エドワードとの対人訓練 決着
立ち込めていた煙が晴れ、無傷のルカの姿が現れた瞬間。
演習場の空気がどよめいた。
「防いだ……!?」
「直撃したと思ったのに……!」
星壁結界の淡い光が静かに消えていく。
その様子を見ながら、アルクは小さく目を細めた。
「……やはりな」
隣でアクアが息を呑む。
「先生……?」
「罠が何ヶ所も仕掛けてある」
アルクは冷静に言った。
「ルカもそれを理解した上で、あえて挑発に乗ったのだろう」
視線はエドワードの足元、周囲の地面、魔力痕を見ていた。
「恐らく、この調子でまだまだ仕掛けが作動していくぞ」
演習場に緊張が走る。
一方ルカは慎重に周囲を見渡していた。
星空の帳の中では、わずかな魔力の揺らぎも感じ取りやすい。
(……あと何個ある)
地面。
壁際。
木々の陰。
至る所に違和感があった。
だが守っているだけでは勝てない。
ルカは静かに杖を構える。
「――星光弾」
星のような光弾が一直線にエドワードへ放たれる。
だがエドワードは余裕の笑みを崩さない。
巨体を揺らしながら最小限の動きで回避した。
「遅ぇんだよ!」
ルカは構わず連続で星光弾を放つ。
一発。
二発。
三発。
次々と夜空を裂く光。
しかしエドワードは読み切っていた。
火魔法による加速を使いながら、ギリギリで回避していく。
避けられた星光弾は演習場周辺の木々や地面へ突き刺さった。
その場所に、淡い星光だけが静かに残る。
エドワードは気づかない。
ただ嘲笑う。
「当たんねーよ!」
と言い、杖を振り上げる。
「ファイアーボール!!」
巨大な火球が一直線に飛来した。
ルカは即座に回避へ動く。着地したその瞬間。
足元が赤く光った。
「っ……しまった!」
ガシャン!!
地面から魔力鎖が飛び出し、ルカの足へ巻き付く。
完全拘束。
逃げ場がない。
エドワードの口元が歪んだ。
「終わりだ」
アクアが顔色を変え叫ぶ。
「ルカ!!」
アルクも一瞬だけ身体を動かしかけた。
だが――。
ルカの瞳はまだ死んでいなかった。
「――六つ目」
静かな声。
拘束された状態のまま、ルカは最後の星光弾を放った。
エドワードは当然のように回避する。
「はっ、無駄――」
その瞬間だった。
演習場各所へ撃ち込まれていた星光弾が、一斉に輝き始める。
一点。
二点。
三点。
六つの光が線で繋がった。
空中へ浮かび上がる巨大な――六芒星。
「なっ……!?」
エドワードの表情が凍りつく。
ルカは静かに呟いた。
「星導結界――起爆」
次の瞬間。
轟音。
六芒星が眩い光を放ちながら超巨大爆発を巻き起こした。
ドォォォォォンッッ!!!
夜空そのものが弾けたかのような閃光。
演習場全体が揺れる。
爆炎と星光が渦を巻き、凄まじい衝撃波が広がった。
「ぼっちゃま!!」
叫び声と共に飛び込んだのは執事のレイだった。
爆発寸前、エドワードを抱きかかえて強引に飛び退く。
間一髪。
直撃だけは避け切った。
煙が晴れていく。
そこには尻餅をつき、腰を抜かしたエドワードの姿があった。
顔は青ざめ、身体は震えている。
先程までの余裕など跡形もなかった。
ルカは鎖に繋がれたまま、静かにエドワードを見つめる。
「……どうだ」
低い声が響く。
「お前がミカイルにやったことは、こういうことだったんだぞ」
エドワードは返事をしない。
いや、できなかった。
放心したように目を見開き、ただ震えている。
それほどまでに、死を間近に感じたのだ。
だが。
本来なら今の爆発は、あの程度では済まなかった。
ルカは最初から威力を極限まで抑えていた。
全力なら、演習場そのものが吹き飛んでいたかもしれない。
レイはエドワードを庇うように前へ出ると、深々と頭を下げた。
「ルカ様……この度は、ぼっちゃまが大変ご迷惑をおかけしました」
その声には本物の後悔が滲んでいた。
「ご主人様も、長男様も……そして私ども使用人も、今まで甘やかし過ぎました」
レイは静かに目を伏せる。
「どうか本日は、退散させていただきます。後日ミカイル様にも、クラスの皆様にも改めて謝罪の言葉を申し上げます」
そう言うと、レイは未だ震えるエドワードを抱きかかえた。
エドワードは去り際、一瞬だけルカを見た。
その目には怒りではなく――明確な恐怖が宿っていた。
やがて二人は静かに演習場を後にした。
残された取り巻きたちは視線を逸らし、気まずそうに俯いていた。
一方で。
周囲のクラスメートたちからは次第に拍手が起こり始める。
「すげぇ……!」
「ルカ勝ったのか……!」
「夜魔法やばすぎるだろ……!」
ミカイルも震える声で近づいてきた。
「ルカくん…ありがとう」
その言葉には、確かな救われた気持ちが込められていた。
次の瞬間。
「ルカぁぁぁ!!」
アクアが勢いよく飛びついてくる。
「お前ほんっと無茶しすぎ!!」
「ぐっ……!」
その衝撃でルカが少し顔をしかめた。
足元を見ると、鎖が食い込んだ部分から血が流れている。
「っ……こんなの……!」
アクアは涙目になりながら魔力を込めた。
グシャァッ!!
重力で強引に鎖を破壊する。
「泣くほど心配しなくても……」
「するに決まってんだろ!!」
本気で怒鳴るアクアに、ルカは苦笑した。
そこへアルクが近づいてくる。
「怪我は」
「……大丈夫です」
アルクは足の傷を見ると、小さく息を吐いた。
「後で治療を受けろ」
そして演習場全体を見渡し、低い声で告げる。
「本日の授業はこれで終了だ」
ざわついていた生徒たちが静まる。
「各自、教室へ戻れ」
その声と共に、生徒たちは少し興奮した様子のまま歩き始めた。
だがルカだけは静かに夜空の消えた演習場を見つめていた。
手応えはあった。
だが同時に――。
まだ夜魔法の底が見えていないことも、強く実感していた。




