学園祭
そして——学園祭当日。
朝早くから学園中が熱気に包まれていた。
色とりどりの装飾が校舎を彩り、廊下には呼び込みの声が飛び交う。
「焼きそばいかがですかー!」
「演劇、まもなく開演です!」
「限定スイーツありますよー!」
いつもは静かな学園とは思えないほどの賑わいだった。
そんな中。
1年1組の教室では、開店前から大騒ぎになっていた。
「ルカ!じっとして!!」
「リボンずれた!」
「待って髪直すから!」
「もう十分だろ!?」
教室の奥で、ルカは女子たちに囲まれていた。
そして数分後——
「完成っ!!」
女子たちが一斉に歓声を上げる。
そこにいたのは、もはや“男子生徒”とは思えないほど完成度の高いメイド姿のルカだった。
黒を基調としたゴシック・ロリータ風のメイド服。
胸元には大きなリボン。
スカートには幾重ものフリル。
袖や裾には繊細なレースがあしらわれている。
さらに髪まで丁寧に結われ、小さなリボン飾りまで付けられていた。
ぱっちりした目元と整った顔立ちも相まって、女子たちの力作は恐ろしい完成度を誇っている。
教室が一瞬静まり返る。
そして——
「……やば」
「可愛すぎる」
「これ反則だろ」
男女問わずざわついた。
女子たちは満足げに頷き合う。
「こりゃ看板娘だな!」
「ルカ一人で売上の半分いけそう!」
「絶対お客さん来るって!!」
本人だけが、なんとも言えない顔をしていた。
「……全然嬉しくない」
頬を引きつらせながら呟く。
それもそのはず。
今日は学園祭。
つまり——保護者も来る。
そしてルカの両親も学園へ来る予定だった。
(終わった……)
ルカの頭の中は、そのことでいっぱいだった。
(なんとしても見つからないようにしないと……)
メイド姿を両親に見られる未来だけは避けたい。
必死に“どう隠れるか”を考えているその横で。
「どう?似合う?」
アクアがくるりとターンを決めた。
執事服だった。
黒を基調とした上品な燕尾服に白手袋。
金色の装飾が入ったベストまで着こなし、背筋を伸ばして立つ姿はまるで本物の貴族執事である。
女子たちが騒ぐ。
「アクアかっこよ……」
「似合いすぎでしょ」
「王子様じゃん」
男子たちは若干悔しそうだった。
「くそ、何着ても似合うなこのイケメン……」
「顔が強い」
「理不尽だろ」
しかし当の本人はかなりノリノリだった。
「お嬢様、お席へどうぞ」
わざわざポーズまで決めている。
「なんでそんな乗り気なんだよ……」
ルカが呆れたように言うと、アクアは楽しそうに笑った。
「せっかくの学園祭だし?」
「楽しそうだなお前は……」
対照的な二人だった。
教室内を見渡せば、他のクラスメートたちもそれぞれ個性的な格好をしている。
王道メイド服の女子。
華やかな和服姿のサラ。
バニーガール衣装にされて騒いでいる男子。
なぜか着ぐるみを着せられている者までいた。
「前見えねぇ!!」
「頑張れマスコット!」
「暑いぃぃ!!」
朝から教室は笑い声で溢れていた。
そんな騒がしい空気の中。
ルカは鏡に映る自分を見て、深くため息をつく。
(頼むから……誰にも見つかりませんように……)
だが。
その願いが叶わないことを、ルカはまだ知らなかった。
「それじゃあ開店しまーす!!」
1年1組の教室に、元気な声が響き渡る。
扉が開かれると同時に、待っていた生徒や来客たちが一斉に流れ込んできた。
「うわ、すご!」
「本格的じゃん!」
「メイドかわいい!!」
教室はあっという間に賑やかになる。
そんな中、ルカは半ば諦めたような顔で接客を始めていた。
「い、いらっしゃいませー……」
棒読みだった。
しかし女子たちは満足そうに頷く。
「うんうん、可愛い!」
「もっと笑って!」
「無理だって!!」
そんなやり取りをしていると、入口付近がざわついた。
「生徒会役員だ」
「うわ、本物!?」
「セドリック様いる……!」
教室内の空気が一瞬で変わる。
