ブラックの始まり
背後で扉が閉じた音が、静かに響いた。
その瞬間。
「――ルカ!」
勢いよく響く声。
振り向いたルカの視界に飛び込んできたのは――
「やっぱり一緒だったー!」
アクア・フォーサイス。
茶髪の少年は、いつものように無遠慮な距離で詰め寄ってくる。
そのままルカの腕を掴んで、顔を覗き込んだ。
「遅いよ。ずっと探してたんだから」
明るくて、距離が近くて、遠慮がない。
でもそれは昔から変わらない。
初等部の頃からずっと一緒だった。
そして――
誰よりもルカのことを見ていた人間。
「……アクア」
名前を呼ぶと、彼は満足そうに笑った。
「ねえ、聞いて」
「もしルカと別のクラスだったら、この学園ぶち壊すところだったよ」
「……お前な」
軽く言っているが、冗談じゃない。
彼は重力魔法の使い手。
本気でやれば、この建物ごと歪ませることもできる。
「だって嫌じゃん」
アクアはあっさり言う。
「ルカいないとか、意味ないし」
肩をすくめる。
これがいつものアクアなのだ。
⸻
「……三人、か」
低い声が空気を切る。
先程の獣のような眼光をしたあの男だ。
その視線が、最後の一人へと向けられる。
ルカとアクアも、自然とそちらを見る。
そこにいたのは――
白髪の少女。
短く整えられたショートヘア。
透き通るように白い肌。
小柄で、どこか儚い。
目線は少し下がり気味で、声をかければ消えてしまいそうなほど静か。
「……」
少しだけ迷うように視線を上げる。
そして、小さく口を開いた。
「……よろしく、お願いします」
か細い声。
だがその奥に、確かな芯がある。
静かで、おとなしそうで――
でも、“弱い”わけではない。
むしろその逆。
(……この子も)
ルカは直感する。
ブラックに選ばれる理由が、必ずある。
⸻
「レオ ヘルキャットだ。このブラックの寮長だ」
少しの沈黙のあと。
レオがふっと空気を緩めた。
さっきまでの鋭さが消える。
まるで別人のように。
「……いいな」
「三人とも、問題ない」
そして、わずかに口元を緩める。
「歓迎する」
さっきとは違う声音。
今度ははっきりとした――
“受け入れ”の言葉。
「ブラッククラスへ」
⸻
案内された扉が開く。ブラッククラスの寮へ繋がっていたのだ。
中から、声が飛んできた。
「お、来たか」
「今年は何人?」
「三人か、今年はまだ多いな」
ラウンジには先輩たちがいた。
それぞれがこちらを見る。
鋭い視線。興味深そうな目。観察するような視線。
だが――
敵意はない。
「ようこそ」
一人が軽く手を上げる。
「ブラックへ」
それだけで十分だった。
歓迎は派手じゃない。
でも、確かにそこにある。
アクアが小さく笑う。
「……思ったより普通だね」
「普通じゃねえよ」
すぐに返される。
「ここは、“普通じゃいられなかった奴ら”の集まりだ」
その言葉に。
ルカの中の“夜”が、静かに揺れた。
物語は、ここから動き出す。当然のように。




