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ルカ・マーフィーは夜魔法の継承者  作者: 如月


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31/97

エドワードとの対人訓練

 演習場には朝の冷たい風が吹き抜けていた。


 広大な石造りの訓練場では、既に各ペアが距離を取り始めている。魔力がぶつかり合う独特の緊張感が空気を震わせていた。


 そんな中、エドワードは不敵な笑みを浮かべながらルカへ振り返る。


「逃げんなよ?」


 その声には、明確な悪意が滲んでいた。


 ルカは静かに周囲を見渡す。


 足場。


 壁。


 地面。


 不自然なほど戦いやすそうに整えられた位置。


(……やっぱり)


 前回、ミカイルを追い詰めた時と同じ。


 恐らく既に何か仕掛けてある。


 魔力の流れが微かに歪んでいる場所も感じる。


 だが――。


(それでも)


 ルカはゆっくり息を吐く。


 自分の夜魔法が、エドワードのような実力者にどこまで通用するのか。


 それを確かめたい気持ちもあった。


 危険なのは承知の上。


 それでも、ここで逃げるつもりはなかった。


「場所は任せるよ」


 その言葉に、エドワードの口元がわずかに吊り上がる。


「物分かりがいいじゃねぇか」


 やがて中央へ立ったアルクが低い声を響かせる。


「――戦闘開始」


 その瞬間。


 演習場の各所で一斉に魔力が弾けた。


 炎。


 風。


 水。


 様々な魔法が飛び交い始める。


 アクアもまたクラスメートとの戦闘へ入っていたが、明らかに集中しきれていなかった。


(ルカ……)


 視線が何度もそちらへ向いてしまう。


 相手の攻撃を避けながらも、意識は半分以上ルカの方へ向いていた。


 一方、アルクは全体へ視線を配りながらも、僅かにルカとエドワードの方を意識しているようだった。


 その時。


 エドワードが杖を肩へ担ぎながら笑う。


「始めようか」


 次の瞬間――。


 エドワードが地面を蹴った。


 同時に。


 ルカの瞳が夜色へ染まる。


「――夜魔法」


 静かな声。


 黒い魔力が足元から広がった。


「星空の帳」


 瞬間、景色が塗り替わる。


 演習場一帯が夜へ沈んだ。


 青白い星々が空へ浮かび、足元には幻想的な星光が広がる。


 まるで本物の夜空の中へ閉じ込められたかのような空間。


 周囲の生徒たちが思わず息を呑む。



 しかしエドワードは動じない。


 むしろ獰猛に笑った。


「面白ぇ……!」


 豪華な装飾が施された杖を振り上げる。


「ファイアーボール!」


 巨大な火球が唸りを上げて飛来する。


 さらに間髪入れず――。


「ファイアーアロー!」


 無数の炎の矢が星空を裂いた。


 ルカは瞬時に身体を動かす。


 火球を回避。


 矢の隙間を抜ける。


 だが。


(……違う)


 違和感。


 攻撃が微妙に逸れている。


 わざと外しているような軌道。


(誘導してる……!?)


 気づいた時には遅かった。


 回避行動そのものが、特定の地点へ追い込まれていた。


 ルカがある地点へ踏み込んだ瞬間――。


 地面が赤く光る。


「っ!?」


 次の瞬間。


 ドゴォォォォンッ!!!


 凄まじい爆炎が演習場を揺るがした。


 地面が吹き飛び、炎と衝撃波が荒れ狂う。


 悲鳴が上がる。


「ルカァァ!!」


 叫んだのはアクアだった。


 既に対戦相手を重力魔法で拘束し終えていたアクアは、ルカの戦闘を見守っていた。


 その目の前で起きた大爆発。


 理性より先に身体が動く。


 膨大な重力魔力が右腕へ集中する。


「グラビティ――」


 その瞬間。


「やめろ」


 低い声。


 アルクの手がアクアの肩を掴んでいた。


「っ……先生!!」


「落ち着け」


 アルクの目は煙の向こうを見据えていた。


「……まだ終わっていない」


 アクアは歯を食いしばる。


 だがアルクの声には確信があった。


 煙がゆっくりと晴れていく。


 そして――。


 そこには。


 無傷のルカが立っていた。


 淡い星光が周囲を包み込んでいる。


「……星壁結界」


 ルカの周囲には、夜空のような半透明の障壁が展開されていた。


 爆発の衝撃を完全に遮断した証拠に、衣服一つ焦げていない。


 星々が静かに瞬いていた。


 エドワードの笑みがさらに深まる。


「へぇ……」


 そしてルカもまた、静かにエドワードを見据えていた。


 夜空の中、二人の魔力が激しくぶつかり合おうとしていた――。

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