昔話
「私は、辺境の村に長の一人娘として生まれた。幼い頃から、帝王学を学ばされた。まあ、この容姿だったからね、両親は権力者と私を結ばせて、村のさらなる繁栄を図った。でも、そう上手くは世の中行かないのよ。私が十二歳の時、十数匹の吸血鬼が村を襲った。
一人、また一人と、殺されていった。村の人たちが半分以上殺されて、でも、吸血鬼は止めなかった。
逃げることも、あの身体能力相手では無理があった。父は村人を庇って死に、母は私を庇って死に、村人も私を庇って死んでいった。残りが私だけになった。そんな時だった。一人の男の人が助けてくれた。剣を二本持って、そうそう今のクロマみたいに。で、その人、とんでもない人でね、戦えるなら女子供関係なしで戦わせるって感じで、持ってる二本のうち一本を私にくれたの。それが、この『月夜見』なの。
結局、村は私を除いて全滅。だから、私はあの人に付いていった。私はあの人の元で強くなろうとした。
無茶苦茶だったよ。うん。およそ、三年くらいかな。みっちり稽古つけてもらってね。でも、あの人は死んだ。殺されたんだ吸血鬼の女王に。私がちょうどあの人が根城にしていた街で買い出しに行ってる時だった。大軍と共にあの女王は来た。逃げ惑う民、反撃の狼煙を上げる兵、泣き叫ぶ女子供。どれも、見たことあるものだった。
でも、やっぱり、先陣を切ったのはあの人だった。
完全に押されていた人間側もあの人の参戦でちょっとずつ、戦況を良くしていった。
後少し。でも、この時まだ聖武器はそんなに作られていなかった。天使たちも、まさか吸血鬼が人と戦争を始めようとしてるなんて考えてなかったもの。『月夜見』と、あの人のもう一つの武器は聖武器だった。でも、それしかなかった。最後、私とあの人その他諸々対、女王となった。女王は狂っていた。破壊による救済。度を超えた教徒化。え? 教徒化を知らない? もう、クロマはダメだなあ。学校で習わなかったの? 教徒化っていうのは、大概の場合、子供になるってことなんだけどね。駄々をこねだすの。破壊衝動とか、欲求の単純化。理知的な欲求は消え、壊し、消す。そこに人も吸血鬼も関係ない。ただ、目の前の生物を襲うだけ。これが教徒化。分かった? そう。なら良かった。まあ、それで、そんな狂った女王相手にして、結局負けた。死んだのは殆ど全て。そこにはあの人も含まれてた。私は無様にも生き残った。今思えば、あそこで死んでたら良かったのにね。死んでたら、もう少し今より楽だったかな。もしくは、あの人が生きてたら良かったのに…。あ、ごめん。つい、感傷的になったね。で、それから私は女王を殺すために、旅に出た。そして、強くなろうとした。そんな時だった。彼と出会ったのは。私が一つの街を吸血鬼から救った時、彼は私に弟子にしてくれと頼みこんできた。よく考えて、良いと言った。今思えば、一目惚れだったのかもしれない。その時にはもう私は彼を手放したく無かった。それから、剣も教えたし、生きる術も教えた。月日が流れ、彼は私のパートナーとなっていた。そして、私達は唇を…。まあ、そんなことがあって、結局、私は彼との間に子を授かった。名前は、アカリにしたの。女の子だったからね。私は…私達は幸せを手にしたはずだった。
それから、五年経ったある日、奴らは攻めてきた。既に、最強三大が確立されているぐらいに、聖武器が氾濫してた時代に。私はその時、家族と共にある街に居た。そこで、あ、これはクロマ習ったんじゃないかな。七年くらい前の、シエルって街に吸血鬼どもが大量に襲ってきて、街ごと消し去ったって事件。あれ? クロマ知らないの? 授業聞いてなかったとかじゃなくて? え? 授業でやってた? だってよクロマ。まあ、いいや。で、その事件で、私は、あの人みたく吸血鬼と戦った。
そして負けた。私は勝った。だけど負けた。大切なものを失った。彼は死んだ。アカリも死んだ。街も消えた。私は無様にも生き残った。あの時死んでいたら良かったと何度思ったことか。でも、私は、私の心は、本能は生きたいと言った。だから、生きた。
そして、今に至る。