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41話「死神VS天才」

SCARLET41:死神VS天才


・そして時は来た。

「第四回戦を始める!選手は前へ!」

審判の声で俺はコート中央へ出る。

隣では久遠が同じように構えていた。

馬場久遠寺。11歳。赤羽美咲が初めて出会えたライバルであり親友。

俺からすれば教え子の一人であり

かつて俺の足を砕きそして俺が壊した男の妹。

空手の道に入ってから一年経っていない身でありながら

俺でさえ容易く破ることの出来ない鉄壁にして鋭利な制空圏を持ち、

女子とは言え年上の相手の足腰を完全に粉砕するだけの一撃を宿し、

小学生の身でありながらこのカルビ大会に出場して

今こうして俺の前に立っている。

普段は可愛い後輩だが今だけは違う。

今からの数分間は全てこの少女を倒すためだけに使わなくては

俺でさえ勝ち目はないだろう。

「・・・・・・・・」

久遠の表情を見る。

ヘッドギア越しだからよく見えないが

いつものおちゃらけた雰囲気とは違う。

余裕を殺し真剣に俺を純粋に倒すべき相手の一人として

見つめてくれている。

お互いに間違いなく今まで戦ってきた中でも最高位に強い相手だろう。

「正面に礼!」

くうに十字を切る。

「お互いに礼!」

久遠に向けて十字を切る。

「構えて!」

両の拳を鎖骨の高さまで上げて腰を落とす。

「はじめっ!!」

そして引き金を引く。

「せっ!!」

「せっ!!」

火花が散った。俺にはそう幻視えた。

斎藤や先の対戦相手を一撃で葬った速さと重さの拳を容赦なく放ち

それをこの少女は容易く制空圏を適用させた片手だけで払った。

互いの手首が一瞬にも満たない時間に稲妻のように激突した。

次にもっと距離を縮めて強引に久遠の制空圏を崩すために動く。

しかし久遠もそれを読んでいたのか俺に合わせて動き

全く制空圏の穴を見せてくれないどころか

逆に俺の制空圏を押し返している。

この少女の制空圏は理詰めじゃない。完全なる力押しの絶対防御。

そして、防御だけじゃない。

「シュッ!」

俺の制空圏の僅かな間隙を突いて彼女の小さくて鋭い拳が

俺の右の鎖骨にぶち込まれた。

バキッ!と音がした。きっと今ので鎖骨が折れてしまったのだろう。

鎖骨が折れてしまうとその腕を強く前に出せなくなってしまう。

つまり俺の右拳は今本来の半分程度の威力も速度も出せない。

しかしそれが怯んでいい理由にはならない。

俺は構わず右拳で久遠の首を狙う。

身長の関係でどうしても真っ直ぐだとそこになってしまう。

当然どこを狙おうとも久遠の制空圏の精度は恐ろしいほど高いため

さも当然のように防がれ払われてしまう。

が、

「!?」

この時に右手から熱を発した。

赤羽に教えた送熱は練習すれば触れずして発することが出来る。

それに純粋な突きにより生じた空気の塊を乗せて久遠の胸にブチ込む。

スパーリングの時に試した久遠対策の技だ。

いくら制空圏でも触れずに熱と空気だけで放たれたパンチまで

防ぐことは出来ない。

熱気当てとでも呼ぼうか。

「せっ!!」

それを今度は連続で放つ。

久遠の制空圏で突き出した手そのものは簡単に払われても

その手の先から放たれた熱気の塊は容赦なく久遠の上体を襲っている。

大体この3秒間に20発以上。

あのスパーリングの時はそこまで備えていなかったからか

久遠を一発で倒すことが出来たが流石にこの場では

これだけ打ち込まれてもそこまでのダメージはなかった。

ばかりか既に仕組みを理解したのか久遠が攻勢に出てきた。

なるべく制空圏を狭く濃く変形させてダメージを削る。

そして久遠の攻撃が終わるのを見計らって夫婦手にパンチを放った。

どっちか片方を払っても即座にもう片方が迫るように

計算されて放つ空手の技。

「っ!」

惜しい・・・!2発目はあともう少しというところまで

近付けたがギリギリで久遠に払われてしまった。

そして久遠のほとんど目線の高さを変えずに放たれた飛び蹴りが

俺の左の鎖骨に突き刺さった。

「・・・・くっ!!」

またバキッと言う音が響き左手の動作が鈍くなってしまった。

しかしその左手で久遠が飛び蹴りに使った足の裾を掴む。

そして右拳でその足のくるぶしを穿つ。

「ううううっ!!」

くるぶしと足首の骨を一気に殴り砕いてさらにその激痛で怯んだ久遠の

もう片方の足の膝に廻し蹴りを打ち込んで関節を外す。

「うああああああああっ!!」

これでこちらは両手、向こうは両足がまともに使えなくなった。

少なくとも虎徹絶刀征は打てまい。

とは言え両足を機能停止にされたというのに

この少女は崩れることなく立ったままだった。

