リアムの戦い
一方その頃――。
地下深部、真実の扉へ続く最奥部。
リアムは静かに目の前の男を見据えていた。
空気が違う。
今までの敵とは明らかに格が違った。
男は黒いフードを深く被っている。
顔は見えない。
体格も特別大きいわけではない。
むしろ普通。
だが――。
漂う魔力だけが異常だった。
地下空間そのものが男へ支配されているような圧迫感。
呼吸するだけで本能が警鐘を鳴らしてくる。
そして何より。
その背後には拘束された二人の姿があった。
「アーサー先生……!」
「ヒューゴ先生も……」
二人とも魔封じの鎖によって拘束され、壁へ繋がれている。
傷だらけではあるが、生きてはいるようだった。
リアムは雷を纏いながらその男に問う。
「……お前ら何者だ?」
沈黙。
やがてフードの男が静かに口を開いた。
「俺達は――世界を支配する者だ」
低い声。
感情が読めない。
リアムが眉をひそめる。
男はそのまま続けた。
「この学園には“真実の扉”が存在する」
「その内部には、この世界の魔法すら支配できるほどの魔石があると聞いている」
リアムの目が細まる。
「……魔石?」
聞いたことがない。
少なくとも生徒である自分達には、そんな話は一切知らされていなかった。
男は静かに笑った。
「当然だ」
「そんな危険物が学園内部にあるなど、表へ出れば大問題だからな」
リアムは杖を強く握る。
学園長達が隠していた秘密。
ソジュン達の襲撃。
全てが少しずつ繋がり始めていた。
だが。
今はそれより目の前の敵だ。
リアムは雷を纏攻撃態勢に入る。
「なら尚更、ここを通すわけにはいかねぇな」
男は静かに首を傾けた。
「俺達も、お前達と戦うつもりはない」
「だが――」
空気が重く沈む。
「この先へ進むというのであれば、倒すしかない」
その瞬間。
男が小さな杖を取り出した。
魔力が流れ込む。
次の瞬間。
リアムの目が見開かれる。
「……錬金術?」
男の両手へ、二本の剣が生成される。
白銀の双剣。
鋭い魔力を纏っていた。
「双剣使いか……!」
リアムも杖へ雷魔力を込める。
バチバチと雷が炸裂した。
だが。
次の瞬間。
男の姿が消えた。
「――ッ!?」
速い。
視界から完全に消えた。
本能が叫ぶ。
リアムは咄嗟に身体を捻る。
キィィン!!
刃が頬を掠めた。
背後。
いつの間にか男が立っている。
「ほぅ」
男が低く呟く。
「これを躱すか」
リアムの額を汗が伝う。
(なんだこの速さ……!)
リアムは雷属性による超高速戦闘を得意としている。
学園でも最上位クラスの速度。
だが。
今の一撃は見えなかった。
男は再び双剣を構える。
その瞬間。
パシュッ――。
何かが足元へ落ちた。
「……煙玉!?」
直後。
ボンッ!!
白煙が一気に広がった。
視界が完全に塞がれる。
「チッ……!」
リアムは雷を走らせ感知を広げる。
だが。
気配が読めない。
その瞬間。
キィン!!
背後から斬撃。
「っ!!」
咄嗟に杖で防ぐ。
だが終わらない。
左。
右。
上。
四方八方から連撃が飛んでくる。
高速剣術。
煙による視界遮断。
そして異常な移動速度。
「ぐっ……!」
リアムは雷を纏いながら後退する。
しかし。
男の攻撃速度はさらに加速していった。
白煙の中、双剣だけが鋭く光る。
まるで死神の斬撃だった。
白煙の中を、雷光が走る。
キィンッ!!
リアムは双剣を杖で受け流し、そのまま後方へ跳んだ。
だが。
「遅い」
低い声が耳元で響く。
「――ッ!?」
横薙ぎの一閃。
リアムは雷を脚へ集中させ、強引に身体を加速させた。
バチィッ!!