学園でも圧倒的な人気を誇る生徒会役員たちが姿を現したのだ。
だが、ルカは気づいていなかった。
目の前の接客に必死で、そこに“兄”がいることを。
「いらっしゃいませー。メニューどうぞ」
いつものように差し出し、顔を上げた瞬間。
そこにいた人物を見て、ルカの動きが完全に止まった。
「……」
「……」
黒髪の青年。生徒会の腕章
整った顔立ち。ブルーのネクタイ。
圧倒的な存在感。
そして見慣れたその瞳。
兄セドリック マーフィーだった。
「ルカ」
静かな声が落ちる。
ルカの顔色が一瞬で変わった。
「せ、セドリック兄様ーーー!?!?」
教室中の視線が集まる。
セドリックはそんな周囲など気にも留めず、ルカをじっと見つめた。
そして真顔のまま言う。
「とてもよく似合っておるぞ」
「……っ!!??」
ルカの顔が一気に真っ赤になる。
「い、いやこれは!!違くて!!これにはわけがありまして!!」
慌てて弁解するルカ。
しかしセドリックは静かに頷くだけだった。
「まさかお前にこういった趣味があったとはな……」
「違うって言ってますよね!?」
「まぁ、楽しめよ」
そう言いながら平然と席につき、メニューを選び始める兄。
ルカは限界だった。
「〜〜〜〜〜っ!!」
羞恥で顔を真っ赤にしたまま、教室の隅へ移動し、そのままうずくまる。
「終わった……人生終わった……」
「ルカ大丈夫!?」
「顔真っ赤だよ!?」
クラスメートたちは大爆笑だった。
生徒会役員たちも完全に面白がっている。
クラスメイトは肩を震わせ、アクアはは笑いを堪えきれていない。
そしてアリスは——
カシャッ。
こっそり写真を撮っていた。
「今の永久保存ですね」
「アリスさん!?」
「安心してください、門外不出です」
「信用できない!!」
そんな騒ぎのあとも、1年1組の人気は凄まじかった。
特に——ルカ。
「すみません、あの子いますか?」
「黒髪のメイドさん!」
「写真いいですか!?」
「あっちの席空いてる!?」
完全に看板娘状態である。
女子たちは大喜びだった。
「やっぱりルカ効果すごい!!」
「売上やばいんだけど!」
「過労死する……」
ルカ本人は休む暇もなく働かされていた。
「ルカー!注文!」
「次こっち!」
「はいぃぃ……」
半泣きで接客している。
そんな中、教室の外が再びざわつき始めた。
「え、ミスターコン結果出たって!」
「誰優勝!?」
「リアム先輩らしい!」
「やっぱりかぁ……!」
その名前に、アクアが苦笑する。
「やっぱり出てたね」
「兄様絶対優勝すると思ってた……」
「そのうちここにも顔出したりしてねー」
アクアが軽く笑いながら言った、その直後。
「よう!ルカ、アクア!」
聞き覚えしかない声が教室に響いた。
「「……え?」」
入口に立っていたのは——
リアム マーフィー本人だった。
会場が一瞬で悲鳴に包まれる。
「リアム様ぁぁ!?」
「本物!?」
「ミスターコン優勝者!!」
だがリアムは周囲など完全に無視していた。
「リアム兄様!?ミスターコンは!?」
ルカが驚いて聞くと、リアムは爽やかに笑う。
「優勝したからさっさと抜け出してきた!ルカがメイド姿って聞いてさ!」
「抜け出してくるな!!」
そして次の瞬間。
リアムは懐から魔導カメラを取り出した。
「ダッシュで来たんだ!頼むよー!」
「嫌な予感しかしない!!」
カシャカシャカシャカシャッ!!!
凄まじい速度で写真を撮り始める。
「ルカこっち向いて!!」
「やだ!!」
「お願い一枚だけ!」
「もう撮ってるだろ!!」
「その嫌そうな顔も可愛いなぁ!」
「兄様ぁぁぁ!!」
逃げ回るルカ。
追いかけながら写真を撮るリアム。
周囲の生徒たちは完全に祭り状態だった。
「尊い……」
「兄弟仲良すぎでは?」
「ルカくん可愛い……」
アクアはその様子を見ながら、呆れたように笑う。
「……ほんと、愛されてるよね」
そしてルカは思う。
(今日は絶対厄日だ……!!)




