回復
保健室の空気は重かった。
回復魔法の淡い光だけが静かに揺れている。
ブラッククラスの面々は、それぞれ傷を負いながらも無事だった。
アクアは雪梅の回復魔法を受けながら眠っている。
ビルは壁際で腕を組み。
ハジメは眼鏡を外したまま深く息を吐いていた。
マリアはサラの不在を気にするように何度も入口へ視線を向ける。
エディは俯いたまま拳を握り締め。
アリスは静かにレオの隣へ立っていた。
そんな中。
保健室の窓際で、セドリックとレオが小さく会話を交わしていた。
レオは椅子へ腰掛けたまま静かに目を閉じている。
セドリックは腕を組み、夕焼け空を見つめていた。
沈黙を破ったのはレオだった。
「……ルカたちにあったか?」
低く静かな声。
セドリックは短く答える。
「会っていない」
その返答に、レオは僅かに眉を寄せた。
普段感情を表へ出さない彼にしては珍しい反応だった。
「ノアは冷静だ。無茶はしない」
「ああ」
「だがルカは違う」
セドリックは小さく息を吐いた。
その言葉に否定はしない。
「……あいつは自分を後回して無茶をする」
守りたいものがあると、無理をする。
まだ一年生だというのに。
力も経験も足りないのに。
それでも誰かを助けようとする。
セドリックは静かに拳を握った。
「怪我していなければいいが……」
その声には、兄としての感情が滲んでいた。
レオはゆっくり目を開ける。
「サラもいない。もしかしたらるかたちといるかも」
「……ああ」
サラ・ベイリー。
まだ制御しきれていない異質な力。
暴走すれば危険なのは敵だけではない。
ハジメが会話へ加わる。
「しかもソジュンの件もある」
空気がさらに重くなった。
エディが苦しそうに顔を上げる。
「……なんでだよ」
震える声。
「同じブラックだったんだぞ……!」
マリアも俯く。
「ソジュン、無口だけどみんなに優しかったのに……」
ビルは苦々しく舌打ちした。
「演技だったってことかよ……胸糞悪ぃ」
アリスは静かに目を伏せる。
「……気づけなかった」
副寮長として。
仲間を見てきたはずだった。
それなのに。
レオはそんなアリスへ静かに言う。
「お前のせいじゃない」
「でも……」
「人の本質は、簡単には見抜けない」
レオ自身も悔しさを滲ませていた。
ブラッククラスは特殊な集まりだ。
孤独で。
癖が強く。
問題児ばかり。
それでも仲間意識だけは強かった。
だからこそ裏切りは重い。
セドリックは全員を見渡す。
「今は感情より優先することがある」
静かな声。
だがその一言だけで空気が引き締まった。
「ノア、ルカ、サラの捜索。そして敵の本隊だ」
ハジメが眼鏡を掛け直す。
「警察隊の到着はまだ時間がかかる」
ビルは立ち上がった。
「なら俺たちで行くしかねぇだろ」
「馬鹿、身体ボロボロでしょ」
アリスが止める。
だがビルは笑った。
「ブラックが仲間いて休んでられるかよ」
その言葉に。
マリアも小さく頷く。
エディも立ち上がった。
レオは静かに立ち上がる。
長い紫髪が揺れた。
「……俺も行く」
アリスが驚く。
「レオ、あなたまだ――」
「問題ない」
その瞳には静かな怒りが宿っていた。
仲間を傷つけられた。
ブラックを裏切られた。
そして今も、ルカたちが戻っていない。
それだけで十分だった。
セドリックはそんなレオを見て、小さく頷く。
「なら決まりだ」
保健室の空気が変わる。
疲弊していても。
傷だらけでも。
彼らは止まらない。
ブラッククラスも。
生徒会も。
仲間を見捨てるという選択肢だけは、最初から存在しなかった。




