分断
轟音が絶え間なく空間へ響き渡る。
暴風が吹き荒れ、水刃が空を裂き、土壁が砕け散る。
闇が揺らぎ、幻影が幾重にも広がる中、双剣の斬撃だけが鋭く閃いていた。
セドリックが風魔法で敵の動きを制限する。
「ウィンド・プレッシャー!」
暴風が敵を押し潰すように吹き荒れる。
その隙を狙い、ジョシュアが地面を砕きながら突撃した。
「アース・インパクト!!」
強化された土拳が振り下ろされる。
だが敵は双剣を交差させ、その衝撃を真正面から受け止めた。
凄まじい衝撃波が広がる。
床が割れ、壁に亀裂が走る。
「……っ!」
ジョシュアが顔をしかめる。
重い。
受け止めた感触が、まるで鋼鉄の塊だった。
その瞬間、敵の背後に無数の幻影が現れる。
キラだった。
「ダーク・ミラージュ」
紫の瞳が妖しく光る。
敵の視界に偽の景色を映し出し、一瞬だけ認識を狂わせる。
「そこだ!」
セドリックが水槍を放つ。
幾重にも圧縮された高密度の水刃が一直線に飛ぶ。
敵は咄嗟に回避するが、完全には避けきれない。
肩口を浅く切り裂かれ、血ではなく黒い魔力粒子が散った。
「……チッ」
初めて敵が舌打ちした。
だが、生徒会側も決して余裕ではなかった。
セドリックの呼吸は徐々に荒くなっている。
ジョシュアの拳には細かな震えが出始めていた。
キラも幻影維持による精神消耗で額に汗を浮かべている。
決定打がない。
どれだけ攻撃を重ねても、あと一歩届かない。
敵もまた疲弊していた。
三対一。
しかもここまでの連戦。
流石の敵も体力消耗は隠しきれていない。
肩で息をしながら、男は周囲を一瞥する。
「……あいつら、戻ってこないな」
低く呟く。
ルカと戦っていた影魔法使い。
アクアと交戦していた槍使い。
誰一人戻ってこない。
「……やられたか」
フードの奥で目を細める。
想定より状況が悪い。
このまま長引けば、自分も消耗し切る。
そして何より――。
“ボス”の元へ向かわなければならない。
真実の扉。
魔石。
今回の作戦の核心。
ここで足止めを受け続ければ、計画そのものが破綻しかねなかった。
「なら――」
敵の魔力が膨れ上がる。
双剣を地面へ突き刺した。
「錬金術――ストーン・ラビリンス」
ゴゴゴゴゴゴ――ッ!!
地面が激しく揺れる。
次の瞬間。
巨大な石壁が次々と隆起した。
「なっ……!?」
ジョシュアが目を見開く。
壁は迷路のように空間を分断し、生徒会の三人を強制的に引き離していく。
セドリックの前に石壁。
キラの横にも石壁。
ジョシュアの退路すら閉ざされる。
完全な分断。
「セドリック!!」
キラの声が響く。
だが壁は分厚く、魔力まで遮断していた。
敵の狙いは明白だった。
三対一では勝ち切れない。
ならば――。
一人ずつ潰す。
フードの男は静かに笑う。
「さて……まずは誰から殺るか」
轟音と共に隆起した石壁は、生徒会の三人を完全に分断した。
迷路のように入り組んだ石の通路。
天井すら見えない閉鎖空間。
魔力の流れまで遮断されているのか、仲間の気配すら感じ取れない。
「ジョシュア! キラ!」
セドリックが声を張る。
だが返事はない。
静寂だけが返ってきた。
「……厄介な」
セドリックは冷静に周囲を見渡した。
感情的に動けば敵の思う壺。
まずは状況把握。
それが生徒会長としての判断だった。
彼は静かに杖を掲げる。
「ウォーター・ストリーム」
足元に小さな水流が生まれる。
その水を通路へ少しずつ流し始めた。
水は緩やかに床を伝い、分岐へ広がっていく。
「……これでいい」
水は通った道へ薄く跡を残す。
来た道へ戻らないための目印。
さらに、水流の動きで空間の傾斜や行き止まりも把握できる。
セドリックは慎重に歩き始めた。
だが迷路は異様だった。
曲がったはずの道が別の位置へ繋がっている。
同じ景色が繰り返される。
まるで空間そのものが歪められているかのようだった。
「……錬金術だけじゃないな」
敵は単純な石壁を作ったわけではない。
幻惑や空間干渉まで組み込まれている。
セドリックは眉を寄せた。
一方その頃――。
「ッラァ!!」
轟音が響き渡る。
ジョシュアが巨大な拳を石壁へ叩き込んでいた。
土魔法で強化された拳撃。
普通の壁なら一撃で粉砕できる威力。
しかし。
ドゴォッ!!
衝撃音だけが響き、壁には傷一つつかない。
「硬ぇな……!」
ジョシュアが舌打ちする。
続けざまに土槍を叩き込む。
「アース・ランス!」
岩槍が壁へ激突する。
だが結果は同じだった。
ヒビすら入らない。
「……普通の石じゃねぇな」
ジョシュアは拳を握り締める。
魔力で異常強化された特殊鉱石。
しかも迷路全体へ魔力が循環している。
下手に一点だけ壊しても再生される可能性が高い。
「だったら……」
ジョシュアはゆっくり腰を落とした。
手を床へ当てる。
「地面そのものを砕くしかねぇ」
土魔法が地中へ流れ込む。
迷路全体へ微細な振動を走らせ、地盤構造を探っていく。
迷路ごと崩壊させる。
それが最短だと判断した。
その頃。
キラは静かに立ち止まっていた。
薄暗い石通路。
前方の闇の中から、ゆっくりと足音が響く。
カツ……カツ……。
やがてフードの男が姿を現した。
双剣を肩へ担ぎながら、不気味に笑う。
「まずはお前だ」
キラは静かに杖を構える。
紫の瞳が細められた。
「……わざわざ私を選んだの?」
「幻影魔法は厄介だからな」
男が低く笑う。
「先に潰しておきたい」
空気が張り詰める。
闇と闇がぶつかるような、冷たい殺気。
キラは小さく息を吐いた。
そして静かに魔力を解放する。
「後悔しないでね」
次の瞬間――。
闇が爆発するように広がった。




