少女の恋愛事情-2
「まだかな?」
俺たちは、シノリとミナがくるのを待っていた。
「…はあ」
ため息が聞こえ、その方向を見るとカホだった。
「どうかしたのか? カホ」
「…あ、クロマ。いや、ユナが『鬼岩城』を壊してしまったから、地上に出ても、しばらく戦えないなって」
「聖武器って、自然回復を待たなきゃなんねえからな」
「…うん。あと」
「なんだ?」
「…買い物、付き合って?」
「うん? あ、分かった」
「…ありがと」
「買い物したいって言ってたからな」
コクリ、とカホは頷く。
「けど、なんで俺なんだ? アタルでいいんじゃあないのか?」
「…アタル、方向音痴」
「まじで!?」
「…それに私は」
「カホ姉呼んだ? …って、なんでそんな怒ってんの?」
空気を読まず来たアタルをキッ! とカホは睨んだがすぐに
「…あ、ごめん。なんでもない」
しゅん。とカホは小さくなった。
「そう? なら、いいけど…あ、もしかして、俺、邪魔だった?」
「っ!?」
驚いて、カホはアタルの方をもう一度睨みつけていた。
にしても、邪魔? なんでだ?
「ふーん。ま、いいや。カホ姉頑張ってね」
「…バカ」
先輩の方へ立ち去ろうとするアタルに向かってそう、カホは言い放った。
「それにしても、アタルが言った、邪魔ってなんだ?」
「…あ、あのね、クロマ」
俯いているが確かにカホは顔を真っ赤にしていた。
「お、おう」
にしても紅いな。熱? いや、そう言ってきて、今まで、あの二人に散々やられたんだ。今日は最後まで聞こう。
「…私、クロマのこと」
カホはそこで口を閉じたが、顔を上げ、何かを決心したような顔でクロマを見つめて
「クロマのこと好きです」
と言った。…え?
「…く、クロマは?」
「お、俺は」
クロマは驚いていた。そりゃあ、なにか、雰囲気的なものが分からない訳じゃない。そう言われるとそういう雰囲気だった。けど、ほんとに言われるとなると、返さなきゃいけなくなる。よく考えて答えないと、どうなることか分かったものではない。けど、そんなこと以上に、この告白が、目の前のクサシジカホを必要以上に可愛く見せていたのは間違えなかった。
「お、俺、告白されたの生まれて初めてなんだ。だ、だから、なんて言ったらいいか、全然分かんなくて、だから、もう少し待ってくれ。地下を出る頃には答え、出しとくから」
「…うん。待ってる」
そう言って、静かに笑った。
そんな笑顔までも堪らなく可愛く見えた。
「いやー、青春だねえ。アタルくん」
遠巻きながら、先輩ことミドリカワエンとカホの弟であるクサシジアタルが事の始終を見ていた…もとい、聞いていた。
「ほ、ほんとですね。カホ姉が告白するなんて」
「本当だよね。重度の人見知りのカホが、出会ってすぐの男に恋して、告白なんてねえ。まあ、ただでさえ出馬が遅れてるから、巻き返すには今だろうし、追い抜くにも今しかないんだろうね」
「どういうことですか?」
「今、私たちが待ってる二人もまた、クロマに何かしらの感情を抱いてるだろうからねえ」
「ってことは、クロマさん、激戦区ですか」
「うん。まあ、カホの言葉を使うなら、補正かな」
「補正って、さっきも言ってましたけど、何ですか?」
「筆者が、好きか嫌いか」
「筆者?」
「ふふっ。君は知らなくていいことじゃないかな。時が来れば知れるさ」
「は、はあ」
「それに、来たみたいだよ? 二人」
「え? あ、ユナさん!」
「エンさんとアタルくん。すいません待たせてしまって」
「いやいや。謝んなくてもいいよ、ユナちゃん…それよりも、シノリは、どうしたの?」
「あー、シノリは、ほら、あそこに」
ユナが指差した方向には、クロマたちの方向だった。
三人で仲良さそうに喋っていた。
そんな三人を見て、ユナは微笑まずにはいられなかった。
「ユナちゃんは、平和が好きなのね」
「大好きです。平和で静かで、そんな日常が」
「なら、戦うのって苦手なのかな?」
「いえ。相手が人類の敵ですから」
「なるほどね」
それは、エンもかなり同意できるものだった。敵と思うことで切り捨てられる。
「…リュリュ」
「エンさん? 何か言いました?」
「いや。懐かしい友の名前を思い出してさ。リュウナっていう子でね」
「リュウナ?」
「うん。とーっても強かったんだけど、少し前に私が守れなかったせいで吸血鬼になってしまって。でも、私がすぐに殺した。リュリュはすでに敵だと思っていたから。でも、でも…私は後悔してる。人のために良かれと思ってやった。けど、今思うと助ける道もあったのかなってね」
「吸血鬼を人間に戻すってことですか?」
「うん。意外と進んでるんだよ? カホが研究してる。あの子はその点では天才だから」
「そうなんですか」
「ただ、成功してないから、ああなったわけで…あ、ごめん。聞いてなかったことにして」
「はい」
ユナは頷いたが、もしかして、と。思うことはあった。
ミナ。いるでしょ?
"珍しいね。ユナが話しかけてくるなんて"
もしかしてさ
"うん。そのもしかしてだろうね。血の欲求から解放される薬なんて、そりゃ、人体実験なしに作れるわけがないからね"
やっぱり。
「おう、ユナ!」
「あ、クロマ」
「出発しようぜ」
「うん」
地上に向けて、また、歩き出した。




