜が再び医者の厄介になる方が先かと思われたが・・・・・


「・・・・どうやら、先にこちらに来て正解だったようだな」

「まあまあ、傷だらけになっちゃって・・・・」

「グルァアアア!?」


 バタンと音を立てて、部屋の扉が開き、3人の人影が入って来た。突然扉が開いて、誰かが入って来たことに竜は驚いたような声を上げたが、ランプを持った男の顔とその後ろの老婆を見て、さらに驚愕の色を深めることになった。


「アッシュ・・この竜がそうなのか? 何やら暴れていたようだが・・・」

「ああ、大方デュアルディオの安否を確かめに、ここをでようとしていたのだろう・・・・リーゼロッテ殿、デュアルディオのは生きている。そして、デュアルディオところまで案内する故、人の姿になってくれないか? 周囲の人払いはすませてあるし、この男には貴方のことはすでに伝えてある」

「・・・・・・」


 男の隣にいたもう一人の大男と話しつつ、男、アインシュは竜に向かってそう言った。その言葉を聞いて少し落ち着いたのか、竜、リーゼロッテは暴れるのを止めると、アインシュの方に向き直った。そして、その姿が陽炎のように揺らいでいく。


「デュオ様は!? デュオ様はどこにいるの!?」


 竜の姿から人の姿になったリーゼは、襲い掛かるようにアインシュに詰め寄った。少し落ち着いたと言っても、どうやらほんの少しだけだったようだ。


「おお、話には聞いていたが本当に魔竜なのだな・・・しかし、傷だらけだが、まず彼女が安静にしていなければならんのではないか?」

「そうだな。ヘレナ、リーゼ・・「そんなんいいから早くデュオ様のところに連れてけ!!」・・・わかった。今すぐにデュアルディオのところに連れて行こう。 オズ、色々聞きたいだろうが、話は後だ。ヘレナは歩きながら応急処置を。リーゼロッテ殿、こちらだ」


 文字通り食って掛かられたようなアインシュが指示を出してから部屋を出ると、リーゼはアインシュの隣まで飛び跳ねるように駆けていった。


「デュオ様!!」

「ちょっとリーゼ、もう少し歩く速さを抑えな!! そんなんじゃ、坊ちゃんのところに行く前にあんたが倒れちまうよ!!」

「・・・・・これが、魔竜」


 そして、真夜中の王城をいかつい大男二人とボロボロの少女、そして青い治癒の光をかざす老婆という怪しい4人組は医務室に向かって進んでいくのであった。





「とまあ、そのようなことがあった。元より陛下にはリーゼロッテ殿のことは伝えてもあったしな。さらに、ここは滅多に人が来るところでもなく、リーゼロッテ殿の怪我も人の姿の方が診やすい故、この部屋では人間の姿でいてもらっている・・・・・まあ、一番の理由はお前が寝ている間に、リーゼロッテ殿から、お前に正体を教えたと伝えられたからだがな。やむをえん事情で知られた以上、もう隠し立てする意味はない」

「むしろ、これまでみたいに別行動するよりも、こうやって近くにいる方が護衛の役目を果たしやすいですからね。これから街中や屋内にいるときは、この姿でお守りしていく所存です!!」


 中々ハードな話だったが、なぜかリーゼはドヤ顔で胸を張っていた。果たして街中で護衛がいるのか?と言われれば首をかしげるしかないのだが。


「・・・・・・・」


 ・・・・さっきから無表情のシルヴィア様が怖い。この話題もダメだったか・・・・


「・・・・・ゴホンッ!! さて、これで君の疑問にはあらかた答えられたと思うが・・・・最後に、君が最も気になっているであろうことを伝えよう」


 もう何度目か忘れたが、陛下がまた話題を変えた。誰だってそうかもしれないが、陛下は暗い空気があまり好きではないのかもしれない。しかし、僕が一番気にしていることか・・・・


