ブラックの面々
「それでは——寮について説明します」
談話室で立ち上がったアリスが、静かに言った。
ルカたちは自然と背筋を伸ばす。
「ブラック寮のルールはシンプルです。
まず——犯罪行為は禁止。これは当然ですね」
「次に、20時以降の外出は禁止されています」
アクアが小さく「へぇ」と呟く。
「そして、寮内での魔法トレーニングは——地下の研究室で行うこと」
「……地下?」
ルカが反応する。
「はい。専用の結界が張られているため、安全に魔法を扱えます」
一瞬だけ間を置いて、アリスは続ける。
「それ以外に、細かいルールはほとんどありません」
「え、それだけ?」
アクアが少し驚いたように言う。
「ブラッククラスは“自己管理”が前提ですから」
その言葉には、静かな圧があった。
⸻
「では、各階の案内を行います」
アリスの案内で、一行は階段を上がる。
⸻
◆ 2階 ― 二年生フロア
最初の扉の前で、アリスが軽くノックする。
静かに扉が開いた。
そこにいたのは——
黒髪で整った顔立ちの少年。
どこか無機質な空気をまとっている。
「……パク・ソジュンです」
短く、それだけ。
軽く頭を下げると、それ以上は何も言わない。
「……よろしく」
ルカが言うと、ソジュンはほんのわずかに頷いた。
——それだけで会話は終わった。
「無口な方ですが、気にしないでください」
アリスが補足する。
⸻
隣の部屋に行こうとすると
次の扉が勢いよく開く。
「お、来た来た〜!」
明るい声と共に現れたのは、茶髪のゆるいパーマの男子。
「エディ・ビルフォート!よろしくねー!」
軽いノリで手を振る。
その視線が、すぐにサラに向いた。
「え、ちょっと待って、めっちゃ可愛くない?」
「……え?」
サラが固まる。
「ねぇねぇ、今度お茶でもどう?案内するよ?」
一歩距離を詰めるエディ。
だが——
「やめてください」
アリスの一言で、空気が止まる。
「冗談冗談〜!」
と笑ってごまかすが、目は少しだけ泳いでいた。
⸻
さらに奥の部屋。
ノックの後、ゆっくり扉が開く。
そこには——
金髪に赤いメッシュを入れた、パンクロックな雰囲気の男がいた。
「……んぁ……」
目の下には濃いクマ。
明らかに寝起き。
「オーランド ミラ……よろしく……」
ぼそっと言うと、壁にもたれかかる。
「この方は4年生です。朝は弱い方なので」
アリスが淡々と説明する。
「……夜は強いから……問題ない……」
そう言い残して、ふらっと部屋に戻っていった。
⸻
その隣の部屋。
扉の奥にいたのは、読書をしていた眼鏡をかけた真面目そうな少年。
「ハジメ・トウドウです」
丁寧に一礼する。
「生まれは別の国ですが……これからよろしくお願いします」
その姿勢は、どこか礼儀正しすぎるほどだった。
⸻
◆ 3階 ― 上級生フロア
階段を上がると、空気が少し変わる。
重い——というより、“圧”がある。
その中で、一つの扉が開いた。
「……新入りか」
低い声。
現れたのは——
圧倒的な体格の男。
色黒の肌、顔には傷。
ただ立っているだけで、威圧感がある。
「5年ビル・スチュアートだ」
短く名乗る。
それだけで、“強い”と分かる存在だった。
⸻
「女子のフロアは別になります」
アリスが階段の反対側を示す。
「こちらです」
案内された先で、元気な声が響いた。
「来た来たー!」
赤髪の少女が飛び出してくる。
「3年のマリア・クイーン!私は精霊使い!」
くるっと回ると、周囲に淡い光が舞う。
「仲良くしてねー!女の子嬉しいよー!」
そのままサラに抱きつきそうな勢い。
そして次の瞬間——
「え、なにこの子!」
ルカに視線が向く。
「可愛い男の子だねー!」
「え、ちょっ——」
ぐしゃぐしゃっと髪を撫でられる。
「ちょ、やめ……!」
「ふふ、いいじゃんいいじゃん!」
完全にペースを握られていた。
ルカの隣から殺気が感じられたが無視しておいた。
⸻
こうして——
ブラッククラス、全員との顔合わせが終わった。
⸻
談話室へ戻る一行。
ソファに腰を下ろすと、ルカは小さく息をついた。
「……すごい人たちばっかりだ」
「だねー」
アクアが笑う。
「でも——」
ちらっとルカを見る。
「面白くなりそうじゃない?」
その言葉に、ルカは少しだけ笑った。
不安は、まだある。
ただ、
ここには、自分と同じように“何か”を抱えた人たちがいる。
その事実が、ほんの少しだけ心を軽くしていた。




