学園祭③
学園祭二日目――。
一年一組の出店は、初日以上の盛り上がりを見せていた。
「追加注文入りまーす!」
「ルカくんこっちお願い!」
「ドリンク足りないー!」
教室内は慌ただしく、生徒たちは休む暇もなく動き回っている。
そして当然のように、ルカはメイド服姿だった。
(……もうここまで来たら諦めよう)
羞恥心すらどこかへ消え始めている。
そんな中、昼過ぎ頃になると少しずつ人がはけ始めた。
ルカがほっと息を吐いた、その時だった。
「ルカ」
聞き慣れた声に振り返る。
「……っ!」
入口に立っていたのは、両親と三番目の兄・ノアだった。
そして母親はルカを見るなり、ぱっと笑顔になる。
「あらまぁ! 本当に可愛い!」
「母さん!?」
顔を真っ赤にするルカ。
父親も腕を組みながら静かに頷く。
「……よく似合っているな」
「父さんまで……!」
完全に逃げ場がない。
一方でノアは、相変わらず無表情だった。
静かにルカを見つめているが、何を考えているのか分からない。
(ノア兄様絶対なんか思ってる……)
しかし怖くて聞けない。
「え、えっと……座ってください。何か頼みますか?」
慌てて接客モードへ切り替える。
両親とノアは席へ座り、メニュー表を見始めた。
「このドリンク美味しそうねぇ」
「私はこれにする」
「……俺も同じので」
ノアが静かに言う。
そこへ、アクアがドリンクを運んできた。
「お待たせしました!」
すると母親が嬉しそうに目を細めた。
「あらアクアちゃん! 久しぶり!」
「こんにちは、おばさん!」
自然なやり取り。
アクアは昔から一緒に食事をし、一緒に遊び、時には泊まることもあった。
もはや“友人”というより、半分家族みたいな存在なのだ。
「相変わらず元気そうで安心したわ〜」
「おばさんも!」
母親が楽しそうに笑う。
父親も自然に口を開く。
「アクアくん」
「はい?」
「ルカが迷惑をかけてないか」
「え!? 逆ですよ!」
アクアは即答した。
「僕の方が助けられてばっかりです!」
その言葉に、ルカは少し照れくさそうに目を逸らす。
母親は嬉しそうに笑った。
「ふふ…昔を思い出すわねー!」
「小さい頃、ルカ泣き虫でしたしね」
「アクア!?」
「夜帰らないでアクアーって泣いてたのにねっ!」
「言うなぁ!!」
教室内から笑いが起きる。
ルカは真っ赤になりながらアクアを睨んだ。
一方で、ノアは静かに二人を見ていた。
無表情ではある。
だが、その空気はどこか穏やかだった。
しばらくして、アクアが別の接客へ向かう。
母親とノアも展示品を見たりしていて、席にはルカと父親だけが残った。
少し静かな空気。
父親がふと口を開く。
「……どうだ。学園生活は」
ルカは父を真っ直ぐ見た。
「はい。とても楽しく、大きな学びを得ています」
自然と言葉が出てくる。
「この学園では、沢山の人に支えてもらいながら……夜魔法を自分のものにできるよう頑張っています」
父親は静かに聞いていた。
そして、小さく頷く。
「……そうか」
その厳しい表情が、ほんの少し和らいだ。
「本当によかったな」
「……っ」
胸が熱くなる。
「正直、お前が夜魔法を授かったと聞いた時は絶望した」
ルカは静かに目を伏せる。
夜魔法。
どんな力かもわからず、作動すらできない力。
父親がどれだけ悩んだか、想像できた。
だが――。
「それでも、お前はちゃんと乗り越えたんだな」
大きな手が、そっとルカの頭を撫でる。
「よくやった」
優しい声音だった。
幼い頃以来かもしれない。
その温かさに、ルカは思わず泣きそうになる。
「……はい」
声が少し震える。
その瞬間――。
カシャッ。
「ふふ、いい写真撮れた!」
「母さん!?」
いつの間にか母親が魔導カメラを構えていた。
「せっかくだし皆で撮りましょ!」
「え?」
「ほらアクアちゃんも!」
呼ばれたアクアが笑いながら戻ってくる。
「はいはい」
本当に家族みたいだ。
父親も当然のように場所を空ける。
ノアも静かに立ち上がった。
「ほらルカ、真ん中!」
「えぇ……」
「いいからいいから!」
結局押し切られ、全員で並ぶ。
母親が嬉しそうに笑った。
「いくわよー!」
カシャッ――。
写真の中には、照れくさそうに笑うルカと、隣で自然に肩を寄せるアクア、穏やかな両親、静かに立つノアの姿が映っていた。
まるで、本当の家族写真のように。
ふと、ノアがアクアへ視線を向ける。
「……アクア」
「はい?」
「ルカを頼んだ」
突然の言葉に、アクアが目を丸くする。
ルカも驚いたように兄を見る。
「ノア兄様……?」
ノアは淡々と続けた。
「昔からお前は、ルカの隣で支えてくれた。礼を言う。」
静かな声だった。
「これからもよろしく頼む。」
一瞬、空気が止まる。
アクアは少し驚いたあと、ふっと笑った。
「……はい。もちろんです」
その返答に、ノアは小さく頷くだけだった。
だが、その表情はほんの少しだけ穏やかに見えた。
母親はそんな様子を見て、にこにこしている。
「ほんと仲良しねぇ〜」
「茶化さないでください……」
ルカは真っ赤になりながら呟く。
父親も小さく笑っていた。
その後、両親は立ち上がる。
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」
「この後はセドリックとリアムのところも見に行かなきゃだものね」
母親が手を振る。
「またあとでね、ルカ!」
「はい!」
父親も静かに頷いた。
「無理はするなよ」
「……はい!」
そして最後に、ノアがルカの前で立ち止まる。
「……楽しそうで安心した」
「え?」
ぽつりと零された言葉。
ノアはそれ以上何も言わず、背を向けた。
ルカは少しだけ目を見開く。
昔から感情を表に出さない兄だった。
だからこそ、その短い一言が胸に残る。
「……うん」
小さく笑いながら呟く。
家族の背中が教室から見えなくなるまで、ルカとアクアは並んで見送っていた。
その空気は、とても穏やかで温かかった。




