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ルカ・マーフィーは夜魔法の継承者  作者: 如月


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密談

重厚な扉が静かに閉まると、学園長室には一層深い静寂が落ちた。


高い天井、壁一面に並ぶ古書、そして夜の光を映す大きな窓。

その中心に立つのは、学園長――ゲイリー・エンシミオ。


向かいにはアルク、そして腕を組んだまま静かに耳を傾けるアーサー。


アルクが一歩前に出る。


「――以上が、今日の一件だ」


低く、しかしはっきりとした声だった。


「サラの暴走は予想以上だったが……アクアとルカが抑えた。特にアクアだな。あいつはもう即戦力と言っていい。


その時――


再び扉がノックし、扉が開いた。


ゆっくりと現れたのは、ブラッククラス寮長――レオ・ヘルキャット。


紫がかった髪を揺らしながら、静かな足取りで室内へ入る。


「……話は終わってましたか?」


低く落ち着いた声。


アルクが肩をすくめる。


「いや、ちょうどいい。お前の話も聞きたいところだった」


レオは壁際に寄りかかるように立ち、腕を組んだ。


「なら手短にいかせてもらう」


その視線は鋭く、しかしどこか楽しげでもあった。


「試験前日、俺はあいつらの固有魔法を一通り見た」


一瞬、空気が引き締まる。


「……アクアは予想以上だ」


レオの口元がわずかに上がる。


「あいつ、完成度が高い。正直驚いたよ。エディとも普通に渡り合ってた――あの“木魔法”相手にな」


アルクが軽く眉を上げる。


「ほう……そこまでか」


「ああ」


レオは短く答え、続ける。


「それだけじゃない」



「ルカの魔法を見て――あいつ、はっきり言ったよ。“あれは危険だ”ってな」


アーサーの目が細くなる。


「……ほう」


「今日、わざわざ俺のところに来た

“ルカと対等でいられる力がほしい”ってな」


その場の空気が変わる。


「……覚悟の決まった目だった」


短い沈黙。


レオはゆっくりと続けた。


「だから俺が引き受ける」


はっきりとした声。


「アクアの強化は俺が見る。サポートにオーランドと――エディもつける」


アルクがニヤリと笑う。


「随分と豪華だな」


「当然だ」


レオは一切の迷いなく言い切る。


「任せてほしい」


その一言に、確かな重みがあった。


エドワードは静かに頷く。


「……頼もしいな」


レオは軽く視線を逸らし、次へ移る。



「それとルカだが」


「昨日は“発現”が限界だった」


アルクも続けて話す。


「だが今日は違う。実戦で使ってみせた」


ゲイリーの目がわずかに見開かれる。


「……ほう」


「間違いなく異常だ。成長速度も、質もな」


レオはわずかに間を置いた。


「だが――危険すぎる」


その言葉は重く沈んだ。


「制御を誤れば、周囲ごと消し飛ぶ可能性すらある」


静寂。


レオはアーサーをまっすぐ見た。


「だから預けるんだろう?」


アルクは小さく笑い、続ける。


「あれは“触れてはいけない領域”に片足を突っ込んでいる」


みなゆっくりと頷く。


アーサーは重く受け止めたように、


「責任を持って見よう。古代魔法の第一人者として。」


「助かる」


アルク、レオが安堵した様子でアーサーをまっすぐ見た。


ゲイリーは密かにルカの将来に期待をきていた。


そして、最後に――


「サラだ」


空気が再び張り詰める。


「昨日はビルと問題なくやれていた。安定していたな、あの時は」


レオは話す。


「だが今日で確信した」


アルクが声がわずかに低くなる。


「……あいつの魔法は“波”がある」


「不安定だ。振れ幅が大きすぎる」


ゲイリーが静かに目を伏せる。


「ビルも、俺も、それを実感している」


レオは腕を組み直す。


「制御できれば強力だ。だが一歩間違えれば――」


「暴走する」


その言葉に、誰も否定しなかった。


やがて――


アルクが小さく息を吐く。


「規格外の魔力量……あれは“力”じゃない、“災害”だ。コントロールが全てになる。もしまた暴走したら――抑えるには最低でも二人は必要だ」


アルクは舌打ち混じりに続ける。


「正直、俺とは相性が悪すぎる」


アーサーが興味深そうに目を細めた。


アルクは少し考える素振りを見せてから、口を開く。


「精密性に優れていて、なおかつ魔力量も高い……そういう奴なら一人いる」


一拍。


「ヒューゴ・パトリッチだ」


ゲイリーの視線がわずかに動く。


「……なるほど」


「ただし問題がある」


アルクは苦々しく笑った。


「俺、あいつに嫌われてる」


レオが小さく吹き出す。


「それは知っておる」


「俺の頼みはまず聞かない。だが――」


アルクはゲイリーを見た。


「学園長、あんたの頼みなら話は別だ」


静寂。


ゲイリーはゆっくりと頷く。


「引き受けよう」


アルクはさらに続けた。


「それともう一人……保険だ」


「……セドリック・マーフィーか」


即答だった。


アルクはニヤリと笑う。


「話が早いな」


「彼ほどの実力者なら、サラの暴走も抑えられる。水と風――あの制御力は群を抜いている」


そして、少しだけ声の調子を変えた。


「それに――ルカの兄だ」


レオが意味ありげに口元を上げる。


「……確かに。放っておくわけがないな」


アルクは肩をすくめる。


「本人は隠してるつもりらしいがな。生徒会からは報告が上がってる。“過保護すぎる”って」


ゲイリーが小さく笑った。


「良いことだ。家族を想う心は、力になる」


アルクは頷く。


「だからこそ、サラと関わらせるのは都合がいい。監視にもなるし、抑止力にもなる」


短い沈黙のあと――


ゲイリーが静かに告げた。


「……よし。ヒューゴとセドリック、両名に打診しよう。私から直接話す」


その声には、揺るぎない決定の重みがあった。


アルクは満足げに息を吐く。


「助かる」


アーサーが壁にもたれながら、軽く言う。


「これで大体の問題は片付いたか?」


アルクは腕を組み、少しだけ考える。


窓の外では、夜の学園が静かに息づいていた。


やがて――


「……いや」


低く、しかし確信を持った声。


「問題は“これから”だ」


ゲイリーの瞳が静かに輝く。


「新しい世代……特にブラッククラス。あの子たちは、いずれこの学園の“核”になる」


レオが口角を上げる。


「嵐の予感しかしないな」


アルクも同じように笑った。


「違いない」


そして――


学園長室に、わずかな沈黙が落ちる。


それは不安ではなく、

来るべき未来への――静かな期待だった。


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