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ルカ・マーフィーは夜魔法の継承者  作者: 如月


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魔法書の試練

 自室へ戻ったルカは、机の上へ静かに魔法書を置いた。


 窓の外では夜風が木々を揺らし、月明かりが淡く部屋を照らしている。


 ルカは椅子へ腰掛けると、ゆっくりと魔法書へ手を伸ばした。


「……少し試してみるか」


 昼間のように共鳴するかもしれない。


 そんな期待を抱きながら、ルカは本へ魔力を流し込む。


 黒い魔力が指先から静かに流れ、本の表紙を包み込んだ。


 ――しかし。


 何も起こらない。


 昼間あれほど反応していた魔法書は、まるでただの古書のように静まり返っていた。


「……反応、しない」


 ルカは眉をひそめる。


 もう一度試す。


 少し魔力を強める。


 だが結果は同じだった。


 静寂。


 本は沈黙したまま。


 ルカは小さく息を吐き、椅子へ背を預けた。


(まだ足りないのかもしれないな……)


 アリスの言葉が脳裏をよぎる。


 “魔法書には解読するためのピースが必要”


 もしかすると、自分にはまだその条件が揃っていないのかもしれない。


 魔力量。


 知識。


 あるいは夜魔法そのものへの理解。


 足りないものは、きっとまだ沢山ある。


「……明日、図書館に行ってみるか」


 古代文字について調べよう。


 アーサー先生にも相談してみよう。


 あの人なら、何かわかるかもしれない。


 そんなことを考えながら、ルカは机へ突っ伏した。


 疲れもあったのだろう。


 瞼が次第に重くなっていく。


 そして――そのまま、静かに眠りへ落ちていった。


 気づかぬうちに。


 机の上の魔法書が、淡く蒼い光を放ち始める。


 同時に、部屋の隅へ立てかけられていた星空の杖も呼応するように輝き出した。


 まるで互いを確かめ合うように。


 二つの光は静かに共鳴し合っていた。


 だが、その異変にルカが気づくことはなかった――。




 翌朝。


 学園へ向かう石畳の道を、ルカ、アクア、そしてサラの三人が歩いていた。


 朝の空気は冷たく澄み切っており、学園の大きな時計塔が朝日を浴びて輝いている。


「へぇー、サラ最近特訓してるんだ?」


 アクアが感心したように言うと、サラは少し照れくさそうに頷いた。


「う、うん……今はヒューゴ先生と一緒に、魔力コントロールについて学んでるの」


「ヒューゴ先生?」


 ルカが首を傾げる。


「学園長から紹介されて、魔力コントロールを学ぶのに適任の先生みたいで…お世話になってるの」


「あと……ルカさんのお兄様のセドリックさんも、時々手伝ってくれてるの」


「え?」


 ルカの足がわずかに止まった。


 セドリック。


 長男であり、誰もが認める天才。


 幼い頃から、常に自分の遥か前を歩いていた兄。


 初等部、中等部、高等部――全てで生徒会長を務めた完璧な存在。


 風魔法、水魔法ともに一流。


 魔力操作においても圧倒的で、発動から制御までの速度は異常だったと兄たちから何度も聞かされてきた。


 努力だけでは届かない、“本物の才能”。


 それがセドリックだった。


(兄さんが……サラを)


 胸の奥が少しだけざわつく。


 憧れ。


 尊敬。


 そして――ほんの少しの嫉妬。


 自分でも説明できない複雑な感情だった。


 そんなルカの表情の変化に気づいたのか、アクアがすぐに明るく声を上げる。


「そ、そういえばヒューゴ先生ってどんな人なんだ?」


 空気を変えるようなその言葉に、サラは少し考えてから答えた。


「えっと……すごく無口で、ぶっきらぼうかな」


「うわ、怖そう」


「で、でも! すごく熱心に教えてくれるの。魔力の流れとか、暴走しそうになる前の感覚とか……細かく見てくれて」


 サラの声は以前よりずっとはっきりしていた。


 最初に出会った頃のような、おどおどした様子はあまり感じない。


 自信のない目ではなく、前を見ようとしている目。


 ルカはその変化に少し驚いていた。


(……変わったな、サラ)


 環境。


 出会い。


 支えてくれる人。


 そういったものが、人を変えていくのかもしれない。


 ルカは朝日に照らされる学園を見上げる。


 自分もまた、少しずつ変わっているのだろうか。


 魔法書。


 夜魔法。


 未知の力。


 そして、自分を先を常に歩き続ける兄の存在。


 様々な思いを胸に抱えながら、ルカは静かに歩き続けた。

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