リアムの全力
そこから戦闘はさらに激化した。
雷光と斬撃が地下空間を埋め尽くす。
リアムが駆ける。
敵も消える。
次の瞬間には互いの攻撃が交差していた。
キィィィン!!
双剣と杖が激突する。
火花と雷が炸裂した。
リアムは後退しながら魔法陣を展開する。
「《ルミナス・ブレイド》!」
黄金の光剣が生成される。
リアムは雷を纏わせ、そのまま高速接近した。
バチィィッ!!
雷加速。
光斬。
超高速の一撃。
だが。
敵は紙一重で回避する。
さらに身体を捻りながら双剣を振り抜いた。
斬撃が十字に走る。
「チッ!」
リアムは雷で強引に加速し、後方へ跳ぶ。
直後。
ズドォォン!!
背後の壁が斬り裂かれ、瓦礫が崩れ落ちた。
休む暇はない。
敵は再び煙玉を投げ込む。
視界が白く染まる。
そこへ四方八方から連撃。
リアムは雷感知を頼りに受け流し続ける。
だが。
少しずつ削られていた。
体力。
魔力。
集中力。
そして精神力。
リアムは舌打ちする。
(クソ……決定打が入らねぇ)
雷魔法。
光魔法。
どちらも確実にダメージは与えている。
《ライトニング・ブレイク》で広範囲雷撃を放ち。
《サンダー・ランス》で高速貫通攻撃。
《ルミナス・バリア》で斬撃を防ぎ。
《ルミナス・ホーリー》で煙ごと浄化爆撃を行う。
それでも。
敵は倒れない。
むしろ戦うほど、動きが鋭くなっているようにすら感じた。
リアムは荒い呼吸を繰り返す。
汗が頬を伝う。
対する男は、多少の傷こそ増えているものの、なお余裕を失っていない。
「終わりか?」
低い声。
リアムは笑った。
「……んなわけねぇだろ」
だが。
内心では理解していた。
このまま通常戦闘を続ければ、先に倒れるのは自分だ。
敵の速度。
技量。
錬金術。
戦闘経験。
全てが異常だった。
(なら――)
リアムはゆっくり杖を握り直す。
紫電が激しく弾けた。
同時に黄金の光も混ざり始める。
地下空間の空気が変わった。
敵の眉が僅かに動く。
「……ほぅ?」
リアムは静かに呟く。
「これは、もう少し取っておきたかったんだが……」
魔力が爆発的に膨れ上がる。
杖の紋章が輝く。
空間へ巨大な光の魔法陣が展開された。
「《セレスティアル・ゲート》――」
ゴォォォォォ……!!
空中へ巨大な光の門が現れる。
神々しいほどの黄金光。
その内部では雷が荒れ狂っていた。
敵が初めて明確な警戒を見せる。
リアムはさらに魔力を解放する。
「《ライトニング・コロニー》」
バチバチバチバチィィィッ!!
無数の雷球が空中へ生成される。
一つではない。
十。
二十。
三十。
まるで雷の軍勢。
地下空間全体を埋め尽くすほどの雷撃群だった。
リアムの膝が僅かに揺れる。
魔力消費が凄まじい。
通常なら連発など不可能な上位魔法。
だがリアムは止めない。
杖へさらに魔力を流し込む。
(このままじゃ勝てない)
(なら――)
赤い瞳が鋭く光る。
(全部ぶつけるしかねぇだろ)
雷鳴が轟いた。
黄金の門が開き始める。
その内部から、圧倒的な魔力が溢れ出していた。
黄金の門が開く。
地下空間を埋め尽くす無数の雷球。
リアム・マーフィーは荒い呼吸を繰り返しながら、それでも口元を吊り上げた。
「……こんな全力の戦闘、いつぶりかな……」
脳裏へ浮かぶ。
幼い頃の記憶。
広い訓練場。
木剣を振るうセドリック。
巨大な魔法陣を展開する父、アーサー。
そして。
圧倒的な魔力で自分達を叩き潰してきた祖父、ゲイリー・エンシミオ。
『甘い』
『遅い』
『その程度で頂点へ立てると思うな』
何度も叩きのめされた。
何度も倒れた。
それでも。
あの時間があったから、今の自分がいる。
リアムは小さく笑った。
「懐かしいな……」
そして。
赤い瞳が鋭く光る。
「でも――」
杖を強く握る。
雷が暴れ狂う。
「ここで俺は死ねねぇ」
バチィィィィッ!!