「そう、騎士試験についてだ」

「!!!」


 陛下の放った一言で、僕の胸の動悸が一気に早くなったのがわかった。隣にいる二人からも緊張しているような空気を感じる。


「端的に言おう。今回の試験、君は不合格だ」

「・・・・・・」

「お父様!!?」

「いや、それはないでしょう!?」


 二人の少女が抗議の声を上げるが、話をしている内に僕は薄々予感していた。

 屍竜と戦っていた時点で僕にとっては試験最終日となる2日目の昼ごろ。タイムリミットは2日目の深夜11時だが、ボロボロだったリーゼがほぼ完治していること、シルヴィア様がしばらく経ってもとか言ってたこと、そして、さっきの父上の話でとっくに時間切れになっていることに気づかされたのだ。予感はしていても深くは考えないようにしていたのだが、面と向かっては言われては逃げられない。

 父上もいるというのに、家出をして飛びだした結果がこれでは合わせる顔がないというものだ。僕はこちらを見ているであろう父上の視線から逃れるように顔を伏せ・・・・


「・・・・・あくまで現時点では、な」

「へ?」


 続く陛下の言葉で、僕はガバッと顔を上げた。


「私が今日ここに来た理由は二つ。一つは屍竜と君たちの戦いについて知ること、もう一つは、そこから君に特例措置を施すか判断することだ。そして、君の話や君が持っていた符見箱の中身、さらにはレオルの証言や現場での戦闘痕から鑑みるに、屍竜と遭遇して生き延びた君には実力をきちんと確かめなおす価値があると判断した」

「それでは・・・・・」


 僕は、震える声で陛下に問いかける。


「ああ、君にはまだチャンスが残されている・・・・君を診た医者やヘレナ・バークによれば君とリーゼロッテ殿の傷はもう完治しているそうだ。後は治癒魔法による疲労を回復させるのみ。さらに、その疲れも今日一日休めば取れるという見立てだ。よって、明日の昼にもう一度検査をした後、君には特別試験を受けてもらう・・・詳しくは明日に説明するが、こちらが用意した試験官と実戦形式での戦闘だ」

「・・・・あ、ありがとうござ・・・いや、騎士になる機会を頂けること、心より感謝申し上げます!!」


 僕はベッドの上でもう一度平伏した。

 僕にはまだチャンスが残されている。正直にいうと信じられない。これは、夢ではないだろうか?


「もったい付けて言うの、カッコイイとか思ってるんですか? その年で?」

「紛らわしいことしないでくれます?」


・・・・・・高揚していた僕の気持ちが、少しだけ静かになった。うん、これは間違いなく現実だ。

 しかし、リーゼについては言うまでもないが、シルヴィア様も実の父親とはいえ国王陛下にあんな口を聞いて大丈夫なのだろうか? 


「そもそも、屍竜の元になった死骸をずっと見つけられなかったのって、この国の、ひいてはお父様の怠慢ですよね」

「むしろ、あの場所でずっと屍竜を引き付けてたデュオ様に褒美とかあげなきゃいけない事態じゃないんですか?」


 陛下の方を見ると無表情のままだが、口元がひくついていた。

 っていうか、この二人、さっきまで仲悪そうだったのにえらく息が合ってるな。

 そうして二人の口撃は、陛下がすごく疲れたような目になるまで続くのだった。





「・・・・それでは、私は失礼するとしよう。明日の試験に備え、今日はゆっくり寝ることだ」


 背中に陰のようなモノを背負った陛下はそう言って部屋を出ていった。それに続いて父上も部屋を出ようとして、立ち止まった。


「・・・デュアルディオ」

「は、はい!!」


 そして、こちらを振り向かずに声を上げた。何だ? 何を言うつもりなんだ?・・・・・・父上を見た時から考えていたが、父上は僕が家出をしたことを怒っている・・・はずだ。 陛下がいる時には来ないと思ったが、まさかこの瞬間にお叱りの言葉が来るのか・・・・

 内心ビクビクしていると、父上はどこか柔らかい口調で続けた。


「・・・・貴族とは、あらゆる機会に聡い者でなくてはならん。そして、その機会をモノにする能力も必要になる。一度は逃したチャンスだ。今度はきちんと掴んで見せろ」

「へ?・・・・・あ、えっと、その、はい」


 僕の気の抜けたような返事を聞いたのか聞いていないのか、父上はすぐに部屋を出ていった。

 怒られると思っていたせいか、意外にも僕を応援するような言葉が来て、ちょっと混乱してしまった。

いや、あれは本当に応援だったのか? もしかしたら皮肉かも・・・・さすがに穿って考えすぎか?


