狙撃手と、仲間。
「おいシノリ!」
シノリのいる民家の屋根のところまで上がって、シノリを呼んだ。
「くっ! クロマも早く逃げて!」
「何言ってんだよ! シノリも逃げんだよ!」
「だめ! 私はここでこいつと」
「いいから来い! 俺はお前の我儘でお前を失いたくないんだ! だから、聞いてられないんだよ!」
「じゃあ! こいつどうするの! この正体不明をどう処理するの!」
「うるせえぇぇ! いいか、お前は俺の仲間だ。なんと言おうと俺はお前を連れて行く。分かったか」
「絶望を味わうくらいなら、分からない方がマシなの! あれに殺された方が楽だよ。きっと」
「…そうか、でもな! お前がここで死んだら、物語は終わっちまう。お前は王将だ。そして俺が玉将。偽物が本物に挑むための物語のはずだ。俺はお前に勝たなきゃいけないんだ」
「な、何言って…?」
「ここで、シノリに死なれると困るんだ!」
「知らないよ!」
「…じゃあ、教えてやるよ。アレと戦ったところで、成るのは吸血鬼だぜ?」
いや、分かんねえけど。兎に角、シノリを逃がさないと、そう思って口が勝手に言った。
「え…? でも、あれは…吸血鬼?」
「選べ!」
急に大きな声を出したからか、ビクッとシノリは全身を震わせる。
「あれにやられて俺らと戦うか、今逃げて吸血鬼と戦うか。二つに一つだ!」
「…逃げない。私は絶対に」
「…シノリ!」
「でも、一人じゃ、あれには勝てそうにない。だから、これは戦略的撤退。に、逃げるわけじゃないからね!」
かわいい。不覚にもこんな場所で、こんな事態にそんな事を俺は思ってしまった。
「じゃあ、遅れたが逃げるぞ!」
「戦略的撤退ー!」
「悪い悪い」
村を抜け、通路に入った。
「シノリ!」
「分かった。共鳴せよ。『白猫』」
「先輩たちはどっちだ?」
「んー、こっち!」
「よっし! 走るぞ!」
ふと、後ろを振り向くと、闇が来ていた。
「くそっ。シノリ急げ!」
「十分急いでるよ!」
その時だった。左右を上下を闇が覆った。
「逃げないで」
突如、闇から声がした。
出処を探していると、闇が一箇所に集まりはじめ、やがて人となった。
「やっと会えた。ミヤノリクロマ」
俺は見知らぬ女性から名前を呼ばれ酷く驚いたが、見ると、シノリも驚いた顔をしていた。
「おっと、自己紹介がまだだったね。私はハセガワミユウ。円卓の騎士の七番目の人間さ」
「円卓の騎士…?」
「あれ? ここに来たってことは知ってるのかと思ってたけど、案外当てずっぽうでここまで来たのかな?」
「吸血鬼追ってきてたらここに」
「あー、あのヤクザみたいなあの子らね」
「ヤクザって…」
「じゃあ、私を追って来たわけじゃないんだね?」
「そうてすね」
「ふーん。なら吸血鬼化、止めよっか」
そういうと、ミユウは闇から剣を作り出した。
「終われ。『月夜見』。…ん、これで元通りのはずだよ」
その言葉に驚いて、表裏を抜くと、いつも通りの…って、正直、さっきとの違いが分からなかった。
「まあ、私にとって君たちは脅威じゃ無いし、話そうか? 色々と」
どうやら、そうだ。ミユウにとって、俺とシノリなんて、赤ん坊も当然なのだろう。小指一本ってか。
「いやいや、クロマ、そこまで行かないよ。そうだなあ、右手は使うよ。君たち二人と、奥にいる数人を含めて、ね」
「そう、ですか…」
読心術。それとも、武器の能力か?
「読心術で合ってるよ。まあ、学生の頃、少しかじったぐらいだけどね」
「それで、貴女は、何者なんですか?」
「私? 私は、ハセガワミユウ。人であり鬼である。少女であり母である。一であり全てである。有であり無である。主人公でありラスボスである。それが私さ」
「…?」
理解ができなかった。
「うーん。まあ、分かんなくていいよ。そのうち分かるさ」
「そのうち?」
「あ、そういえば、地上へ出るんだって?」
「はい」
「久しぶりに出てあげるかな…」
出てあげるって…。
「地上まで、連れてってあげるよ。私の身の上話でもしながらね」




