39顔合わせ
内装工事中 冬の午後
空は晴れているが風はまだ冷たい
道の駅の内装工事は順調に進んでいた
天井の配線はほぼ完了
壁の石膏ボードが貼られ
空間の区切りがはっきりしてきている
その日
一人の来訪者
「お忙しいところ すみません」
村立総合診療所の所長
白衣ではなく 厚手のコート姿
穏やかな初老の医師だ
私はヘルメットを手渡す
「こちらこそ ありがとうございます」
菫も一礼する
今日は見学という名の非公式ヒアリングだ
まだ完成していない売場スペース
床には区画を示すテープ
「ここが直売 こちらが軽食コーナーです」
菫が説明する 所長は静かに頷きながら歩く
そして 少し足を止める
「この奥は?」
「多目的スペースです 平時はイベント利用
災害時は一時受け入れ想定」
私が答える
所長は天井を見る
「電源は確保できますか?」
「非常用発電機を入れます
最低限の照明と携帯充電は可能です」
「水は?」
「井戸水と備蓄タンク」
所長は小さく息を吐く
「それなら 診療所と連携出来ますね」
三人は
まだ何もない多目的スペースの中央に立つ
「災害時 診療所は手狭になります」
所長が言う
「発熱患者や軽症者を
こちらに誘導出来れば 動線を分けられる」
菫が目を見開く
「診療所と連絡体制を作れますか?」
「ええ 平時から訓練しておけば」
私はゆっくり頷く
ただの観光施設やない
ここは 村の もう一つの機能 になる
所長は続ける
「高齢者が買い物ついでに
血圧を測れるコーナーを作るのもいい」
菫が反応する
健康相談の日を決めて
診療所の看護師さんに来てもらうとか」
「可能です」
会話は自然に広がる
直売と健康 食と医療
村の生活が 一本の線でつながっていく
外に出ると 冬の光がまぶしい
建物の外壁は完成し
看板の設置準備が始まっている
所長が言う
「道の駅は
ただ人を呼ぶ場所ではありません」
少し間を置いて
「人が戻って来られる場所です」
その言葉に
菫は静かに頷く
私は 建物を見上げる
守る場所が また一つ増える
菫はその夜 短い投稿をする
今日は村立診療所の先生と
内覧打ち合わせ
道の駅は 買う場所 だけでなく
支える場所 にもなります
#村の未来
コメントが入る
「健康イベント楽しみ」
「災害時の拠点は安心」
「ただの観光施設じゃないんですね」
小さな反応 でも 意味は大きい
空気の中に
わずかながら柔らかさが混じり始める
道の駅の内装工事は最終段階
床材が張られ
木目の壁が光をやわらかく受け止める
証明が一斉に点灯すると
空間は一気に 店 の顔になる
カウンターの高さを微調整
コンセント位置の最終確認
非常用電源の試験運転
「問題なし」
現場監督が親指を立てる
菫は
カフェ予定スペースに立つ
ここにコーヒーの香りが漂う
直売コーナーでは 棚が設置される
苺 みかん 梅干し わらび餅
名水プリン 黒米 赤米 鶏卵
まだ商品はないのに
もう並んでいる気がする
夕方
全照明が正式に通電される
パチン と音がして 空間が明るくなる
誰もいない建物 でも その明かりは温かい
私がゆっくり言う
「完成やな」
派手な完成式はない
ただ 空間が 機能する状態 になった
菫は
静かに深呼吸する ここまできた
数日後
完成した建物の中に 出店者たちが集まった
まだ商品は搬入されていない
空の棚と 整った床 そこに立つのは
みかん農家 苺農家
和菓子店主 軽食担当の夫婦
チャレンジショップ枠の若者
少し緊張した空気
私が前に立つ
「本日はお集まりありがとうございます
ここは皆さんの場所です」
菫が続ける
「一緒に作っていきましょう」
出店者たちの表情が 少し柔らぐ
みかん農家が言う
「正直 不安もあります」
和菓子店主が続ける
「でも やらんと何も変わらん」
若い出展者が言う
「村に残る選択が出来る場所にしたい」
その言葉に
菫は静かに頷く
壁に貼られた平面図
売場配置を確認する
動線の説明
営業時間の確認
災害時の協力体制
ここは観光だけではない
村の拠点 だ
診療所との連携 防災備蓄スペース
全員が少しずつ 意味を理解していく
会が終わる頃
窓から春の光が差し込む
空の棚が
まるで「待っている」ように見える
私は一歩下がり その光景を眺める
菫は出店者たちと話込んでいる
笑い声が少しずつ増える




