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ルカ・マーフィーは夜魔法の継承者  作者: 如月


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夜との対話

ブラッククラスの寮は、静かだった。


三階建ての重厚な建物。

外から見たときと同じく、どこか閉ざされた雰囲気がある。


だが中は違う。


温かい。


人の気配がある。


「部屋は二階だ」


レオが短く告げる。


「一年はそこ。個室だ、好きに使え」


それだけ言って、彼は去っていった。


案内された部屋は、思っていたより広かった。


簡素だが整っている。

机、ベッド、本棚。


窓の外には、学園の夜景が広がっていた。


ルカは荷物を置き、ベッドに腰を下ろす。


ようやく、一人になった。


静まり返った寮の一室。

荷物を解き終え、ベッドに腰を下ろしたルカの胸には、まだ消えない不安が残っていた。


「……はあ」


小さく息を吐き、天井を見上げる。


両親の顔が浮かぶ。


厳しい父。優しい母。


そして――兄たち。


誰もが“正統”だった。


兄たちは皆、優秀なクラスに所属している。

その中で、自分だけが“異質”であるかのような感覚。


(……ブラック、か)


その名前の重さを、ルカは理解している。


優秀な者が集まる場所。

だが同時に――


“普通ではない者”の集まり。


(……両親になんて伝えようか…)


胸が、少しだけ締めつけられる。


そのときだった。


コンコン――


扉がノックされた。


ルカは一瞬だけ身構える。


「……はい」


静かに返す。


扉が開いた。

そこに立っていたのは――


聞き慣れた低い声。

扉を開けると、そこに立っていたのは学園長——祖父、ゲイリー エンシミオだった。


「……祖父様」


「少し話をしよう」


部屋に入り、ゆっくりと椅子に腰を下ろす祖父。

その視線は厳しくも、どこか優しさを含んでいた。


「ブラッククラスに配属されたと聞いて、不安だっただろう」


ルカはわずかに目を伏せる。


「……はい。でも……少し、安心しました」


ぽつりと漏れた本音に、祖父は小さく頷く。


「安心した、か。それでいい」


そして少し間を置き、静かに言葉を続けた。


「お前が固有魔法を使えずに悩んでいたことも、エリス——お前の母から聞いていた」


ルカの肩がわずかに揺れる。


「お前の能力については、私も調べていた。だが……正直に言おう。わからないことがあまりに多い」


重く、しかし真っ直ぐな言葉だった。


「だがな——」


祖父の声が、ほんの少しだけ柔らぐ。


「ブラックの面々は、お前と似ている者が多い。

 魔力の扱いに悩む者、力をうまく制御できない者、自分の才能が見えない者……」


「それでも彼らは、逃げずに魔力と向き合っている」


ルカは顔を上げる。


「同じように悩む仲間と共に、お前も探せばいい。

 自分の魔力が何なのかを——な」


胸の奥に、ほんの少しだけ光が灯る。


「……もう一つ、伝えておくことがある」


そう言って、一つの箱を取り出した。


古びているのに、不思議と存在感のある箱。


「最近、これを見つけた」


「え……?」


ゆっくりと箱を開く。


そこに収められていたのは——一本の杖。


夜空を閉じ込めたかのような深い色。

星の光が、わずかに脈打っている。


「私も手に取ったが……何の反応もなかった」


祖父は淡々と言う。


「だがな、不思議なことに——」


一瞬だけ、祖父の目が細くなる。


「“お前に渡せ”と、感じた」


ルカの心臓が強く打つ。


「お前の魔力に関係するものかもしれん。だから、持ってきた」


差し出される杖。


それはまるで、最初から自分のものであったかのように——


ルカはゆっくりと手を伸ばす。


その瞬間、わずかに空気が震えた気がした。


「……」


祖父は何も言わず、その様子を見守る。


やがて、立ち上がり扉の方へ向かった。


「ルカ」


ドアの前で足を止める。



「おまえの頑張りを期待してるぞ」



その言葉だけを残して、祖父は部屋を後にした。


残されたのは、夜の気配と——

手の中で微かに輝く、星の杖。


そして、まだ名も知らぬ“夜の魔法”。



静寂。


ルカは、ベッドに腰を下ろす。


手には、星の杖。


(……夜魔法)


目を閉じる。


あの声を思い出す。


“夜”。


(どうやって、使うんだ)


問いかける。


だが、答えは返ってこない。


まだ、沈黙している。


ルカはそっと、杖を握り魔力を込める。


その瞬間――


光が走った。


「……!」


杖が、淡く輝く。


星のような粒子が、ゆっくりと浮かび上がる。


空気が変わる。


静かで、深い夜が広がる。


そして――


『──やっと』


声が響く。


あの声。


“夜”。


『やっと、本当の私の力が使える』


ルカの鼓動が強くなる。


光が強まる。


まるで応えるように。


『ここからだよ。君と私の――』


『本当の魔法は』



夜が、動き出した。

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