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この村の灯り  作者: 堺大和
38/42

38年明け

一月一日

夜明け前の空は 深い群青色だった

山の稜線がうっすらと浮かび

空気は刺すように冷たい 

神社の境内には

昨夜の年越しの余韻が残っている

焚火の火の炭が まだ少し赤い

村の人々は それぞれの家で

静かな朝を迎えていた


私は早く起き

村を見渡せる小高い場所へ向かう

遠くに 道の駅の建物が見える

外装が整い 冬空の下で凛としている

ここまできたな

東の空がゆっくりと明るくなる

太陽が山の端から顔を出す

その光が道の駅の屋根を最初に照らす

金色に光る鉄骨

私は深く息を吸う

「始まるな」

小さく 独り言

菫は神社へ初詣に向かう

参道には

村内で年越しをした作業員の姿もある

「おめでとうございます」

軽く会釈

賽銭を入れる 鈴をならす 手を合わせる

今年無事に開業できますように

願いは具体的だ でも 欲張りではない

参拝後

振り返ると建設中の建物が見える

元旦の光に照らされている

それは もう村の風景になっていた


一月五日

役場のふるさと振興課

正月の静けさ 仕事始めの空気が戻ってきた

机の上には 出店希望者の資料が並ぶ

現在の候補は

地元みかん農家の直売コーナー

苺 あすかルビー 古都華 の加工販売

名水わらび餅と和菓子店

軽食コーナー みそ鍋 あんバタートースト

カフェの併設スペース

小規模コンビニ型物販

そして 

さくらが関心を持っている

地元食材の商品開発コーナー

「採算性だけで決めると 

都会と変わらなくなる」

菫が言う

「でも理念だけでは回らない」

私が続ける 資料を見ながら

二人の慎重に選ぶ

ポイントは三つ

地元生産者との連携

災害時の物資供給機能

若者の雇用創出

議論は数時間に及ぶ 最終的に

直売と加工の複合型売場

地元軽食+カフェ

防災備蓄対応スペース

チャレンジショップ枠 若者向け

を正式決定

菫が一本目の電話をかける

「正式にお願いしたいと思います」

受話器の向こうから 少し震えた声

「本当にうちでええんですか?」

「はい 一緒にやりましょう」

電話を切った後

菫は小さく息を吐く

「決まりましたね」

私は頷く

「建物に 魂が入ったな」


窓の外には 冬の空

道の駅の建物が静かに立っている

もう箱ではないそこに人が入り

働き 笑い 悩む

村の未来が 少し具体的になった


一月中旬 凍える朝

朝の気温は氷点下近い

吐く息が白く広がる中

工事現場には再び活気が戻っていた

年末年始の休止期間を終え

内装工事が始まる日だ

シャッターを上げ 建物の中へ入る

外装は完成しているが

内部はまだ骨組みとコンクリート

広い空間に足音が響く

コン コン と工具の音が反響する

「今日から配線と断熱 同時進行」

現場監督が図面を広げる

私は頷く

「売場動線はここ

非常口と備蓄スペースの位置は変えずに」

安全・防災機能は最優先

ここは観光施設であると同時に

災害時の拠点でもある

壁の下地が立ち始める 天井の配線が走る

床の区画がテープで示される

ここが直売コーナー ここがカフェ

ここがチャレンジショップ枠

菫はそのテープの線を見つめる

ここに人が立つんや まだ空っぽなのに

もう人の気配を感じる

「この壁 木目出します?」

「ええな 温かみでる」

「カフェは光入るから 少し明るめで」

設計業者と現場のやりとりが続く

図面だったものが

現実の空間に変わっていく

私は一歩下がって全体を見る

箱は出来た 次は空気や

菫は内部を撮影する まだ何もない空間

でもそこにひかれた白い線


内装工事が始まりました

まだ空っぽの空間ですが

ここに人の声が響く日が近づいています

#道の駅建設中#内装スタート」

反応は早かった

「楽しみです」

「春が待ちと遠しいです」

「完成したら手伝いたい」

建物 から

場所 へと意識が変わってきている


夕方

職人たちが帰る 静まり返った内部に

私と菫だけが残る

「いよいよ中身ですね」

菫が言う

私は 空間を見渡す

「ここからが本番や」

箱を作るのは技術 中身を作るのは人

春まで あと数か月

外は寒い でも 建物の中は

少しずつ温もりを持ち始めていた


静かな決戦

二月の朝 空気はまだ冷たい

葵は 少し早めに目を覚ましました

目覚ましが鳴る前だった

天井を見つめる

布団の中で ゆっくり深呼吸をする

当たり前の朝は奇跡

今日も ちゃんと朝が来た

それだけで 少し心が落ち着く


制服ではなく 落ち着いた私服

髪をまとめ

受験票と筆記用具をもう一度確認する

バックの中 付箋だらけのノート

最後に少しだけ目を通す

循環器

感染対策

新生児の特徴

沐浴実習のときの感触を思い出す

手は やさしく

それは試験だけの知識ではない

それからの自分の仕事だ

会場前には

同じように緊張した表情の受験生

静かなざわめき 

葵は 空を見上げる 薄い冬の雲

村では 今頃朝の光があたってるかな

道の駅の建物を思い浮かべる

姉の菫の姿も 私は 私の場所で頑張る

「始めてください」

紙をめくる音が一斉に響く

最初の問題を読む

落ち着いて 呼吸を整える

一問ずつ 焦らず

患者の安全を最優先する対応はどれか

迷う選択肢

基本に戻る 鉛筆を動かす

時間は静かに流れる

途中 一瞬だけ不安がよぎる

これ あってる?

でも 手を止めない

実習の光景が浮かぶ 小さな赤ちゃんの模型

震える手 それでも支えた感触

私は できる

「やめてください」

鉛筆を置く ふっと 肩の力が抜ける

手のひらに少し汗

会場を出ると 冬の光がまぶしい

同級生が声をかける

「どうやった?」

葵は少し考えてから言う

「やれることはやった」

それは本音だった


連絡

スマホにメッセージ

さくらから

「どうやった」

葵は返信する

「終わった あとは待つだけ」

数秒後

「お疲れ様 絶対大丈夫や」

その言葉に 少し笑う

窓の外を流れる冬景色

合格発表までは 落ち着かんな

でも 今は少しだけ軽い

試験のために年越しをして

遊びも我慢して 机に向かった日々

それはもう 終わった

窓に映る自分の顔は 少し大人びている

私も 春に向かってる

遠くで夕陽が沈む

その光は 村の方角へのびている気がする


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― 新着の感想 ―
 堺大和さん、こんにちは。 「この村の灯り 38年明け」拝読致しました。  年明け。  山中、早起きして、道の駅の外装を遠くから眺めます。  常に俯瞰してみているイメージ。  始まるな、と呟きます…
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