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拾った猫と転移したら聖女になりましたが  作者: はるくうきなこ


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4そう言われましても


 アリサはその日の午後面会を申し込まれた。

 アリサの部屋は王宮でも王族のプライベートのスペースになっている西の翼に近い場所にあった。いわゆる客間と言う場所らしい。中央は執務棟で東側は騎士団の本部があるらしい。

 神殿は王宮の裏手の小高い丘の上にあって聖女として働くようになれば日中は神殿に行く事になるらしい。

 とは言ってもアリサには特別な力があるようには思えないのだが。


 午後になると面会を申し込んできた令嬢がやって来た。

 名前はロージェンナ・フォンビュート公爵令嬢で彼女の父はこの国の宰相を務めているとっても偉い人だと聞いた。

 アリサの僅かな知識でも公爵令嬢は地位の高い存在という事は分かった。宰相が日本で言えば総理大臣の次に偉いポジションだろう。

 侍女のメイが案内して彼女は部屋に入って来た。

 アリサは用意して貰った淡い薔薇色のドレスを着ていた。黒髪で琥珀色の瞳のアリサによく似合っていた。コルセットはなくてもいいタイプで少し緩めなシルエットタイプなところが気に入って気分が良かったのだが。

 ロージェンナは美しい青色のドレスを着ていた。

 ドレス姿は板についているとばかりに颯爽と歩いてアリサの部屋に入ってくると見事なカーテシーをした。

 「お初にお目にかかります。フォンビュート公爵家のロージェンナと申します。聖女様にお会いできて光栄です」

 アリサは驚いてます立ち上がりよろけた。

 「いえ、とんでもありません。わ、私まだこう言う礼儀には慣れていなくて。申し訳ありません!」

 アリサはがばりとお辞儀をする。

 「まあ、そんな事当然です。どうかお気になさらず、どうぞお掛けになって下さい。ちょっと、お茶を!」

 ロージェンナはメイに目配せをして茶を持ってくるよう言い付けるが圧がすごい。

 「あの‥」

 アリサはロージェンナの気迫に引いた。

 「おほ、いえ、そこの、あなたよ。早くして!」

 「はい、すぐに」 

 メイが躓きそうになりながら慌てて部屋を出て行く。


 アリサは改めてロージェンナを見た。

 金色の髪は煌めきその瞳は薄いブルー。きっと王族の血が入っていることを思わせた。頭の上に耳があり彼女のきっと獅子獣人の系統に入るのだろう。

 それに目鼻立ちが整っていてすごく美人。おまけにボンキュッパ!の抜群のプロポーションだ。胸元からはち切れそうなものが覗き腰は折れそうなほど細い。尻尾は隠されているらしく見えない。

 (はぁぁぁ、すごっ!)

 ロージェンナはどさりとソファに腰を下ろすとさっと扇子を広げた。金色と青色の美しい扇子だった。


 「それにしても驚きましたわ。皆様、召喚術で現れたからと言ってまだ何の奇跡も起こされていない方を聖女様、聖女様と仰って。アリサ様もいきなりで驚かれたでしょう?」

 ジロリとアリサを見た。

 アリサは混乱しながらも返事を返す。

 「まあ、それは私も驚いてます」

 ロージェンナはすっと目を細めるとパチンと扇子を閉じる。

 「自覚はおありなのね。では、伺うけど、どうしてあなたが殿下の婚約者におなりになるの?事情もまだよくわからないまま、そんな大事な事を受け入れるなんてどうかしてますわ!あなたはまだこの国の事情を何もご存知ない事は私にも分かりますけれど。それにしても!」

 ロージェンナ様がアリサをじっと見る。

 「聖女様はご存知無いでしょうけど、私、これでも殿下の婚約者候補として長年殿下をお支えして来たんですのよ」

 (もう、さっきから何なの?私だっていきなり困ってるのに!)

 アリサは我慢出来なくて反論した。

 「あの、あなたは私が殿下の婚約者に選ばれた事を非難しに来たんです?でも、それは私のせいではありませんから」

 「まあ、失礼な!そのような事申し上げて訳ではありませんわ。私はただ、まだ事情も分からないままそんな大切な事を決められた殿下がお可哀想だと‥」

 彼女がアリサを睨みつける。

 (それを私に言ってどうしろと?ったく!)