それまでその鉄壁の制空圏でほとんど手傷など負ったことがないだろうに。

「・・・し、死神さんの弟子だからねっ・・・!!」

「・・・申し分ない答えだ・・・!」

久遠が足を止めたまま俺の制空圏の間隙を突いてパンチを放ってくる。

それに関してはもう対処するのをやめた。

久遠の3発のパンチが全て無抵抗に俺の胸に突き刺さり

圧迫された皮膚と血管が擦過して出血が起きた。

が、それと引き換えに俺の拳がクロスカウンター気味に

久遠の胸に叩き込まれる。

「・・・・っっっっ!!!」

久遠の小柄が宙に浮いた。

が、久遠は重力がなくなったのを機に足首から先が使えなくなっただけの

右足の膝で俺の顔面を狙った。

これは防がないとまずい・・・!

「ぐっ!!」

両手を使ってその膝蹴りを十字受けに防いだ。

あの少女や斎藤ほどではないが全体重が乗った一撃は重く、

まるでハンマーで殴られたように

俺の両腕から僅かな間だけ感覚が姿を消した。

が、今このまま地面に落ちるまでの間久遠は全くの無防備。

そこで久遠の膝をつかみそのまま逆上がりする要領で

後ろに回転しつつ両足で久遠の顎を穿った。

「!?」

「白虎穿天!!」

サマーソルトキックにドロップキックを加えたような荒技が

確実に破壊的に久遠の顎にぶち込まれる。

「ぐっ!」

「がっ!!」

そして時間が活動を再開したかのように

二人揃って背中からマットに倒れる。

「両者・減点1!」

・・・珍しい判定が出るものだ。

両腕がほとんど動かない。が、それでも足は動くから立ち上がる。

ここで下段払いをすれば一本を奪え今の減点を相殺出来、

久遠だけがマイナスとなって判定で有利になる。

だがまだ腕の麻痺が残っていて下段払いは出来なかった。

しかし、

「・・・久遠?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

久遠が起き上がることはなかった。

どうやら今の一撃で気を失ったらしい。

・・・と言うか顎に白虎を受けてそのまま

受身も取らないまま後ろに倒れたとあれば

脳に深いダメージがあってもおかしくない。

まさか俺は早龍寺に続けて彼の妹を・・・

赤羽の親友を、俺にやっと心を開いてくれた

この少女を壊してしまったとでも言うのか・・・!?

「久遠!!」

「・・・大丈夫だよ、死神さん。」

「!」

それから久遠はバック転の要領で後ろに回転して立ち上がった。

「馬場家のヘッドギアは特別製だからね。でもちょっと危なかったよ。」

「・・・なら、続けるぞ。」

「・・・もちろん。」

とは言ったもののこちらは両手が、向こうは両足が使えない。

時間も残り30秒を切った。

・・・次の一撃で倒すしかない。

それは相手も同じ魂胆からかあの両足で構えを取った。

前に2度程見覚えが有るあの構えは間違いなく虎徹絶刀征。

いや、それに俺の右足を破壊した

馬場家秘伝のあの技・腰回しも混じっている。

間違いなく久遠が今放とうとしているのは最強の技。

直撃はもちろん防いでも受けた場所は砕けるだろう。

なら威力でそれを打ち破るまで!

「・・・青龍の構え・・・」

「行くぞ!久遠!」

青龍一撃。

しかし手の感覚がないこの状態で放っても

まともな威力にはならないだろう。

だから俺はこれを膝で使わせてもらう。

「・・・なら行くよ!甲斐さん!!秘伝・虎徹絶刀征天回!!」

「久遠!!!青龍聖鎗一撃!!」

久遠が飛び、きりもみ状に回転しながら全体重を乗せた左足で

俺の右上半身を狙い、俺がそれを青龍の流れから放つ膝蹴りで迎え撃つ。

久遠の左足のくるぶしのやや上の部分を膝蹴りで穿ち、

相手の威力を殺しながら俺は足を伸ばして前蹴上げで久遠の上半身を穿つ。

「!?」

「青龍二段聖鎗!!」

再び久遠の小柄が宙を舞った。

そして数秒後に畳の上に落下した。

今度は受身を取っていたが・・・。

「・・・一撃って言っておきながら二段なんてずるいよ・・・」

「甘えるな、これは実戦空手だ。」

「・・・勝てないな、死神さんには。」

久遠が言葉を発すると同時にタイムアップ。

判定の結果俺に勝利が言い渡された。

「・・・恥ずかしいよ死神さん。」

「今は甘えてろ。」

倒れた久遠をわずかに感覚の戻った両手で抱き上げて

キーちゃんと赤羽の待つコートの外へ向かう。

「もう二人共無茶して。すぐに会社に戻って治すよ?」

「ごめん。頼むよ。・・・赤羽、」

「はい。私は後で向かいます。・・・当然勝利してから。」

「・・・ああ。」

赤羽を一人会場に残して俺達3人は会場を後にした。

その際廊下ですれ違った車椅子の男が

赤羽剛人であった事はこの時まだ気付かなかった。

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