「さて、重苦しいお話しも終わったことだし、明日に備えて寝ましょっか、デュオ様?」

「え?」


 父上からの意外な反応に戸惑っていたら、隣に立っていたリーゼがそんなことを言いだした。

 首を向けてみれば、リーゼが僕のベッドとリーゼが寝ていたベッドの間のカーテンをシャッと全開にし、ベッドを片手で引きずってくるところだった。そうして、リーゼは僕のベッドに自分のベッドをピッタリとくっつける。


「うん、これでよし、と」

「何をしているんですか!?」


 満足げな表情を浮かべるリーゼに、シルヴィア様がものすごい勢いでツッコミを入れた。

 なんだか、今日一日でシルヴィア様の印象がずいぶん変わったような気がする。大人しそうだと思ったけど、案外活発というかなんというか。


「何って、護衛としての務めを果たそうとしているだけですが? 傷そのものは治ってますし、ただ隣で寝るってだけでは不十分・・・」

「王城の重病人区なんて、一番侵入が難しいところの一つじゃないですか!! わざわざベッドをくっつけてまで護衛する意味なんてないですよ!!」


 ぶっちゃけ、シルヴィア様の言う通りだと思う。


「はいはい、分かりましたって、全く・・・・それじゃあ、デュオ様とあたしはもう寝るので、姫様も部屋に戻られては? ここ数日ずっといるんですし。」

「こんなことしようとする人をほっといて帰れませんよ!! それに、デュオさんが意識を取り戻した今日こそ、ここにいないといけないじゃないですか」

「え!?」


 リーゼはともかく、シルヴィア様もこの部屋に泊まっていたのか? なんでだ? というか、僕が起きたのに、この部屋で寝るのか? というか・・・


「数日って・・・僕はどのくらい寝てたの?」


 そうだ、騎士試験の期限は過ぎてしまったようだけど、今は?


「デュオさんは、3日間ずぅっと寝てたんですよ。今日はもう夜ですから実質4日ですね」

「3日!? え、それじゃあ、シルヴィア様もその間ここに? あれ、でもリーゼはもっと早く起きたんだよね!?」


 そんなに経っていたのか。しかし、僕よりもリーゼの方がボロボロだったと思ったんだけどな。


「あたしは、まあ、これでも竜ですし。 この姿でも回復力は人間より高いですよ。それに、デュオ様が目覚めなかったのは怪我よりも魔力枯渇が原因だっておばあちゃんが言ってました」

「ああ、そういえばリーゼは魔力ポーション飲んでたっけ・・・」


 魔力枯渇は最悪死に至ることもある。枯渇してすぐに回復すれば問題ないが、長引かせるほどその影響は加速度的に増幅するという。僕はあそこで気絶してしまっていたようだし、ポーションを飲むこともできなかったのだろう。


「ええと、それで、どうしてシルヴィア様はここに?」

「・・・・その質問にはちゃんと答えますけど、その前に一ついいでしょうか?」

「? はい」


 シルヴィア様は、顔をうつむかせながらそう言った。

・・・・・さっき、陛下たちと話している時からやけに陰があるとは思っていたけど、何か関係があるのか?


