夜魔法の作動
地下へ続く階段。
重たい扉を開けると、そこには——
古く、広い空間。
石造りの壁。
無数の魔法陣の痕跡。
長い年月が刻まれた、訓練場。
すでにそこには、レオとアリスの姿があった。
「来たか」
レオが低く言う。
「……準備はいいな」
その視線は鋭い。
「お前らの“固有魔法”を見せてもらう」
静かな緊張が走る。
「アクア」
「はい。」
「エディと戦え」
「了解ーい寮長!
アクアよろしくねー!!」
とエディが笑う。
アクアもそれに答えるように笑う。
「サラ」
「……はい」
「ビルに全力の力で攻撃せよ」
そして——
「ルカ」
一瞬、間が空く。
「……お前は」
ゆっくりと、告げられる。
「お前はこっちだ。その杖に少しずつ魔力を込めろ」
それだけだった。
⸻
それぞれが距離を取り、位置につく。
静寂。
そして——
「始めろ」
レオの一言で、空気が弾けた。
⸻
最初に動いたのは、エディ。
「いくよー!」
軽い声とは裏腹に、魔力が一気に膨れ上がる。
地面が震える。
——ドゴォォン!!
巨大な樹が突き破るように生え上がる。
幹は太く、空間を覆うほどの規模。
蔦がうねり、意志を持つかのように動く。
さらに——
「ほら、追加!」
ゴーレムが形成され、次々に出現する。
樹はさらに巨大化し、圧を増す。
⸻
それに対し、アクアが動く。
「グラビティホールド」
静かな声。
周囲の重力が歪む。
自身の周囲に結界のような重圧の層が生まれる。
蔦とゴーレムたちの動きが鈍る。
「効いてるね」
アクアが軽く笑う。
だが——
「まだまだ!」
エディが指を鳴らす。
ゴーレムたちが次々に巨大樹に吸収されさらに膨張。
強化された蔦が、一斉に襲いかかる。
⸻
一方。
「……いきます」
サラが両手を前に出す。
空気が冷え、水が集まる。
「ウォータースラッシュ!」
高圧の水刃が形成される。
一直線に——
ビルへ。
だが。
「……来い」
ビルは動かない。
炎が大剣に宿る。
轟くような熱量。
——ドォン!!
水と炎が激突する。
蒸気が爆発的に広がる。
だがビルは——
一歩も引かない。
「いいな」
低く、笑う。
⸻
そのすべての中で。
ルカはただ——
杖を握っていた。
星空の杖。
(……少しずつ)
ゆっくりと、魔力を流す。
不安定な感覚。
だが——
どこか“導かれる”ような感覚。
杖の先に、星の粒が灯る。
やがて——
光が広がる。
確実に。
⸻
異変に最初に気づいたのは、アリスだった。
「……?」
視線が上に向く。
レオも気づく。
「……ルカ」
そして——
空間が変わる。
地下のはずの天井が。
夜に染まる。
一面の星空。
無数の星が、ゆっくりと瞬いている。
まるで——
別の世界に入り込んだかのように。
⸻
戦闘が、止まる。
アクアも。
エディも。
サラも。
ビルも。
マリアも。
全員が——
動きを止めた。
そして。
ただ、見上げる。
⸻
静寂。
誰も言葉を発せない。
ただひとり。
ルカだけが、その中心にいた。
星の光に包まれて。
⸻
「……これは」
アリスが、かすかに呟く。
レオは何も言わない。
ただ——
わずかに口元を歪めた。
⸻
——夜が、選んだ。




