3いきなり王太子の婚約者
アリサは王宮に案内され部屋に通された。
気付いた時にはふかふかのベッドに寝ていた。ベッドは天蓋ベッドって言うものだろう。天井にはキラキラのシャンデリアがあって大きな窓には厚手のカーテンがあった。
「気付かれましたか?」
アリサに声をかけたのは侍女のメイという女性だった。メイは耳が長く髪色はピンク色で可愛いかった。
「あの、ここは?」
「はい、ここは王宮です。聖女様は召喚の儀でお疲れになったようで馬車から降りられる前に気を失われたとお聞きしています。それでこちらに運ばれて一晩眠ったままでした。今は翌日のお昼です。何かお飲み物をお持ちします。それから殿下に意識が戻ったと知らせますので」
「はい、すみません」
「お気になさらず。私は聖女様のお世話をする事になったメイを言います。困った事があれば何でも仰って下さい」
「メイさん。ありがとうございます。あの、あなたはもしかしてうさぎ獣人ですか?」
動物好きのアリサは思わずそんなことを尋ねた。
「はい、うさぎ獣人は体は小さいですがこまめで穏やかな性格なので、侍女や侍従御者や厩係などをしている者が多くおります。聖女様、どうか私の事はメイとお呼び下さい。ガルシア国はあなたを歓迎しております。どうかご安心下さい」
「よろしくお願いします」
アリサはどうやらこの状況を受け入れる以外に選択肢は無さそうだと思った。
しばらくするとメイが温かい紅茶を持ってきた。一緒にサンドイッチもありアリサはベッドに座ってそれを少しずつ口にいれた。どうやら食べる物は西洋風の食べ物と似ている。ハムにチーズなど慣れ親しんだものが入っていた。ただ、マヨネーズはなくてバター風味のサンドイッチって感じだった。
「失礼する」
レオンハーク殿下がアンドリューと一緒に入って来た。
「レオンハーク殿下。アンドリュー様」
「具合はどうだ?」
殿下は最初に見た正装ではなく、上着とズボン姿だった。日本で言えばスーツみたいなものだろうか。それでも袖口や襟元には金糸の刺繍が散りばめてありボタンは宝石みたいだ。
アンドリューも転移した時は白い布を巻きつけた姿だったが今は殿下と同じような上着とズボン姿で髪の後ろで纏めていて殿下の後ろに控えていて尻尾は昨日みたいに大きく揺れていないみたいであまりよく見えない。
しかしあの姿、思い出せばかなり恥ずかしい格好だったんだと思う。
(虎太郎がアンドリューだったなんて今でも信じられない。似ているのは茶トラの髪くらいなのに)
「はい、すみません。心配をおかけして、でも、大丈夫です。ただ、まだ現実について行けなくて」
「ああ、それは無理もない。そうだ。君はアリサと言うのか?」
「はい、西野アリサと言います」
「ああ、アンドリューから聞いた。アンドリューは向こうの世界では猫の姿だったと聞いた。アリサが助けてくれたとも。私からも礼を言う。さすがは聖女様だ。なあ、アンドリュー」
「はい、俺も驚いてます」
「そんな、私は捨てられた猫を助けただけで」
レオンハークに目がすっと鋭くなる。
「聖女殿と呼んでも?」
「聖女‥」
「まだ来たばかりで慣れないのはわかる。でも安心して欲しい。君の生活は私が保障する。食べ物や着るものこれから神殿で聖女として祈りを捧げてもらう事になるがまずはゆっくりして貰おうと思っている。何か困った事があればいつでも言ってくれ。いいね?」
そうでなくても整った顔立ちで優しい風貌の殿下の顔が打って変わったように柔らかになり目尻に皺が寄った。でも、髪はかなりの量で背中まで波打つように流れている。
(何だかすごい破壊力)
「私が聖女殿の護衛になりましたので困った事があったら何でも言って下さい」
アンドリューの獣人の姿が逞しく顔つきはどちらかと言えばワイルドっぽい感じで人懐っこい雰囲気は残っている気がするけど何だか他人行儀な感じがした。
(知らなかったとは言え私、虎太郎には相当スリスリとかキスとかしまくってたなぁ。もう、やだ!)
「ありがとうございます。なんて言うかまだアンドリューが虎太郎だったって信じれなくて‥」
「無理もありません。困った事はいつでも言って下さい聖女殿」
アリサは思わず掛け布団を顔に引き上げる。
「わ、わかりました。あの、その聖女殿って言うのはちょっと‥」
「いや、日本にいた時とは状況が変わりましたのであなたを名前で呼ぶわけにはいかなくなりました。すみませんが慣れて頂くしかありません」
「そう、ですよね。すみません」
アリサはそう言うしかなかった。そしてレオンハークにチラリと視線を向けると彼はアンドリューを睨みつけていた。
(うわ、この人働いていた会社の上司みたい。部下が偉そうにするとすごく嫌な顔で睨んでたよね。あっ、そうか。レオンハークは殿下でアンドリューはその部下だから私と気安くしてるのが気に入らないって事なんだ。でも、アンドリューが八つ当たりされても可哀想だしね)
アリサは咄嗟に殿下の方を見てにっこり微笑んだ。
「聖女殿、何かあったら言ってくれ。では、ゆっくり休むといい」
「ありがとうございます」
殿下が最後にそう言って二人は部屋から出て行った。
そして翌日さらに驚く事が起きた。
アリサはレオンハーク殿下に呼ばれて彼の執務室に行った。
「呼び出して済まない。実は聖女殿守るためにもと君を私の婚約者にする事になった。元々聖女が現れると聖女の力を王族の子孫に残すため王族と結婚する事がほとんどなんだ。これは君を守る為でもあるが王国の為でもあるんだ。申し訳ないが受け入れて貰うしかない」
「そんな事言われたって、無、無理です。私が殿下の婚約者なんて!」
「いや、これは君や私の意思は関係ないんだ。済まないが受け入れてくれ」
「そんな事言われても‥」
レオンハーク殿下と一瞬目が合うが彼が目を逸らした。
(もしかして嫌なの?だったらやめようよ〜)
転移二日目にして王太子の婚約者が決定した。