「私のこと、シルヴィアじゃなくて、シルフィって呼んでもらっていいですか?」

「え? えっと、シルフィ様、ですか?」


 シルフィさんはさっきの僕のように、グワッと顔を上げる。


「様はいりません!!・・・・・・問題のないときだけでいいですから、今まで通りの呼び方でお願いします!!」

「は、はいぃ!? シルフィ様、いや、シルフィ、さん」

「はい、それでお願いしますね?」


 あまりの気迫に思わずどもりながら言ってしまった・・・・様をつけようとしたら般若のような顔をしつつ泣きそうになるという器用な表情になっていたので咄嗟に前のような呼び方に戻したけど・・


「・・・・シルヴィアの愛称がシルフィってのもなんか変ですけどね」


 リーゼが小さくぼそりとつぶやいたが、シルフィさんには聞こえなかったようだ。


「それで、私がここにいた理由なんですけど・・・・ここ数日、幻霧に行けないんです。 デュオさんが意識を失っていたからかなって思って、今日デュオさんが起きたから試してみたいなって・・・」

「今まで宿と城くらい離れていたならここに泊まる必要はないと思いますけど?」

「・・・・魔竜あなたがいるから行けないっていう仮説も立ててますけどね。 屍竜から隠れたときはあなたがいたからって理由もありそうですし」

「「・・・・・・・」」


 急に無言になる二人。片方は笑顔でもう片方は無表情だ。

 ・・・・・お願いします、陛下。今すぐここに戻ってきてください。


「で、でも、シルフィさんはなんで幻霧に行きたがっているんですか? その、僕はここにいるし、お話相手ぐらいにはなりますが・・・」

「え!? 本当ですか!?・・・あ、ごめんなさい・・・幻霧に行けたら、デュオさんが目覚めるのを早められるかもしれないって思って・・・・それと、気になることがあって・・・・」

「気になること、ですか?」


 今は二人とも笑顔だが、そこから感じるモノは180度違う。花が咲いたような笑顔のシルフィさんとは対照的に、リーゼを見ていると、笑顔とは本来獣が牙を見せる表情だとかいう話を思い出した。


「はい・・・・あの、デュオさんは、この現実で幻霧・・白い霧を見ませんでしたか? それと、男の人の声も」

「白い霧に、男の声、ですか・・・」

「・・・・・・」


 シルフィさんは少しだけ笑顔を曇らせてそう言った。

 男の声については心当たりはないが、白い霧には思い当たることがある。というか、ほんのついさっき、シルフィさんが部屋に入ってきたときだ。いきなりぶわっと白い霧に包まれたと思ったら、すぐに消えてしまった。そして・・・・


「あたしもその声とやらには覚えはありませんが、霧は見ましたね。さっき姫様がここに入ってきたときと、初めて姫様に会った時に。確か、さっきの方が濃い霧でしたけど」

「え、リーゼも?」


 そう、さっきの霧が晴れた後、僕にはシルフィさんとリーゼが入れ替わって見えたのだ。すぐにその感覚は消えたが、僕とシルフィさんだけではなく、リーゼもなんらかの関係があるのだろうか? あの穴の中ではリーゼとシルフィさんの宝珠が僕の体質を抑えているような気がしたし。というか、やっぱりこの二人は会っていたのか。


「じゃあ、シルフィさんの気になることって・・・」

「はい、現実で白い霧が出るようになったのは、やっぱり幻霧が関係しているんじゃないかって思ったんです。 だから、幻霧に行けば何かわかるかもって」

「・・・・・幻霧、でしたか? あの中だと、姫様が一瞬あたしの鏡写しかと思ったんですが、それも?」

「あなたもそうだったんですか?・・・・やっぱりそれも幻霧が関係しているんだとは思いますが・・・」


 どうやら、さっき二人が驚いたように見つめあっていたのはそのせいだったみたいだ。僕にもそのように見えたが、確かにあれは驚いた。


「・・・・そうなると、お二人だけじゃなくてあたしもなんか関係がありそうですね」

「・・・・・・さっき言った声のことなんですが、その声はこう言ってました・・「揃ったか」って」

「「・・・・・・」」


 僕らは思わず無言になった。

 この3人は、みんな他とは違う奇妙な体質、能力がある。僕とシルフィさんは幻霧という不思議な空間に入ることができ、どうやらリーゼも中に入れる可能性が高い。そして、僕らが揃ってから現実で出るようになった白い霧と謎の声・・・