全身へ雷を纏う。
黄金の光も同時に膨れ上がった。
「全力で行くぞ……!」
敵も双剣を構える。
赤黒い魔力が空間を染めた。
次の瞬間。
両者が同時に消えた。
ドゴォォォォォンッ!!
雷鳴。
爆発。
斬撃。
紫電と黄金光が地下空間を引き裂く。
リアムが駆ける。
「《ヘブン・ブリッツ》!!」
雷の剣が巨大化する。
光を纏った雷刃。
超高速の斬撃が敵へ襲い掛かった。
だが敵も双剣で迎え撃つ。
キィィィィン!!
衝撃波で周囲の床が砕け散る。
リアムはさらに雷球を展開した。
「《ライトニング・コロニー》!!」
無数の雷撃が敵へ降り注ぐ。
敵は視界を遮断してくるが
リアムは構わず突っ込む。
「逃がすかァ!!」
《ルミナス・ブレイド》で煙ごと斬り裂く。
黄金の閃光。
敵の肩を浅く切り裂いた。
初めて明確なダメージ。
しかし。
敵は笑っていた。
「いいな……」
次の瞬間。
双剣が暴風のように振るわれる。
リアムも雷速で迎撃する。
斬撃。
雷撃。
光弾。
爆発。
互いに攻撃を叩き込みながら、それでも倒れない。
一進一退。
互角。
だが。
徐々にリアムの呼吸が荒くなっていく。
魔力消費が大きすぎる。
《セレスティアル・ゲート》と《ライトニング・コロニー》。
どちらも上位魔法。
維持だけでも膨大な負荷だった。
それでもリアムは止まらない。
「まだァァァッ!!」
雷槍を放つ。
敵が回避。
その回避先へ光剣を叩き込む。
だが敵は空中で身体を捻り、逆に双剣を振り抜いた。
キィィン!!
リアムが受け止める。
その瞬間。
(しまっ――)
攻撃後の僅かな硬直。
敵はそこを狙っていた。
視界から消える。
背後。
「終わりだ」
ゾクリと悪寒が走る。
リアムが振り返るより先に。
ドゴォォッ!!
双剣が深く叩き込まれた。
「がっ……!!」
凄まじい衝撃。
リアムの身体が吹き飛ぶ。
壁へ激突。
床を転がる。
杖が手から離れた。
呼吸ができない。
視界が揺れる。
全身が痺れるように痛む。
立ち上がろうとするが、脚へ力が入らない。
敵がゆっくり近づいてくる。
双剣を構えたまま。
「惜しかったな」
リアムは悔しそうに笑った。
(……マジかよ)
意識が遠のく。
その時だった。
「リアム!!」
聞き慣れた声が響いた。
次の瞬間。
水刃が高速で飛来する。
敵が即座に後退。
地下空間へ複数の気配が飛び込んできた。
先頭へ立つ黒髪の青年。
セドリック・マーフィー。
その後ろにはセドリックと共に生徒会をまとめる、ジョシュア・グレイソン、ノア・エトワールの姿もあった。
セドリックは即座にリアムへ駆け寄る。
「リアム! 大丈夫か!?」
リアムは薄く目を開ける。
「……すまねぇ……兄さん……」
口元から小さく笑う。
「俺……ヘマしちまった……」
「喋るな」
「……すまねぇ……」
そこでリアムの意識が途切れる。
セドリックは静かにリアムを横たえた。
その瞳から感情が消える。
代わりに。
凍えるような怒気が滲み出した。
小さな杖を握る。
水と風の魔力が周囲へ広がった。
地下空間の空気が震える。
セドリックはゆっくり立ち上がった。
その瞳は敵だけを見据えていた。
「……よくも弟をやってくれたな」




