表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルカ・マーフィーは夜魔法の継承者  作者: 如月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/97

学園祭②

 学園祭初日――。


 一年一組の出店は、朝から信じられないほどの大盛況だった。


「果物が足りないよ!!」

「飲み物ももうないぞ!」

「誰か買い出し行ける!?」


 教室内は常に戦場のような騒がしさで、生徒たちは汗だくになりながら走り回っていた。接客、調理、片付け、呼び込み――休む暇など一切ない。


 特に目立っていたのは、女子たちに半ば強制的にメイド服を着せられたルカだった。


「いらっしゃいませ、ご主人様……」


 ぎこちなく言うたび、女子たちが悲鳴のような歓声を上げる。


「ルカくん可愛いー!」

「写真いい!?」


 本人としては地獄でしかない。


 それでも、その効果は絶大だった。ルカが表に立つたびに客が増え、売上は右肩上がり。気づけばクラスの人気出店ランキング上位に食い込んでいた。


 だが、その代償は大きい。


 営業終了後、一組の面々は机に突っ伏し、完全に燃え尽きていた。


「……し、死ぬ……」

「足がもう動かない……」

「文化祭ってこんな過酷だったっけ……」


 ルカも椅子にもたれながら深いため息をつく。


 しかし、彼にはもう一つ問題があった。


(明日は父さん母さんたち来るんだよな……)


 なんとしても、メイド服姿を見られるわけにはいかない。


 そう考えたルカは、恐る恐る女子たちへ交渉を持ちかけた。


「あの……明日、少しだけ抜けたりとか……」


 だが返ってきたのは、にこやかな笑顔だった。


「いいよ?」


 一瞬希望が見えたルカだったが、次の言葉で崩れ落ちる。


「その代わり、メイド服のまま一組の看板持って外で集客ね!」


「……くそぉぉぉぉ!!」


 教室中にルカの叫びが響き、女子たちは大爆笑したのだった。


学園祭2日目は


 午前中で屋台営業は終了し、午後からは演劇やバンドなど、ステージ発表が中心となる。



初日の夜

ブラック寮では、翌日のバンド演奏に向けた最終確認が行われていた。


 楽器の音が廊下まで響く中、ルカは舞台裏で照明機材の確認をしていた。


真面目に作業を進めていると、後ろからカシャッという音が聞こえる。


 振り返れば、マリアとアリスが怪しい笑みを浮かべながら写真を撮っていた。


「……何してるんですか?」


 ルカが嫌な予感を覚えながら聞くと、マリアは胸を張って言った。


「これね、売り出すのよ!」


「……はい?」


「なんて言ったって、学園祭で出た利益は寮内の費用になるんだから!」


 得意気なマリアの横で、アリスもこくこく頷いている。


 よく見れば、部屋の隅には大量のグッズが積まれていた。


 缶バッジ、キーホルダー、写真集、ミニポスター――。


 しかも、その完成度が異様に高い。


「これ全部……手作りですか?」


「エディの木魔法と土魔法で型作ってるからね〜。量産も余裕!」


 プロ顔負けの出来栄えに、ルカは思わず感心した。


「すごい金策だ……」


 だが、次の瞬間。


 見覚えのある写真が視界に入る。


「……って、これ!?」


 そこに写っていたのは、満面の笑みで接客するメイド服姿の自分だった。


「これはやめてくださいよ!!」


 慌てて回収しようと手を伸ばす。


 しかし――。


 パキッ。


 足元に氷が走った。


「っ!?」


 アリスが無表情のまま氷魔法を発動していた。


「これはかなりの儲けが期待できますので」


 スゥ……と冷気が漂う。


「絶対に、おやめください」


 普段穏やかなアリスとは思えないほどの迫力に、ルカは完全に固まった。


「……はい」


 逆らえば終わる。


 本能的にそう理解したルカは、乾いた返事をすることしかできなかった。


 その様子を見て、マリアたちは満足そうに笑う。


 ブラック寮の学園祭ビジネスは、どうやら想像以上に本気らしい。


それも、そのはずだった。


 ブラック寮は、他の寮に比べて圧倒的に古い。


 壁には細かなヒビが入り、廊下の照明は時々点滅する。談話室のソファは何度も修繕された跡があり、机や椅子もガタつくものばかりだ。


 さらに問題なのは――寮生たちである。


「この前また訓練場の壁壊れたんだって?」

「うん。ビル先輩とレオ先輩の模擬戦で」


「……ああ」


 ルカは遠い目をした。


 ブラック寮は戦闘狂や魔力出力がおかしい者が多い。


 結果、備品は壊れる。


 壁も壊れる。


 時には床まで吹き飛ぶ。


 しかし修理費は有限だ。


 そのため、寮では慢性的な資金不足に悩まされていた。


「だからこそ!」


 マリアがビシッとポスターを掲げる。


「今回の学園祭は本気の金策なのよ!!」


 机いっぱいに並べられたグッズを前に、マリアの目は完全に商人のそれだった。


「見て! 缶バッジ! ブロマイド! 限定アクリルスタンド! さらに特典付きセット販売まで完備!」


「いつの間にこんなに……」


 ルカは若干引きながら呟く。


 しかもクオリティが高い。


 エディの木魔法で細かい型を作り、土魔法で加工。さらに魔法加工によって耐久性まで高められている。


 もはや文化祭レベルではない。


「今回うちのバンドメンバーはかなりのビジュアルメンバー!」


 マリアが得意気に胸を張る。


「本気で売り出すよ!」


 その言葉に、ブラックの面々も盛り上がる。


「レオ先輩の写真とか秒で売れそう!」


「アクアとかファン増えるんじゃない?」


アリスは無言で新しい写真を並べ始めていたその時だった。


 談話室の扉が開く。


「……なんか騒がしいな」


 入ってきたのはレオだった。

マリアかすかさず魔導カメラを取り出す。


「レオ先輩!ちょうどいいです!」

「新しい撮影お願いします!」


「は?」


 事情を知らないレオが眉をひそめる。


 だが、アリスも逃がさなかった。


「ブラック寮復興計画のため。」


「またろくでもないこと考えてんな……」


 そう言いながらも、レオは半ば諦めたようにため息をつく。


 すると今度はオーランドまで現れた。


机いっぱいのグッズを見た瞬間、レオが引き気味に後退る。


「え、何これ」


「学園祭資金回収計画」


「言い方怖」


 しかし、そんなレオを見たマリアの目が輝いた。


「あ、オーランド先輩ちょうどいい!」

「新作ブロマイド撮りましょう!」

「笑顔ください!」


「えぇ!?」


 あっという間に囲まれるレオとオーランド。


 逃げようにも、すでにアリスの氷が床を塞いでいた。


「逃走は認めません」


「怖い怖い怖い!!」


 談話室は爆笑に包まれる。


 その光景を見ながら、ルカは静かに思った。


(ブラック寮って、ほんと自由すぎる……)


 だが、不思議と嫌ではなかった。


 騒がしくて、無茶苦茶で、いつも何か問題が起きる。


 それでも皆が笑っていて――どこか温かい。


 そんな空気が、ルカは少しだけ好きになり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