「あ、あの、ごめんなさい。変なこと言っちゃって・・・この話は、また今度にしませんか?」

「・・・・そうですね。あたしと姫様はともかく、デュオ様はしっかり休まなきゃいけませんからね」


 そうだ。確かにこの話はかなり重要そうな話だが、明日は僕にとって人生で最も大切な日と言っても過言ではない。


「わかった。僕はもう寝るよ」

「そうしてください。あたしはちゃんと隣に控えていますから」

「だから、この部屋なら護衛はいらないって・・・ああもう!! 私はリーゼロッテ殿の反対側で寝ますから!! へ、変なことしたらすぐにわかりますからね!?」


 シルフィさんは顔を真っ赤にしてそう言うと、さっきのリーゼと同じようにカーテンを開けて僕の隣にベッドを引きづってきた。ちなみにちゃんと両手を使っていたし、ベッドはキャスター付きだ。


「今日だけはするわけないでしょーが、ムッツリ・・・・今日だけは」


 幸運なことに、リーゼの小声はまたしてもシルフィさんには聞こえなかったようである。



 こうして、あの屍竜との戦いを経て眠っていた僕は多くの衝撃の事実を知った。様々なことが未だに頭をぐるぐるしているし、両隣にいる女の子からする不思議ないい匂いは大いに気になったが、やはり疲れは残っていたのか、僕はすぐに眠りについた。


 明日こそが、僕の真なる運命の日だということを、漠然と確信しつつも。






 青年が明日に備えて眠りについた頃、娘に手ひどく罵られて地味にダメージを受けていた王の部屋に、4人の男がいた。


「呼んだのはシークラント伯とグランだけなのだが・・・なぜお前までここにいる?」


 最初に口を開いたのは部屋の主、いや、城の主たるオズワルドであった。その威圧感のある視線は、目の前の赤毛の男に向けられていた。


「そんなの、デュオのことが気になったからに決まってんだろ。 んで、結局どうなったんだよ?」


 赤毛の男、レオルは国家元首に髪の毛一本ほどもひるむことなく言い返す。グランはしかめっ面をしているが、何も言わない。言っても無駄というのがよくわかっているのだろう。オズワルドも同様だ。


「結論から言うと、改めて特別試験を設けることにした。試験の期限に遅れたのは事実ゆえ、不合格は取り消せないが、今日聞いた話やお前の報告を聞くに、特例としてもう一度実力を測る場を用意する価値はあるだろう」

「当たり前だろ?オレの弟子なんだからな!! しかし、特別試験ねぇ・・・オレとしては合格でもいいと思うけど、何すんだ?」


 先の城門のような騒ぎが起こっては面倒なので新しいチャンスを与えることから始めたが、正解だったようだ。


「私が選んだ試験管との戦闘だ。勝ち負けは考慮しないが、現役の魔装騎士相手にどこまでやれるか、彼の全力を測る」


 魔装使用禁止などのハンデこそ課すつもりだが、このモンスター多発地帯の王都で現役の魔装騎士を相手どらせるのだ。いかに実力があるとはいえ、20にも満たない平和な地方で育った若者では荷が重いだろう。


「マジでか!? よ~し、なら久しぶりにオレが・・・」

「お前はダメだ」

「なんでだよ!!?」

「おい、静かにしないか!!」


 それまではデュオが不合格と聞いて不満そうだったのに、急に楽しそうになったレオルにくぎを刺す。オズワルドに食って掛かりそうなレオルをグランが抑えつける。そこで、オズワルドではなくさっきまで黙っていたアインシュが口を開いた。


「レオル殿、貴殿があやつ相手に手を抜くことなどありえないでしょうが、他の者の目もあります。あまり多くの者に伝えるつもりはないとはいえ、八百長があったなどと疑われることもありましょう」

「アンタに敬語で話されるのはゾッとしないんで、昔みたいな感じにしてくださいよ・・・・・・・しかし、まあ、そういうことならしょうがねぇか」


 王相手には歯に衣着せぬ物言いだが、昔から付き合いのあるアインシュはレオルとしてもやりづらいようだ。密かにオズワルドがいいことを知ったと思っているが、シルヴィアはいないので誰にも悟られることはなかった。


