1思えば三ヶ月前
思い返せば三ヶ月前
その日もいつものように働き蜂のように忙殺の営業課の仕事を終えて自宅に向かっていた。アリサは都内の食品メーカーで働いている。会社に入って五年目で二年前営業部に配属されたが、元々人とのコミニケーションが上手くないアリサには営業に仕事はほぼ無理。そんな訳で仕事は主に営業マンの管理業務。聞こえはいいがいわゆる便利屋だ。
疲れた身体で途中のスーパーで値引きになった惣菜と明日の朝のパンを買っていつものように自宅への近道になる児童公園の中を通った。
雨が降っていた。
いつもは真っ直ぐに突っ切るけど雨を避ける為に公園のトイレの横を通る。ふと見るとベンチの下に震えながらうずくまっている小さな毛玉が見えた。
西野アリサの両親は動物好きで生まれた時からアリサの家には猫がいた。
今でこそ両親が事故で亡くなり一人で暮らすアパートでは猫を飼えなくて寂しい思いをしていたし、数日前には大学の時からずっと付き合っていた彼に新しい恋人が出来て別れを告げられたばかりだった。
辛くて今夜も一人寂しく部屋で過ごすのかと思っていた時に、アリサの目の前にこの状況。
身体中がふわふわの癒しを求めていた。
もう、放っておける訳がなかった。
「どうしたの?捨てられたのかな。もう、最低!ニャーごめん。君の事じゃないよ。さあ、恐くないからおいで‥」
ゆっくり手を差し出すと子猫はビクッとしたが、時間をかけて子猫をベンチに下から出した。そっと膝の上に乗せて怪我がないか確かめる。
後ろ脚から出血があったが大した怪我ではなさそうだった。
「怪我してるね。痛い?お腹も空いてるよね?病院で手当してもらった方がいいかな?それが終わったらミルク飲もうね」
今日も課長に取引先の資料のミスで散々こき下ろされ完璧に落ち込んでいたアリサはやっと気分が上がった。
雨に濡れた茶トラの毛はピッタリと皮膚に張り付いて小さな体がさらに小さく見えた。
アリサは持っていたハンカチで子猫をくるむとそっと手の平で包み込んだ。
子猫は一度も鳴かない。
アリサは家の近くに動物病院があったことを思い出すと急いで動物病院に向かった。
診療時間は過ぎていたがすごく優しい先生で時間外なのに診てくれた。
「発見が早かったから、怪我も大した事は無さそうだし点滴もしておいたからおそらく大丈夫でしょう。もし何かあれば明日連れて来て下さい。これは抗生物質の薬です。スポイドで一眼盛りを飲ませて下さい」
「ありがとうございます」
「いや、君がいて良かったな。子猫ちゃん。じゃ、お大事に」
先生は優しい眼差しで見送ってくれたがしっかり治療費は取られた。痛いけど仕方ない。
そうして子猫とアリサの共同生活が始まった。名前は虎太郎。全身が茶トラの子猫だった。
数日は子猫を段ボールに入れて外に出れないようにしておいた。最初はミルクをスポイドで飲ませた。やがてエサも食べるようになり部屋の中で遊ぶようになり夜は一緒に眠るようになった。
成長は早く二週間もすると一気に大きくなり成猫ほどの大きさになったのは驚いた。
きっとご飯を食べていなかったせいでこの猫はすでに生まれて数ヶ月が経っていたのだろうと思った。
虎太郎は話が分かるのかと思うほど賢かった。
捨てられた彼の事はすぐに考えなくなって行った。
かわりに、虎太郎にその日に出来事を話すようになった。
大学であったことやバイト先で可愛がっていた犬が売れて少し寂しいと言えば擦り寄って来て慰めてくれたり、心無い店のお客さんの話をすると一緒に怒ったり、それに猫の餌より人間の食べ物が好きで肉を焼けばクンクンしておねだりして困らせたりして、まるで人間みたいだった。
アリサは大学とバイト以外はほとんど虎太郎と過ごすようになった。元々友人も少なく人付き合いもあまり好きな方ではなかったし、元彼と顔を合わせるのも気まずかったのでちょうど良かった。
アリサの愛は虎太郎に注がれた。
寝る時はもちろん一緒だし、キスだってしまくった。裸姿だって何度も見ている。
虎太郎はアリサにとって癒しだった。
それが獣人だったなんて!もう、早く言ってよ!!