 何だか腹がたってきた。

 「失礼ですけど、私だっていきなりこんな所に来て戸惑っているんです。事情も分からないまま殿下の婚約者に決まったと言われました。いいですか。私が決めた訳ではありません!殿下から決まったと言われたんです。一方的に!私だって困ってるんですから、そうやって私に怒りを向けるのは筋違いだと思いますけど」

 「まあ!!失礼な。私を誰だと!あなたのような人、殿下の婚約者だとは認めませんから。覚えてらっしゃい!」

 ロージェンナ様の頭のてっぺんの髪の毛が逆立っている。かなり怒り心頭らしいがそんな事知らない。

 「ですが、そう言われましても、私だって困ってるんです。そこまで言われるならあなたの力でこの婚約を取り消して下さい!」

 「まっ、ぁぁぁぁぁ!!失礼するわ!」

 ロージェンナ様は立ち上がるとドレスを持ち上げ思いっきり向きを変えた。ドレスの裾がふかふかの絨毯すれすれに揺らいで彼女の身体がほんの少し傾く。

 「危ない!」

 アリサは咄嗟に手を出す。

 バチン!

 「触らないで!」

 ロージェンナ様がアリサの手の甲を扇子で叩くとくるりと身を翻した。裾のレースが幾重にも重なったドレスがかさりと音を立ててそのまま扉の向こうに消えて行った。

 アリサの手の甲が赤く膨れ上がる。

 (もぉ、どうして私に当たるのよ〜!)


 メイがお茶を持って来た。

 「お客様は?」

 「帰ったわ」

 「アリサ様、その手は?まあ、大変、私すぐ冷たい水を持って来ます」

 「ありがとうメイ」


 メイは急いで冷たい水を持って来るとタオルで腫れた手の甲を冷やしてくれた。

 思わず目と目が合う。

 「お可哀想に、こんなに腫れて」

 「まあ、メイ、そんなに心配してくれてるの?ありがとう」


 「何かあったのか?」

 アンドリューが入って来た。すぐにアリサが手を冷やしている事に気づく。

 「どうした?」

 「フォンビュート公爵令嬢が来られてアリサ様の手を」

 メイがアリサの冷やした手を見せた。

 アンドリューは怪訝そうに眉を寄せて大きなため息を吐いた。

 「これはひどい。申し訳ありません聖女殿。誤って済むことではありませんが、実はあの令嬢は前から殿下に付き纏っていて婚約者候補の一人でもあったんです。きっと聖女の召喚が成功して王家は聖女と殿下を結婚させる事に決めた事に反感を持っているんでしょう。何百年か前にも聖女は王族と結婚したと文献にも書いてあったので今回の事は覆る事はないでしょう。でも、彼女からすれば好きな男を奪われて気持ちのやり場が無かったのかもしれません。いえ、だからと言って聖女殿に文句を言うのは筋違いです。私からも殿下に報告しておきます。フォンビュート公爵家には厳重に抗議をしますので安心して下さい」 

 アンドリューは痛々しい腫れた手を見てアリサを見つめた。


 (アンドリュー心配してくれるの?何だか虎太郎みたい。いや、もう違うから)

 アリサは脳内で急いでそんな考えを否定した。

 「ア、アンドリュー様、気にしないで下さい。こんなのすぐに治りますから」

 アリサはまだアンドリューが虎太郎だった頃との気持ちの切り替えがうまく出来ていない。でも、彼は猫ではなく獣人なんだ。気安く話してはいけないと自分を諌めた。


 「いや、そう言うわけには行きません。すぐに聖女殿の部屋の前に護衛兵を配置します。面会は私も同席しますのでどうかご安心を」

 「良かったですね。アリサ様。アンドリュー様は第二王子でもあるんです。だから彼に任せておけば大丈夫です」

 メイのほっとする声がした。

 「アンドリューが第二王子?アンドリューが?王子?」

 「はい、ですがお母様が低い御身分で彼は肩身の狭い思いをされたそうです。レオンハーク殿下は一見お優しそうですが、アンドリュー殿下の事は嫌ってらして‥あっ、私余計ん事を、聖女様今の話は聞かなかった事にして下さい」

 メイが慌てて口を塞ぐ。

 「ええ、心配しなくていいわ。誰にも言わないから、でも、また教えてねメイ」

 メイは急いで手当を終えると目を伏せて出て行った。


 (そうだったんだ。アンドリューが第二王子。じゃ、あまりアンドリューに優しくされると辛いな。だって私は虎太郎が大好きだったから、もしかして今でも彼は私を好きでいてくれるのかと勘違いしそうになるもの。アンドリューの事はキッパリ諦めなきゃ)

 








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