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ルカ・マーフィーは夜魔法の継承者  作者: 如月


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最大の敵

ノアが壁へ叩きつけられ、動かなくなった。


大広間に重い衝撃音が響く。


「ノア兄様ぁぁ!!」


ルカの叫びが響いた。


しかし男――ゼノス・アビスレインはゆっくりと二人へ歩み寄るだけだった。


まるで勝利を確信しているかのように。


その余裕が。


その圧倒的な強者の態度が。


サラの中で何かを切った。


「……ふざけないで。」


震える声。


だがその瞳には怒りが宿っていた。


「学園長を傷つけて……ソジュン先輩を唆して、ノア先輩まで……。」


サラは静かに杖を握る。


その瞬間。


膨大な魔力が周囲へ溢れ出した。


床が震える。


空気が軋む。


水色の魔力が嵐のように渦巻いた。


ルカが振り返る。


「サラ……!」


サラは笑った。


どこか危うい笑みだった。


「暴走してもいい。」


魔力がさらに膨れ上がる。


「今は……この敵を止めるのが先よ。」


バチバチと青白い魔力が身体から漏れ出す。


制御を超え始めている。


本来なら止めなければならない。


だがサラは止めなかった。


止めるつもりもなかった。


「全部使ってやる!!」


杖を天へ掲げる。


巨大な水の魔法陣が何重にも展開された。


「上級水魔法――――」


大広間全体が揺れる。


「海神の怒涛ポセイドン・テンペスト!!」


轟音。


天井近くまで届く巨大な水流が発生した。


まるで海そのもの。


何百もの水竜が唸り声を上げながらゼノスへ襲い掛かる。


ドォォォォォン!!


巨大な激流が大広間を飲み込んだ。


床が砕ける。


柱が吹き飛ぶ。


普通の魔導士なら跡形も残らない。


だが。


激流の中心。


ゼノスは立っていた。


「……悪くない。」


フードの奥から声が響く。


その瞬間。


黒紫の魔力が爆発した。


激流が弾き飛ばされる。


「なっ……!」


サラの顔が青ざめる。


それでも止まらない。


いや、止められない。


暴走しかけた魔力が次々と杖へ流れ込む。


「まだよ!!」


二発目。


三発目。


四発目。


巨大な水流が連続で襲い掛かる。


サラの鼻から血が流れる。


腕が震える。


身体が悲鳴を上げている。


それでも攻撃をやめない。


「サラ…血が!!」


ルカは驚きつつも、自身の決心したように顔を上げる。


「サラがここまで戦ってる。ノア兄様もやられた今…俺がやるしかない。」


「夜よ――。」


静かに杖を握る。


「僕に力を貸して。」


闇が広がる。


天井に無数の星々が浮かび上がった。


大広間が夜空へ変わる。


夜魔法。


ルカだけが扱える特別な魔法。


「星壁結界。」


キィィィィン―――。


無数の星が集まり巨大な結界となる。


サラの前へ展開される。


ゼノスの魔力から彼女を守るための防壁。


そして。


ルカはさらに魔力を解放する。


夜空の星々が輝き始めた。


「星の連弾。」


一つ。


二つ。


十。


百。


無数の星弾が空を埋め尽くす。


まるで流星群。


「行けぇぇぇ!!」


ドドドドドドドドドッ!!


星の雨が降り注ぐ。


サラの大津波。


ルカの星弾。


二人の全力攻撃が同時にゼノスへ襲い掛かった。


爆発。


轟音。


衝撃波。


大広間全体が揺れ続ける。


普通の相手なら絶対に耐えられない。


だが――


爆煙の奥から。


ゆっくりと。


黒い人影が歩き出した。


「……面白い。」


ゼノスの声だった。


その声を聞いた瞬間。


ルカとサラの背筋に冷たいものが走る。


二人の全力。


それでもまだ。


敵は本気を出していなかった。


サラとルカの全力攻撃。


大広間を埋め尽くす津波と星の連弾。


轟音が鳴り響き、視界を覆う爆煙が広がる。


だが――。


「……終わりか?」


爆煙の中から聞こえた声に、ルカの背筋が凍った。


次の瞬間だった。


ゼノスの姿が消える。


「え――」


ルカが反応するよりも早く。


ドゴォッ!!


重い衝撃音が響いた。


サラの身体が大きく前へ吹き飛ぶ。


「がっ……!」


いつの間にかゼノスはサラの真後ろに立っていた。


人間の目では捉えられない速度。


地獄魔法でもない。


純粋な身体能力だけで距離を詰めたのだ。


ゼノスの掌底がサラの背中へ叩き込まれていた。


サラの杖が手から滑り落ちる。


「サラ!!」


ルカが叫ぶ。


だがサラは返事をしない。


そのまま床へ倒れ込む。


暴走寸前まで魔力を使い続けていた身体は、限界を超えていた。


完全に意識を失っていた。


「サラーーッ」


ルカが駆け寄ろうとする。


しかし。


ゾクリ――。


背後から圧倒的な殺気を感じた。


振り返る。


そこには。


すでにゼノスが立っていた。


「なっ……!?」


あり得ない。


今サラの前にいたはずなのに。


距離など存在しないかのような移動速度。


ルカが目を見開いた瞬間。


ゼノスの指先が額へ触れる。


「眠れ。」


それだけだった。


ドクン――。


頭の奥へ何かが流れ込む感覚。


視界が揺れる。


身体から力が抜ける。


「ま……だ……」


祖父を助けなければ。


ノアを。


サラを。


皆を――。


意識が遠のく。


最後に見えたのは。


冷たい瞳でこちらを見下ろすゼノスの姿だった。


そしてルカの身体もゆっくりと崩れ落ちる。


大広間には気絶した三人と学園長だけが残された。


ゼノスは静かに振り返る。


「ようやく手に入る。」


夜魔法の継承者。


その言葉を呟いた瞬間――


遠くから複数の魔力反応を感じた。


ゼノスはわずかに視線を向ける。


「来たか。」


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