エドワードとの対人訓練
演習場には朝の冷たい風が吹き抜けていた。
広大な石造りの訓練場では、既に各ペアが距離を取り始めている。魔力がぶつかり合う独特の緊張感が空気を震わせていた。
そんな中、エドワードは不敵な笑みを浮かべながらルカへ振り返る。
「逃げんなよ?」
その声には、明確な悪意が滲んでいた。
ルカは静かに周囲を見渡す。
足場。
壁。
地面。
不自然なほど戦いやすそうに整えられた位置。
(……やっぱり)
前回、ミカイルを追い詰めた時と同じ。
恐らく既に何か仕掛けてある。
魔力の流れが微かに歪んでいる場所も感じる。
だが――。
(それでも)
ルカはゆっくり息を吐く。
自分の夜魔法が、エドワードのような実力者にどこまで通用するのか。
それを確かめたい気持ちもあった。
危険なのは承知の上。
それでも、ここで逃げるつもりはなかった。
「場所は任せるよ」
その言葉に、エドワードの口元がわずかに吊り上がる。
「物分かりがいいじゃねぇか」
やがて中央へ立ったアルクが低い声を響かせる。
「――戦闘開始」
その瞬間。
演習場の各所で一斉に魔力が弾けた。
炎。
風。
水。
様々な魔法が飛び交い始める。
アクアもまたクラスメートとの戦闘へ入っていたが、明らかに集中しきれていなかった。
(ルカ……)
視線が何度もそちらへ向いてしまう。
相手の攻撃を避けながらも、意識は半分以上ルカの方へ向いていた。
一方、アルクは全体へ視線を配りながらも、僅かにルカとエドワードの方を意識しているようだった。
その時。
エドワードが杖を肩へ担ぎながら笑う。
「始めようか」
次の瞬間――。
エドワードが地面を蹴った。
同時に。
ルカの瞳が夜色へ染まる。
「――夜魔法」
静かな声。
黒い魔力が足元から広がった。
「星空の帳」
瞬間、景色が塗り替わる。
演習場一帯が夜へ沈んだ。
青白い星々が空へ浮かび、足元には幻想的な星光が広がる。
まるで本物の夜空の中へ閉じ込められたかのような空間。
周囲の生徒たちが思わず息を呑む。
しかしエドワードは動じない。
むしろ獰猛に笑った。
「面白ぇ……!」
豪華な装飾が施された杖を振り上げる。
「ファイアーボール!」
巨大な火球が唸りを上げて飛来する。
さらに間髪入れず――。
「ファイアーアロー!」
無数の炎の矢が星空を裂いた。
ルカは瞬時に身体を動かす。
火球を回避。
矢の隙間を抜ける。
だが。
(……違う)
違和感。
攻撃が微妙に逸れている。
わざと外しているような軌道。
(誘導してる……!?)
気づいた時には遅かった。
回避行動そのものが、特定の地点へ追い込まれていた。
ルカがある地点へ踏み込んだ瞬間――。
地面が赤く光る。
「っ!?」
次の瞬間。
ドゴォォォォンッ!!!
凄まじい爆炎が演習場を揺るがした。
地面が吹き飛び、炎と衝撃波が荒れ狂う。
悲鳴が上がる。
「ルカァァ!!」
叫んだのはアクアだった。
既に対戦相手を重力魔法で拘束し終えていたアクアは、ルカの戦闘を見守っていた。
その目の前で起きた大爆発。
理性より先に身体が動く。
膨大な重力魔力が右腕へ集中する。
「グラビティ――」
その瞬間。
「やめろ」
低い声。
アルクの手がアクアの肩を掴んでいた。
「っ……先生!!」
「落ち着け」
アルクの目は煙の向こうを見据えていた。
「……まだ終わっていない」
アクアは歯を食いしばる。
だがアルクの声には確信があった。
煙がゆっくりと晴れていく。
そして――。
そこには。
無傷のルカが立っていた。
淡い星光が周囲を包み込んでいる。
「……星壁結界」
ルカの周囲には、夜空のような半透明の障壁が展開されていた。
爆発の衝撃を完全に遮断した証拠に、衣服一つ焦げていない。
星々が静かに瞬いていた。
エドワードの笑みがさらに深まる。
「へぇ……」
そしてルカもまた、静かにエドワードを見据えていた。
夜空の中、二人の魔力が激しくぶつかり合おうとしていた――。




