生徒会の連携
リアムが倒れた空間に、重たい静寂が落ちた。
焦げた石床。裂けた壁。雷光で焼かれた黒い跡が、戦闘の激しさを物語っている。
セドリックは意識を失ったリアムを静かに床へ横たえると、ゆっくり立ち上がった。
その瞳には、普段の冷静さとは違う、鋭い怒りが宿っていた。
「……よくも、弟をここまでやってくれたな」
低く呟く。
敵の男は双剣を回しながら肩をすくめた。
「まだ生きてる。加減はしたつもりだが?」
その瞬間――。
轟ッ!!
空間全体に暴風が吹き荒れた。
セドリックの周囲から膨大な風魔力が解き放たれ、黒いローブが激しくはためく。
「風属性上位魔法――ウィンド・テンペスト」
無数の風刃が一斉に放たれる。
敵は高速移動で躱そうとするが、その瞬間。
「逃がさねぇよ」
地面を砕きながらジョシュアが飛び込んだ。
巨大な拳が石床を叩きつける。
「アース・バインド!!」
土魔法によって地面が隆起し、岩の腕が敵の足を拘束する。
そこへセドリックの風刃が直撃した。
ガガガガガッ!!
敵は双剣を高速で振るい風刃を弾くが、完全には防ぎきれない。
「連携技か」
男が後方へ跳ぶ。
しかしその着地点に、既にジョシュアがいた。
「遅い」
重心を低く落とした武術の構え。
次の瞬間、土魔法で強化された拳撃が腹部へ叩き込まれる。
ドゴォッ!!
衝撃で敵の身体が吹き飛び、壁へ激突する。
だが男は空中で体勢を立て直し、双剣を構え直した。
「面白い……!」
その時だった。
ふわり、と闇が広がる。
空間の灯りが一瞬だけ沈み込み、敵の視界に無数の人影が現れた。
「……っ!?」
敵が目を見開く。
左右、背後、正面。
セドリックとジョシュアの幻影が幾重にも現れ、一斉に襲いかかってくる。
その奥で、長い紫髪を揺らしながらキラが静かに杖を掲げていた。
「幻影魔法――ミラージュ・ファントム」
淡い紫の魔法陣が展開される。
「本物を見分けられる?」
キラが微笑む。
敵は双剣を振るうが、切り裂いた姿は霧のように消える。
「チッ……幻影か!」
その隙をセドリックは逃さなかった。
「ウォーター・ランス」
空中に生まれた無数の水槍が高速回転しながら敵へ放たれる。
敵は回避する。
だが足元の影が不自然に揺らいだ。
「――ダーク・グラスプ」
闇が腕のように伸び、敵の動きを一瞬拘束する。
「今だ、ジョシュア!」
「ああ!!」
ジョシュアが土魔法で岩盤を隆起させ、その勢いのまま拳を叩き込む。
轟音。
衝撃。
砕け散る石床。
三人の連携は完璧だった。
セドリックが風と水で攻撃範囲を制圧し、ジョシュアが近距離で圧力をかけ、キラが幻影と闇で敵の感覚を狂わせる。
しかし――。
敵もまた、異常な実力者だった。
煙玉を地面へ叩きつける。
バンッ!!
視界が白煙に包まれた瞬間、気配が消える。
「上だ!!」
セドリックが叫ぶ。
直後、天井付近から双剣による高速斬撃が降り注いだ。
火花が散る。
ジョシュアが土壁で防ぎ、セドリックが暴風で煙を吹き飛ばす。
その奥で、敵は口元だけ笑っていた。
「なるほど……お前ら、本気で強いな」
双剣を構える。
対する三人も魔力を高める。
静かに空気が震えた。
そして再び――。
激しい戦いが幕を開けた。
アマテラスエンシミオ魔法学校――。
この学園において、生徒会とは単なる“優秀な生徒の集まり”ではない。
生徒たち全員を背負う、“学園の代表”そのものだった。
学園内で問題が起きれば真っ先に動く。
生徒同士の揉め事。
授業方針への意見。
寮生活でのトラブル。
魔法暴走。
危険区域への立ち入り。
時には教師陣すら対応に悩む問題にも、生徒会は向き合わなければならない。
だからこそ、生徒会へ選ばれる条件は極めて厳しい。
勉学。
生活態度。
礼儀。
運動能力。
魔法理論。
魔法制御。
実戦能力。
そのすべてにおいて、学園上位の成績を維持し続けなければならなかった。
ただ強いだけでは駄目。
ただ頭が良いだけでも駄目。
“誰よりも模範であること”。
それこそが、生徒会に求められる最低条件だった。
そのため、生徒会役員の力は別格とされている。
危険な才能を持つ生徒たちをまとめ上げるためには、圧倒的な実力と統率力が必要だからだ。
そのため、生徒会役員たちは日頃から徹底した訓練を積んでいた。
個人戦闘。
模擬戦。
複数人での連携。
対魔法戦。
奇襲対応。
そして、学園内へ敵が侵入した際を想定した実戦訓練。
放課後の訓練場では、何度も魔法の衝撃音が響き渡る。
セドリックの風刃。
ジョシュアの土拳。
キラの幻影。
それぞれが互いの動きを理解し、僅かな視線だけで連携できるほど鍛え上げられていた。
――本来なら。
普通の敵相手であれば、それで十分だった。
だが。
今、生徒会の三人が相対している男は、その“常識”の遥か上にいた。
「っ……!」
ジョシュアが土壁を展開する。
直後、双剣による斬撃が土壁ごと切り裂いた。
セドリックが暴風で距離を取らせるが、敵は煙のように姿を消し、次の瞬間には背後へ回り込んでいる。
キラの幻影すら見破り始めていた。
「学習してる……?」
キラが小さく呟く。
敵は笑う。
「三人とも悪くない。むしろ化け物級だ」
双剣を構え直す。
「だが、まだ届かない」
その瞬間。
凄まじい速度で踏み込んできた。
ガギィィン!!
セドリックが水刃で受け止めるが、衝撃だけで足元の石床が砕ける。
ジョシュアが横から拳を叩き込む。
敵は身体を捻りながら回避し、その勢いのまま双剣で反撃。
キラが幻影魔法で軌道を逸らさなければ、ジョシュアの腕は切断されていた。
誰も油断していない。
誰も手を抜いていない。
それでもなお――押し切れない。
三人連携ですら苦戦する。
それほどまでに、敵は圧倒的な実力者だった。




