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ルカ・マーフィーは夜魔法の継承者  作者: 如月


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悪意と視線

翌朝――


まだどこか昨日の余韻が残る空気の中、

ルカ、アクア、サラの三人は並んで教室へと向かっていた。


扉を開けた瞬間――


ざわり、と空気が揺れる。


一瞬で視線が集まり、そしてすぐに逸らされる。


……距離。


それはあからさまだった。


皆がどこか一歩引いている。

昨日の魔力暴走――その“記憶”が、教室全体に影を落としていた。


サラは小さく俯く。


その時――


「おい」


低く、棘のある声。


視線の先にいたのは、エドワード・ダグラス。


背後には、無言で控える執事。


ゆっくりとサラへ歩み寄ると、見下ろすように口を開いた。


「お前、魔力コントロールもできないのかよ」


教室の空気が、さらに冷たくなる。


「いくら魔力量があっても、使えなきゃ意味ないだろ」


薄く笑う。


「そんな危険なやつが、この教室にいるのが迷惑だって分かんねーのかよ。」


その言葉は、はっきりと教室中に響いた。


周囲の何人かも、同じような目でサラを見る。


恐れ。

嫌悪。

距離。


サラの指先が、ぎゅっと震えた。


その瞬間――


ガタンッ、と椅子の音が響く。


ルカだった。


ゆっくりと立ち上がり、まっすぐエドワードを見据える。


静かに、しかし確かな声で言った。


「昨日の先生、言ってただろ。俺らはさまだ未熟者なんだって。」


教室が静まり返る。


「強くなりたいからこの学園に来たんだろ。みんなは何しにこの学園に来たんだよ」


エドワードの眉がわずかに動く。


ルカは一歩も引かない。


アクアも口を挟む。


「それにさー」


「お前なんて、昨日――

アルク先生に一発も当てられなかっただろ」


ざわっ、と教室が揺れた。


「全部跳ね返されて、逆に攻撃食らってたくせに」


完全な沈黙。


エドワードの表情が固まる。


次の瞬間――


「……チッ」


舌打ち。


明らかに機嫌を損ねた様子で、視線を逸らす。


「……行くぞ」


短く言い放ち、執事を従えて自席へと戻っていった。


張り詰めていた空気が、ふっと緩む。


その直後――


「ルカ言うじゃん!」

アクアがニヤニヤしてこっちを見る。


「アクアだって…」

ルカは少し恥ずかしそうにうつむく。


その横で、サラが小さく顔を上げた。


まだ少し不安げな表情のまま――


「……ありがとう」


その声は、確かに届いた。


ルカは軽く頷き、アクアはにっと笑う。


「ほらな」


「一人じゃないって言っただろ」


サラの目に、わずかな光が戻る。


教室の空気はまだ完全には変わっていない。


けれど――


三人の間にあるものは、もう揺るがなかった。


静かに、しかし確かに。


その絆は、少しずつ周囲を変え始めていた。


教室のざわめきが、ふっと静まる。


――ガラリ。


重い扉が開き、アルクが姿を現した。


白のマントジャケットを揺らしながら教壇へと進むその姿に、空気が一気に引き締まる。


鋭い視線が教室全体を一巡した。


「……全員いるな」


短く確認すると、間を置かずに本題へ入る。


「実技試験の結果を、一人ずつ報告する」


その一言で、空気はさらに重くなる。


名前が呼ばれ始めた。


「――ルーク・デイビッド」


呼ばれた生徒は立ち上がり、緊張した面持ちで前へ出る。


アルクは淡々と評価を告げる。


良かった点、足りない点、今後の課題。


短く、的確に。


やがて名前を呼ばれた生徒はそれぞれ席へ戻っていく。


肩を落とす者。

拳を握りしめる者。

静かに決意を固める者。


反応は様々だった。


ふと、ルカは視線を横へ向ける。



エドワード・ダグラス。


――苦虫を噛み潰したような表情。

昨日の一件を引きずっているのか、明らかに機嫌が悪い。

ざまぁみろ…と思ったのはナイショの話。


そんな中――


「……ルカ・マーフィー」


呼ばれた。


ルカは静かに立ち上がる。


前に出ると、アルクは一瞬だけ目を細めた。


「……お前はもう分かってると思うが」


淡々と告げる。


「課題は明確だ」


「夜魔法との対話、操作、魔力増強、そして魔力コントロール」


教室の空気がわずかに揺れる。


「……以上だ」


短く言い切ったあと、少しだけ間を置く。


「お前については――」


視線が鋭くなる。


「アーサー先生に頼んである」


ルカの目がわずかに動く。


「固有魔法の授業の時間は、アーサー先生のところへ行け」


それだけ言うと、次へ視線を移した。


「戻れ」


ルカは静かに頷き、席へ戻る。


アクアが小さく声をかける。


「……やっぱり特別枠か」


ルカは肩をすくめるだけだった。


やがて――


「アクア・フォーサイス」


名前が呼ばれる。


アクアは少し緊張した様子で前へ出た。


だが――


話が進むにつれて、その表情がわずかに緩んでいく。


評価は――良い。


確かな手応え。


戻ってきたアクアは、小さく息を吐いた。


「……よかった」


ぽつりと漏らす。


その顔には、はっきりとした安堵が浮かんでいた。




そして――


「サラ・ベイリー」


静かに名前が呼ばれる。


サラはすっと立ち上がる。


昨日とは違う。


その目には、確かな意志が宿っていた。


前へ出る。


アルクと向き合う。


二人の間で、短いが真剣なやり取りが交わされる。


周囲には聞こえないほどの声量。


だが――


その空気だけで、ただの評価ではないことは伝わった。


やがて、サラは小さく頷き、席へ戻る。


ルカとアクアがすぐに視線を向けた。


「……どうだった?」


アクアが聞く。


サラは少しだけ迷うようにしてから、口を開いた。


「……先生を、一人紹介してくれるって」


その言葉に、二人の目がわずかに見開かれる。


「魔力コントロールの……専門の人、みたい」


ルカは静かに頷く。


アクアはニヤリと笑った。


「いいじゃん」


「ちゃんと対策してくれてるってことだろ」


サラは小さく息を吐いた。


その表情には――


昨日までとは違う、ほんの少しの“希望”が宿っていた。


教室の空気はまだ完全には変わらない。


けれど――


確実に、何かが動き始めていた。


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