「んじゃあ、結局誰がやるんだ? 言っとくが、魔装無しなら実力測るとかいう前にやられるかもしんねぇぞ? オレとあのジョージ爺さんのしごきに耐えたくらいだし」

「ジョージ? 前にデュオ君に会ったときにも耳にしたが、もしや、バーク殿のことか?」

「ん? おう、アインシュの旦那のところで庭師やってるぞ。それでも強いけど」

「なんと・・・」

「わき道にそれるのはそのくらいにしろ」


 ジョージの名を聞いて、グランが意外な名を聞いたというように反応した。そのままジョージのことに進みそうな話を、オズワルドが戻す。


「誰がやるかだが・・・私は、グラン、お前に任せようと思う。」

「陛下のご命令とあらば」

「マジか!」

「・・・・・」


 その場にいた者たちは三者三様の反応を見せた。

 王に忠実なグランは命に従い、レオルは驚き、アインシュは知っていたのかのように黙ったままだ。


「レオルが言っていたように、屍竜から生き延びるというのは魔装騎士でも容易くはない。さらに彼の持っていた符見箱を検めたが、中級モンスターの素材も複数入っていた。水準以上の実力があることは明らかならば、試験官も相応の者を充てるべきだろう」

「・・・・・」


 オズワルドの口から語られる理由はいささか強引なところもあるが、それには己の娘のことや体質のことなども関わっているのだろうと推量できるのはアインシュのみであった。まあ、口出しをするつもりは相変わらずなさそうだが。彼自身も、グランほどの実力者が担当すれば何か掴めるのではないかと思っているのかもしれない。


「おいグラン!! やりすぎて壊すんじゃねぇぞ。やったらそのスカした顔面潰してやるからな!!」

「お前と一緒にするな!! 誰がスカした顔だ!!・・・・しかし、私が担当するのは構わないのですが、その間の陛下の護衛は・・・」

「その点は心配ない。 エメローナに任せる」

「エメローナ殿下がですか? それではさらに護衛が・・・」

「だいじょぶだろ。アイツだって魔法騎士団マージナイツの団長だし。というか、そもそもこのオッサンに護衛なんぞいるかよ」

「そういう問題ではない!! まったくお前は・・・・」


 そして再びグランがレオルを叱りつける前に、オズワルドは改めて命を下す。


「グラン、叱るのは後にしろ。ともかく、命を出す・・・・・・グラン・ヘイラーよ。明日の試験で、デュアルディオ・フォン・シークラントの全力を測れ。あらゆる場面を想定し、後を引くような事態にならないのならば、どのような戦い方をしても構わん。よいな?」

「はっ!! 陛下の命、確かに承りました」


 それまでどうしようない悪ガキを説教する母親のようだったグランは、一瞬できっちりと姿勢を正す。レオルが近衛騎士になってからはよく見る光景であった。


「シークラント伯、貴殿には試験の監督を頼みたい。まずないとは思うが、不正や試験をどうしても中断せねばならなくなれば、それを決断してほしい」

「謹んで承ります」


 オズワルドはそこでアインシュにも声をかけるが、アインシュは言葉少なに了承した。


「なあ、オレは?」

「お前はモーレイ鉱山だ」

「えぇ~!! ズルいだろ!! オレにも試験の様子見せろよ!!」

「ガタガタ騒ぐな!! 試験は魔導映写機で記録するからそれで我慢しろ!!」

「バーンライトがいては、いつ乱入されるかわからん故、遠慮願いたいな」

「・・・・・」


 グランはともかく、アインシュに言われたのは堪えたのか、この男には珍しく仏頂面で黙るのだった。


「これで話は終わりだ。下がってよい」

「はっ!!」


 こうして、青年が漠然と感じたように、青年の運命を決める戦いは、かつて運命を決めた男との戦いとなるのだった。そのときは、もうすぐそこに迫っている。



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