雷が弾ける。
刃は制服を浅く裂くだけで済んだ。
しかし。
(反撃する隙が……ねぇ!)
敵の猛攻は止まらない。
双剣による高速連撃。
煙玉による視界遮断。
さらに、錬金術による瞬間的な武器生成。
斬撃の合間に短剣や鋼線まで飛んでくる。
リアムは雷感知を最大まで広げるが、それでも追いきれない。
速すぎる。
雷属性で速度に特化したリアムですら、防戦一方へ追い込まれていた。
キィィン!!
再び斬撃。
リアムは杖で受け止める。
だがその瞬間、反対側からもう一振り。
「ぐっ……!」
肩を浅く斬られる。
体勢が崩れる。
さらに。
背後。
「――チッ!」
リアムは咄嗟に雷を放出し、強引に横へ転がった。
直後。
ズドォン!!
先程まで立っていた場所へ、錬成された鋼の槍が突き刺さる。
リアムは荒く息を吐いた。
(マズいな……)
回避はできている。
致命傷も避けている。
だが。
体力も魔力も削られる一方だった。
敵はほぼ無傷。
対してリアムは、徐々に追い込まれている。
それでもリアムは冷静だった。
視線を動かす。
音。
気配。
煙の揺れ。
空気の流れ。
全てから敵位置を割り出そうとする。
(速さだけじゃない……)
(移動後の気配消しも異常だ)
普通なら高速移動の後には僅かな魔力残滓が残る。
だが男はそれすら隠している。
まるで煙そのものへ溶け込んでいるようだった。
キィン!!
また背後。
リアムは振り返りざまに雷を放つ。
「《ライトニング・ブレイク》!!」
ドォォン!!
広範囲へ雷撃が炸裂する。
煙が吹き飛び、地下空間が紫電で染まった。
だが。
そこに敵はいない。
「……惜しい」
声は上。
「――ッ!?」
リアムが見上げた瞬間、双剣が振り下ろされる。
ガギィィィン!!
杖で受け止める。
火花と雷が散った。
敵は空中で身体を捻り、そのまま蹴りを叩き込む。
ドゴォッ!!
「がっ……!」
リアムは壁へ吹き飛ばされた。
肺から空気が抜ける。
だが。
そこでようやく、ほんの一瞬だけ敵の動きが止まった。
(今だ――!)
リアムの瞳へ雷光が宿る。
杖を突き出した。
「《ライトニング・スピア》!!」
バチバチバチィッ!!
巨大な雷の槍が生成される。
圧縮された高密度雷撃。
そのまま一直線に射出した。
敵が横へ回避する。
だが。
リアムは最初からそれを読んでいた。
「逃がすか――《ライトニング・チェイン》!!」
放たれた雷が鎖状へ変化する。
雷の鎖が空中を蛇のように走り、敵へ絡みつこうとする。
「……!」
敵は双剣で切断しようとする。
しかし雷の鎖は砕けながらも分裂し、四方から迫る。
リアムはさらに魔力を注ぎ込む。
「捕まえろッ!!」
雷鎖が爆発的に加速した。
その瞬間。
敵の動きが僅かに止まる。
リアムは見逃さない。
「《サンダー・ランス》!!」
無数の雷槍が空中へ展開された。
次の瞬間。
ドドドドドドドッ!!
流星のように雷槍が降り注ぐ。
地下空間を紫電が埋め尽くした。
爆煙。
轟音。
床が砕け、雷が暴れ狂う。
だが。
煙の向こうから、低い笑い声が響く。
「……なるほど」
バチィッ――。
煙の中。
双剣を構えた男がゆっくり姿を現す。
服は焦げ、腕から煙が上がっている。
確かにダメージは入っていた。
しかし。
男の魔力は、まだ底が見えなかった。
「やっと少し、本気を出したな」
その瞬間。
男の双剣が赤黒く発光した。
リアムの本能が警鐘を鳴らす。
――次はさらに危険だと。




