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ルカ・マーフィーは夜魔法の継承者  作者: 如月


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新たな出会い

星空に満ちていた天井が、ふいに揺らいだ。


ルカの手に握られた杖が微かに震える。

次の瞬間――


パリン、と静かな音を立てて、夜空が弾けた。


無数の星が砕け、光の粒となって降り注ぎ、

やがてすべてが消えると、そこには元の石造りの天井が戻っていた。


静寂。


誰もすぐには言葉を発せなかった。


「……すごいじゃん」


最初に口を開いたのはマリアだった。

驚きと興奮が混ざった声。


ルカは杖を握ったまま、呆然と立ち尽くす。


「今の……俺が……?」


初めて扱った力。

自分の中にあったはずのない“何か”が、確かに動いた感覚。


胸の奥がざわつく。


「……」


周囲がざわめき始める中、

レオだけが静かにルカを見ていた。


そして短く言う。


「――訓練はここまでだ」


空気が一変する。


「ルカ、お前に会わせるべき人がいる」


その言葉には、普段とは違う重みがあった。


「古代魔法を多く知る人物だ」


ルカが顔を上げる。


「……お願いします」


即答だった。


その横で、アクアも一歩踏み出す。


「俺も――」


「来るな」


即座に遮られる。


レオの視線は鋭かった。


「これはルカだけの問題だ」


一瞬、空気が張り詰める。


アクアは言い返そうとして――やめた。


「……わかった」


小さくそう言って、拳を握る。



レオに導かれ、ルカは学園の奥へと進む。


普段はほとんど使われていない区域。

石の廊下は薄暗く、足音だけが響く。


やがて、一つの扉の前で足が止まった。


古びた木製の扉。


レオがノックもせずに押し開ける。



中は――


ひどく散らかっていた。


壁一面の本棚にはぎっしりと古書が詰め込まれ、

床にも積み上げられている。


黒板には複雑な魔法陣が何重にも書き込まれ、

一部は消され、また上から書き足されていた。


机の上は書類の山。

インク瓶、羽ペン、開きっぱなしの本。


とても整理されているとは言えない空間。


その中心に――


「……来たか」


白髪の長髪、眼鏡をかけた老人がいた。


そしてその隣に――


ルカは目を見開く。


「……え?」


見覚えのある顔。


「昨日ぶりだな」


軽く手を上げたのは、


ハジメ・トウドウだった。


レオが一歩前に出る。


「――ルカ」


視線で促され、ルカは部屋の奥へと足を進めた。


レオは白髪の老人へと軽く会釈する。


「紹介する。アーサー・ウィリアムだ」


一瞬の間。


「古代魔法に精通している人物であり、学園でも数少ない到達者の一人だ」


低く、はっきりとした声。


「この方が、お前の力を知るのに最も適任だろう」


ルカは思わず背筋を伸ばす。


老人――アーサーは、静かにルカを見つめていた。

その眼差しは穏やかでありながら、奥底まで見透かすようだった。





「……やっぱり来たね」


空気を崩すように、軽い声が響く。


ハジメ・トウドウが、椅子に腰掛けたまま口を開いた。


「僕はここで、古代魔法の魔法陣を研究してる」


机の上の書類を指で軽く叩く。


「見ての通り、ちょっと散らかってるけどね」


肩をすくめ、笑う。


「僕自身の魔法も古代魔法の一種で、アーサー先生と一緒に研究を進めてる」


少しだけ、表情が真剣になる。



コツ、と杖の先が床を叩いた。


アーサーが一歩前に出る。


「……アーサー・ウィリアムだ」


低く、落ち着いた声。


「古代魔法の研究と解析を主としている」


ゆっくりと、ルカの目を見る。


「君の力は――極めて興味深い」


ほんのわずかに、口元が緩む。


「そして、おそらく危険でもある」


言葉に重みがあった。


「これから長い付き合いになるだろう、ルカ」


静かに告げる。


「君の力が何であるのか――」


杖を軽く持ち上げる。


「共に、解き明かしていこう」



ルカは言葉を失ったまま立ち尽くす。


自分の中にあるもの。

それが“未知”だと、はっきり突きつけられた瞬間だった。


アーサーは軽く息をつくと、杖を床に預けた。


「……今日は挨拶だけにしておこう」


ルカを見て、静かに言う。


「焦る必要はない。むしろ、焦るべきではない力だ」


その言葉には、どこか含みがあった。


「また改めて、時間を取る」


それだけ言うと、視線を外す。


話は終わりだった。



研究室を出たあとも、ルカの胸の奥はざわついたままだった。


“未知の古代魔法”


その言葉が、何度も頭の中で反響する。


(……俺の力って、なんなんだ)


答えはまだ、どこにもなかった。



寮へ戻ると、談話室の灯りがついていた。


中では――


「……」


アクアが、落ち着きなく部屋の中を行ったり来たりしていた。


ソファに座っては立ち、また歩いて、時計をちらりと見て――


完全にそわそわしている。


そのとき、


扉が開いた。


「ただいま――」


言い終わる前に、


「ルカ!!」


勢いよく駆け寄ってきたアクアが、そのまま抱きついた。


「っ……!」


少しよろけるルカ。


アクアは顔を上げる。


うるうるとした目。


「大丈夫!?変なことされてない!?」


一気にまくしたてる。


「なんか怖い人いなかった!?無理やり魔法使わされたりとか――」


「ちょ、ちょっと待って」


ルカは思わず苦笑する。


「大丈夫だよ」


優しく言って、アクアの肩に手を置く。


「何もされてないし、ちゃんと帰ってきただろ?」


少しだけ、笑ってみせる。


その顔を見て――


アクアの肩の力が抜けた。


「……よかった……」


ぽつりと漏れる声。


けれど、完全には安心しきれていない。


ルカを見つめる目には、まだ揺れが残っていた。



(なんか……)


アクアは、言葉にできない違和感を抱いていた。


(ルカ、なんか……)


ほんの少しだけ。


ほんのわずかに――


遠くに行ってしまいそうな気がした。


理由なんてない。


でも、確かにそう感じてしまう。


胸の奥が、ざわつく。


「……」


アクアは無意識に、ルカの服の裾を少しだけ掴んだ。


離れないようにするみたいに。



ルカは気づいていない。


ただいつも通りに笑っているだけだった。


けれど、


その“いつも通り”が、


少しずつ変わり始めていることに――



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