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ルカ・マーフィーは夜魔法の継承者  作者: 如月


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サラの魔力

一方その頃――。


サラはアルクに連れられ、学園最上階にある学園長室の前へ来ていた。


重厚な黒扉には、金色の紋章が刻まれている。


この学園を統べる者だけが入ることを許された部屋。


サラは無意識に喉を鳴らした。


「緊張してるのか?」


隣でアルクがニヤリと笑う。


「は、はい……さすがに学園長なので…」


そんなやり取りをしていると、中から低く穏やかな声が響いた。


「入りなさい」


アルクが扉を開ける。


広々とした室内には大量の本棚と古代魔法陣、そして巨大な机。


その奥で一人の老人がゆったりと椅子に腰掛けていた。


第四十八代学園長――ゲイリー・エンシミオ。


長い白髪と深い皺。


だがその瞳だけは異様なほど鋭く、サラは一瞬で背筋を伸ばした。


「ほっほっ……そんなに固くならんでよい」


ゲイリーは優しく笑う。


「この学園には慣れてきたかね?」


サラは少し緊張した様子で答える。


「は、はい……でも、まだまだ慣れないことばかりで……迷惑かけてばかりです」


すると学園長は小さく頷いた。


「まだまだこれからじゃよ」


「沢山失敗して、沢山悩んで、そうして成長していく」


「焦る必要はない。ゆっくり進めばよい」


その穏やかな声に、サラの緊張が少しだけ解ける。


「……はい。ありがとうございます」


するとゲイリーは急に表情を崩し、楽しそうに笑った。


「そういえば、わしの孫が世話になってるみたいじゃな!」


「これからも仲良くしてやってくれ!」


「……え?」


あまりに砕けた口調に、サラは思わず目を丸くした。


学園長というからもっと厳格な人物を想像していた。


だが目の前の老人は、どこか孫自慢をする普通のおじいちゃんのようでもあった。


アルクは肩をすくめる。


「学園長、そういう話好きだからな」


「アルク、余計なことを言うでない」


ゲイリーは咳払いすると、空気を切り替えるように言った。


「さて、本題に移ろう」


その瞬間、部屋の空気が変わる。


サラも自然と表情を引き締めた。


「其方の魔力がうまくコントロールできていないと聞いた」


「以前から暴走が多々あったそうじゃな?」


サラは静かに頷く。


「……はい」


「色々な先生に見てもらいました」


「訓練も沢山しました。でも……」


そこで言葉が詰まる。


「暴走しては押さえ込んでを、何度も繰り返してました」


部屋が静まり返る。


ゲイリーは目を閉じ、何かを確信したように小さく息を吐いた。


「……そうか。やはりな」


そして机を軽く叩く。


「その件で、一人紹介したい人物がおる」


「この国でも最高峰の魔力制御技術を持つ男じゃ」


「これ以上の適任はおらん」


学園長は扉へ視線を向ける。


「――入りなさい」


扉が静かに開いた。


現れたのは、一人の白衣の男だった。


長身。


黒髪。


長い前髪で片目が隠れており、全体的にどこか陰のある雰囲気を纏っている。


白衣の下は黒を基調とした服装で統一され、その姿は研究者というより静かな暗殺者のようだった。


「ヒューゴ・パトリッチじゃ」


「魔法科学、魔法理論の教師であり、魔力制御と魔法解析研究の第一人者」


紹介されても、男はほとんど表情を変えない。


「……どうも」


返ってきたのは、それだけだった。


あまりにも無口。


サラは少し困惑しながらも慌てて頭を下げる。


「よ、よろしくお願いします!」


ヒューゴは小さく頷くだけだった。


すると再び扉が開く。


今度入ってきたのは、見覚えのある男子生徒だった。


整った立ち姿。


洗練された制服。


生徒たちの頂点に立つ存在。


「生徒会長のセドリック・マーフィーだ」


「ヒューゴ先生の補佐を務めている」


「よろしく頼む」


穏やかな微笑みを浮かべながら、セドリックは丁寧に礼をする。


その落ち着いた雰囲気に、サラも少し安心した。


ゲイリーは満足そうに頷いた。


「この二人に、魔力コントロールの基礎から応用まで学ぶとよい」


「必ず其方の力になるはずじゃ」


◇ ◇ ◇


その後、サラは二人に連れられ研究室へ向かうことになった。


アルクも当然のようについて来ようとしたが――。


「帰れ」


ヒューゴの一言で止められる。


「はぁ!? 冷たくねぇ!?」


「邪魔」


「ぐっ……!」


アルクは悔しそうに顔を歪めながらも、最終的には渋々帰っていった。


その後ろ姿を見送りながら、セドリックが苦笑する。


「ヒューゴ先生、アルク先生と仲悪いんだ。

ただ、無口だけど、仕事は誰より正確で早く、本当に頼りになる先生だよ」


そしてサラに優しく視線を向けた。


「僕もなるべく訓練を手伝うつもりだ」


「一緒に頑張ろう」


その穏やかな言葉に、サラはようやく肩の力を抜いた。


「……はい!」


研究室へ到着すると、サラは思わず息を呑んだ。


中は驚くほど綺麗に整理整頓されている。


壁一面の書物。


複数の魔導パソコン。


見たこともない解析装置。


そして奥には、


『訓練室』


と書かれた巨大な扉があった。


まるで国家機関の研究施設だった。


そんな中、ヒューゴは迷いなく一台の大型装置の前へ向かう。


「座れ」


短い指示。


サラは言われるまま仰々しい椅子へ腰掛けた。


「ここに手を当てろ」


透明な水晶板へ手を乗せた瞬間――。


機械が低く唸り始める。


無数の魔法陣が展開され、光がサラの全身を走査していく。


「うわっ……!?」


「動くな」


即座にヒューゴの低い声が飛ぶ。


サラは慌てて固まった。


数分後。


大量の数値を見ていたセドリックが目を見開く。


「……これは」


「かなりの魔力量ですね

正直、紫クラス程度だと思っていましたが……」


ヒューゴが淡々と呟く。


「……これは災害級だな」


その言葉に、サラの背筋が凍る。


さらに数分。


解析が終わると、ようやく解放された。


研究室のソファへ座らされ、ヒューゴがデータを見ながら説明を始める。


「お前の魔力量は異常だ」


「制御には極めて精密な操作が必要になる」


「少しでもコントロールを誤れば――」


ヒューゴは淡々と続けた。


「体内魔力が暴走・爆発する」


「肉体異常を引き起こし、外部へも制御不能な魔力放出が起きる」


「規模次第では災害級だ」


サラの顔が青ざめる。


そこまで危険だったのか。


今まで自分が起こしていた暴走が。


今まで何度も訓練してきた。


沢山の教師に教わった。


それでも改善しなかった。


だからこそ、藁にもすがる思いでこの学園へ来たのだ。


そして今――。


目の前には、この国最高峰の魔力制御研究者がいる。


サラは拳を握る。


そして深く頭を下げた。


「……これから、よろしくお願いします」


ヒューゴは静かにサラを見る。


長い前髪の奥で、その瞳だけがわずかに細められた。


「……ああ」


短い返事。


だがその一言には、確かな重みがあった。

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