不穏な影
学園祭二日目――。
表では歓声が響いていた。
演劇の拍手。
バンド演奏の重低音。
出店を回る生徒たちの笑い声。
魔法灯が夜空を彩り、学園全体が祭りの熱気に包まれている。
――だが、その裏側では。
誰にも知られてはいけない“影”が静かに動いていた。
◇◇◇
校舎裏。
関係者以外立入禁止の札が貼られた薄暗い搬入口。
湿った石畳に、雨上がりの水滴が光を反射している。
「……確認するぞ」
低い男の声が響く。
黒い外套を羽織った数人の男たちが、人目を避けるように集まっていた。
その胸元には、見慣れない紋章。
中央に立つ長身の男が、懐から古びた鍵を取り出す。
鈍い銀色。
まるで生き物のように脈打つ不気味な魔力を放っていた。
「これが、“真実の鍵”か……」
別の男が息を呑む。
学園最深部――。
限られた者しか存在を知らない禁域。
《真実の扉》。
それは、初代学園長が封印したとされる遺跡。
扉の先には、“世界の魔法を循環させる核”とも呼ばれる巨大魔法石が存在すると言われていた。
あらゆる魔法の根源へ繋がる中心。
もしその力を制御できれば――。
国家すら超える力を手にできる。
だが同時に、恐ろしい噂もあった。
「……真実の扉の先にある、虚空の空間は人を選ぶ」
フードの女が静かに呟く。
「邪な欲を持つ者は、二度と帰れない」
その場の空気が少し重くなる。
扉内部は複雑怪奇な異空間。
侵入者の精神を読み取り、“真実”を暴き出す迷宮。
欲望、嫉妬、憎悪――。
心に濁りを持つ者は出口へ辿り着けず、永遠に《虚無の空間》へ落ちるとされている。
戻ってきた者はいない。
だからこそ、長年誰も近づかなかった。
だが――。
「だからこそ価値がある」
中央の男が冷たく笑う。
「この学園が隠しているものを暴く」
男の瞳には、狂気じみた執着が宿っていた。
「学園祭中なら警備も分散する。潜入には絶好の機会だ」
すると奥にいた仮面の男が口を開く。
「問題は生徒会やブラック寮の連中だ」
その言葉に、数人が眉をひそめる。
「それだけじゃない。あの学園には異常な魔力感知能力を持つ者がいる」
「あぁ。元冒険者の教師や魔力コントロールの第一人者。古代魔法使い。…どれも厄介だ」
「特に――」
男が資料を取り出す。
そこには、一人の少年の写真。
黒髪に青い瞳。
静かな雰囲気を纏う少年。
「ルカ・マーフィー」
空気が張り詰める。
「夜魔法適合者」
「……本当に存在していたとはな」
男は写真を見下ろしながら呟く。
「真実の扉が反応する可能性が最も高い存在だ」
その瞬間。
――カツン。
誰かの足音。
一同が一斉に振り返る。
搬入口の奥。
薄暗い通路の向こうに、人影が立っていた。
「誰だ」
男たちが魔力を構える。
だが次の瞬間、人物は静かに近づく。
黒い制服。
「……っ」
男たちの空気が変わり、中央の男が言う。
「さぁともに行こう。」
一人の青年とフードの面々は闇の奥へ消えていた。
◇◇◇
一方その頃。
ルカは人気のない廊下を歩いていた。
手には照明機材の予備部品。
一瞬嫌な気配を感じた。
普通じゃない。
肌がざわつくような魔力。
夜魔法が、本能的に警鐘を鳴らしている。
その時――。
「ルカ?」
後ろから声がした。
振り返ると、アクアが心配そうな顔で立っていた。
「こんなとこで何してるの?」
「……いや、ちょっと」
ルカは少し迷った。
だが先程感じた嫌な気配のことを伝える。
するとアクアの表情が変わる。
静かな沈黙。
そしてアクアは小さく笑った。
「なら、一人で動かないこと」
「え?」
「ルカ、変なことに巻き込まれやすいから」
「なんだそれ……」
少しだけ空気が緩む。
だが。
その裏で確実に、“何か”が動き始めていた。
学園祭の華やかな光の裏側で。
真実の扉を巡る、不穏な影が。




